『鋼の箱舟、密室の境界線』
第11層から先は、一歩進むごとに地形が変わり、猛烈な吹雪と灼熱の溶岩地帯が交互に現れる「変動階層」だった。通常のテントでは一夜すら越せないこの地獄を、一台の巨大な鉄塊が突き進んでいた。
「ガハハ! どうだシュウ、俺の最高傑作『魔導装甲キャンプ車・テツクズ号』の乗り心地は!」
ガストンが操縦席で豪快に笑う。それは、10層で回収した魔鋼を全身に纏い、シュウが喰らってきた魔物の核を動力源とした、まさに「動く要塞」だった。
「……助かる、ガストン。……外はマイナス30度か。これなら、肉も凍らずに調理できるな」
車内の居住スペースは、外の地獄が嘘のように温かい。
だが、別の意味での「熱気」が充満していた。
「……シュウ。……ここ、狭い。……だから、くっつくの。……必然」
ミーニャが当然のような顔をして、シュウの膝の上に潜り込んでいた。猫尻尾がシュウの腕に巻き付き、満足そうにパタパタと彼の太腿を叩いている。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! その席は、パーティーの主導権を持つ王族の私が座るべき場所よ! どきなさい、この泥棒猫!」
フィオナが顔を真っ赤にして抗議する。だが、狭い車内では肩を寄せ合うしかなく、彼女の細い肩は常にシュウの体に触れていた。
「……ふ、ふん。私は魔法の理論構築で忙しいの。……でも、このソファ、一人で座るには広すぎるわね。……隣、空けておいてあげてもいいわよ。……感謝なさい」
エレインがツンと澄まして座っているが、シュウが「ああ、隣失礼するよ」と言った瞬間、彼女の尖ったエルフ耳が歓喜でバタバタと、扇風機のように激しく動いた。
「……あらあら。皆さん、閉鎖空間でのアプローチが露骨ですわね」
リィネがキッチンで茶を淹れながら、ふさふさの狐尻尾をゆらゆらと優雅に、けれど独占欲を隠さずにシュウの背中に擦り寄せる。
「……シュウ様。……私の千里眼によれば、今夜はこの『箱舟』の中で、誰かがシュウ様の寝所に忍び込む確率が、……99%に達していますわよ?」
「なっ……!?」「な、何を不潔なことを……!!」
フィオナとエレインが同時に叫ぶ。
「……ん。……私が、一番乗り。……決定」
ミーニャがボソリと呟き、シュウの首元に顔を埋める。
「……お前ら、仲良くしろよ。……ガストン、15層まではどれくらいだ?」
シュウが淡々と尋ねると、ガストンはミラー越しにニヤリと笑った。
「あと三日ってところだな。……しっかり『絆』を深めておけよ、相棒!」
【パーティの状況:第15層へ向けて巡航中。全員の親密度が限界突破寸前】
【ガストンの改良:キャンプ車に『全属性耐性被膜』を追加。居住性がSランクに向上】
車外では猛吹雪が吹き荒れ、巨大な魔獣が咆哮を上げている。
だが、鋼の壁に守られた車内では、少女たちの甘い香りと、隠しきれない「尻尾と耳の反応」が交差する、奇妙で温かな時間が流れていた。
一方、21層の底。
アスモデウスは、自らの領域に近づく「温かな魔力の塊」を感知し、不快そうに顔を歪めた。
「……愛だと……? 絆だと……? ……反吐が出る。……早く来い。……その温もりを、氷のように冷たく、絶望で染めてやろう……」
最下層へのカウントダウンは、残り三階層。
シュウたちの「日常」が、いよいよ「神話」へと変わる時が近づいていた。
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