聖剣砕け、悪魔目覚める
十層の空洞が震えていた。
アルトリウスの咆哮が響き、赤黒い瘴気が空洞全体を満たしていく。シュウは片膝をつき、胸元から血を流しながらも、まだ立っていた。
「……まだだ」
アルトリウスの瞳が揺れる。
「なぜ……立てる……? 未来を断ったはず……なのに……!」
「シュウ様は”未来を越える者”。因果を断たれても、立ち上がる存在ですわ」
リィネの声が、震えながらも確かだった。
「そんな理屈……認めない……! 俺は……英雄だ……! 選ばれた者だ……!!」
黒い聖剣が脈動し、空洞全体が震えた。
【堕落聖剣:因果断ち・連撃】
空間が裂け、黒い斬撃が連続で放たれる。
フィオナが王威を展開し、エレインが結界を張り、ミーニャが影から飛び出し、リィネが因果の糸を掴む。だが――アルトリウスの斬撃は、そのすべてを無視した。
「王威が……効かない……!」「結界が……砕ける……!」「……影が……裂ける……!」「因果の糸が……切れる……!」
英雄の才能に悪魔の因果を上乗せされた存在。もはや人間の枠を超えていた。
シュウは迫り来る斬撃をギリギリで受け止める。腕が痺れ、骨が軋む。重い。速い。強い。今までのどの敵よりも。
だが。
「……人は……喰わない」
「だからお前は弱いんだよォォォ!!」
アルトリウスが突進する。シュウは包丁を逆手に構え、真正面から迎え撃った。
ズガァァァァァン――
衝撃が空洞全体を揺らし、岩壁が崩れ落ちる。火花が散り、足元の岩が砕ける。
「お前は……“怪物”のくせに……なぜ人間のフリをする……!」
「……俺は……人間だ」
「違う!! お前は……俺の未来を奪った”怪物”だ!!」
聖剣が黒く脈動する。
【堕落聖剣:因果断ち・極】
空間が裂け、黒い斬撃がシュウの胸を貫いた。血が飛び散る。
「シュウ!!」
「……大丈夫だ」
立っていた。だが傷は深い。再生が追いつかないほどの、因果の傷だった。
アルトリウスがゆっくりと歩み寄る。
「終わりだ……シュウ……お前の未来は……ここで終わる……」
「……終わらせない」
アルトリウスの瞳が揺れる。
「なぜ……だ……なぜ……立てる……!」
「……仲間がいるからだ」
その瞬間、四人が動いた。
「……シュウ、守る!」「感謝しなさいよね!!」「魔力の流れ、固定するわ!!」「勝利の糸……固定!!」
四人の力が重なり、アルトリウスの動きが一瞬だけ止まる。シュウはその隙を逃さなかった。
包丁を逆手に構え、踏み込む。
「……終わりだ」
ズシャッ――
赤黒い聖剣が砕けた。アルトリウスの身体から黒い瘴気が噴き出し、空洞に霧散していく。
そしてアルトリウスは、糸が切れたように膝をついた。
「……あ……ああ……俺は……英雄に……」
黒い瘴気が完全に抜けきった瞬間、彼の身体からは力が消えていた。鎧のひび割れだけが残り、その下の顔は――ただの、疲れ果てた人間だった。
そのまま、静かに倒れる。
「アルトリウス!!」
フィオナが駆け寄り、その身体を抱き起こす。胸が上下している。息がある。
「……生きてる」
エレインが魔力を読み取り、呟く。「瘴気は抜けたわ。意識がないだけ……」
フィオナは唇を噛んだ。震える声で、それでも叫ばなかった。
「……どうして……こんな……」
「アウモデウスの因果操作。彼は最初から狙われていたのよ。“選ばれた者”だったからこそ」
エレインが静かに言う。リィネが扇を閉じ、続けた。
「悪魔にとって、英雄の因果は最も美味しい餌ですわ。彼は……利用されたのです」
ミーニャがシュウの腕にしがみつく。
「……シュウ、無事……?」
「……ああ」
その時だった。
十層の奥から、巨大な影が蠢いた。
ド……ドド……ドドド……
空洞全体が震え、赤黒い魔力が渦を巻く。祭壇が裂け、黒い触手が溢れ出す。その中心から――巨大な悪魔が姿を現した。
六本の腕。三つの顔。無数の眼。そして、因果を喰らう黒い核。
【古の悪魔・アウモデウス】
「……喰ラセロ……境界ノ……捕食者……」
シュウは包丁を構えた。
「……次の獲物は……お前か」
最終決戦が、始まろうとしていた。




