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『黄金の矜持、震える指先』

学園の最深部、第五層へと続く重厚な石扉の前。

 フィオナは独り、細い剣を握りしめて立ち尽くしていた。

「……くっ、私は……王女なのよ。誰かに守られるだけの、着せ替え人形じゃないわ……!」

 彼女の脳裏に焼き付いているのは、迷宮の奥底で、返り血を浴びながらも孤高に戦うシュウの背中。そして、その隣で当然のように彼を支えるミーニャやエレインの姿だった。

 自分だけが、まだ「観客」でしかない。その焦燥が、彼女の誇りをズタズタに引き裂いていた。

 そこへ、背後から足音が響く。

「……フィオナ。そんなところで何を強張ってる」

 シュウだ。彼はガストンが新しく打ち直した、魔銀の補強が入った『漆黒の二連包丁』を腰に差していた。

「な、ななな……何よ! 覗き見なんて失礼極まりないわ! ……べ、別に、あなたがいない間にこっそり特訓して、驚かせてあげようなんて、一ミリも思ってないんだからね!」

 フィオナは顔を真っ赤にし、バッと剣を構え直す。しかし、その白い指先は、極度の緊張と「シュウに見られている」という意識で、微かに震えていた。

「……お前の剣は、綺麗すぎる。……王族の剣は『統べる力』だろ。……なら、敵の心臓を射抜く前に、その『存在』を屈服させろ」

 シュウはそう言うと、自らの胸元――無数の魔物を喰らってきたことで宿った、圧倒的な「捕食者のプレッシャー」を一時的に解放した。

 ドォォォン……!

「……っ、あ……ああ……っ」

 フィオナの膝が、本能的な恐怖で折れそうになる。

 だが、その恐怖を上回ったのは、彼女の中に芽生えていた「この男の隣に立ちたい」という猛烈な執着心だった。

「……負けない……。私は、あなたにだけは、置いていかれたくないのよッ!!」

 フィオナが叫んだ瞬間、彼女の身体から黄金のオーラが噴き出した。

 それは周囲を威圧するだけの光ではない。対象の重力を奪い、物理的な法則すらも「王の命令」として捻じ曲げる、絶対的な支配の力。

【フィオナの成長:固有スキル『王威』が『絶対君主の審判レガリア・ジャッジメント』へ進化】

【能力:広範囲の敵を停止させ、全ステータスを 30% 低下させるデバフの極致】

「……はぁ、はぁ……。ど、どうよ! これで少しは、私の価値がわかったかしら!?」

 フィオナは肩で息をしながら、勝ち誇ったようにツンと胸を張る。だが、シュウが「……すごいな、フィオナ」と短く、けれど真摯に褒めた瞬間、彼女の頬は林檎のように赤くなり、視線は右往左往と泳ぎ始めた。

「……ふ、ふん! 当然よ! 感謝しなさいよね、私があなたたちの『盾』になってあげるんだから! ……あ、あと……、お腹空いたわ。今夜は……その、あの、お肉、多めにしてくれないと、許さないんだから!」

 彼女は自分のドレスの裾をぎゅっと握りしめ、隠しきれないデレを必死にツンで上書きしていた。

「……あらあら。王女様、ついに『本能』に目覚めましたわね」

 影からリィネが、ふさふさの狐尻尾をパタパタと小刻みに振りながら現れる。

「シュウ様。……二十層のアスモデウスも、今のフィオナ様の『重圧』には驚くことでしょう。……もちろん、私の千里眼が導き出す『勝利の味』には、まだ隠し味が必要ですが……」

 リィネはシュウの腕にさりげなく自分の尻尾を擦り寄せ、満足そうに目を細めた。

 着実に、ゆっくりと。

 「孤高の捕食者」だったシュウの周りには、それぞれの愛の形を持った最強の乙女たちが集結しつつあった。

 二十層への階段は、まだ遠い。

 だが、この不揃いなパーティの絆は、既に伝説の聖剣を凌駕するほどに熱く、昂っていた。

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