表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/59

懐古第一話:【沈黙】無彩色の宣告 ― 踏みにじられたペン先

聖クロイツ学園の北棟、地下深くにある「魔導鑑定室」。

そこは、若き魔導師たちの未来を、無機質な水晶の輝きだけで選別する残酷な「処刑場」でもあった。

室内を支配するのは、凍てつくような静寂。

部屋の中央に置かれた巨大な魔導水晶の前に、シュウは立っていた。

彼が水晶に手を触れた瞬間、投影されたのは、血のようにどす黒い赤色をした、歪な文字列だった。

【魔物喰い:成長限界 F(最低ランク)】

「……ふむ。やはり、な」

鼻を鳴らすような声。

教壇に立つ主任教官、バルガスが、眼鏡の奥の瞳を冷酷に細めた。

彼は手元の名簿に、まるで汚物を処理するかのような手つきで大きな「×印」を書き込んだ。

「シュウ。魔物の肉を喰らわねば魔力を得られぬというその性質……およそ文明人の持つべき『スキル』ではない。それはただの呪いだ。学園の輝かしい歴史において、お前のような存在は生理的な嫌悪すら抱かせる」

「……ですが、先生。俺の理論では、魔物の魔核を直接分解し、その特性を……」

シュウが震える声で反論しようとした。

だが、その言葉は、傍らで優雅に長椅子に腰掛けていた男の、軽蔑を含んだ嘲笑によって遮られた。

「やめたまえ、シュウ君。醜い足掻きは見苦しいよ」

学園の至宝、そして聖剣の担い手として全生徒の羨望を集める男――アルトリウスだ。

彼は、白銀の装飾が施された聖剣を愛おしそうに撫でながら、立ち上がった。

「君のその……何と言ったかな? 『捕食進化論』だったか。あの低俗な空想を綴ったレポート。先ほど、私が直々に処分しておいたよ」

「……え?」

シュウの心臓が、ドクリと大きく脈打った。

数ヶ月、睡眠時間を削り、学園の図書館の隅で古文書を漁り、時には命がけで下級魔物の生態を観察して書き上げた、唯一の希望。

「……あれは、俺の……」

「ゴミだよ、シュウ君」

アルトリウスは、部屋の隅にある塵捨て場を指差した。

そこには、泥に汚れ、ズタズタに引き裂かれたレポートの束が転がっていた。

さらにアルトリウスは、わざとらしくその紙片の上に歩み寄り、黄金の刺繍が施された軍靴で、ぎり、と力任せに踏みつけた。

「魔物の血で汚れた君の指先が触れた紙が、この高潔な鑑定室にあるだけで不愉快なんだ。君の存在は、我々『選ばれし者』に対する侮辱ですらある」

バルガス教官が、追撃するように冷たく言い放つ。

「アルトリウス様の仰る通りだ。シュウ、お前には明日、学園の退学勧告と、魔導師資格の永久剥奪を言い渡す。今すぐ荷物をまとめて、寮を出たまえ。お前のような『欠陥品』に食わせる飯は、この学園には一欠片も残っていない」

シュウは、崩れ落ちそうになる膝を、必死に堪えた。

視界が歪む。

悔しさ、悲しみ、そして自分という存在が根底から否定された虚無感。

アルトリウスは、汚れを払うように自分の靴を見つめ、勝ち誇ったような笑みを浮かべて部屋を去っていく。

残されたのは、冷たい石の床と、踏みにじられた自分の誇り。

シュウは、這いつくばるようにしてレポートの破片を拾おうとした。

だが、その指先はあまりの屈辱に震え、紙の一片すら掴むことができない。

(……俺は、ここで終わるのか……?)

視界が真っ白に塗りつぶされるような、底なしの孤独。

学園という名の、光に満ちた世界から、自分という存在が完全に「境界線」の向こう側へと追い出された瞬間だった。

しかし、この時。

絶望に震えるシュウの背中を見つめる、熱い視線があることに、彼はまだ気づいていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ