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『テツクズ号の一夜』

 七層を突破した翌日。

 シュウたちは、ガストンが完成させた”動く秘密基地”に乗り込んでいた。

 ――魔導装甲キャンプ車・テツクズ号。

 魔鋼を骨格に、五層で回収した黒殻の甲殻を外装に張り、魔核を圧縮した炉を心臓に据えた、迷宮内移動用の装甲車だ。ガストンが七層突破の報酬を全額つぎ込み、道中の野営ごとに改良を重ねてきた、文字通りの最高傑作だった。

「ガハハ! どうだ相棒! 俺の最高傑作の乗り心地は!」

 操縦席でガストンが豪快に笑う。

 外は氷点下の吹雪。七層を満たしていた極寒の魔力が、迷宮の壁を越えて外気まで侵食しているのか、窓の外は白一色だ。

 だが車内は、異様なほど温かかった。


 その理由は――

「……シュウ。……ここ、狭い。……だから、くっつく」

 ミーニャが当然のようにシュウの膝に収まっていたからだ。

 猫尻尾が腕に絡みつき、満足げに揺れる。体温が高い。七層の凍える空気の中でも、この猫獣人だけは常に温かかった。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!? そこは私の席よ!!」

 フィオナが顔を真っ赤にして割り込もうとする。が、テツクズ号の車内は、移動と居住を両立させるために設計された結果、恐ろしく狭い。彼女が動くたびに肩がシュウに当たり、そのたびに頬がさらに赤くなっていた。

「……席を取り合うのに王族も平民も関係ないと思うけど」

「う、うるさいわよ! そういう問題じゃないの!」

「じゃあどういう問題だ」

「…………そ、それは……!」

 フィオナが言葉に詰まった瞬間、隣からすうっと静かな声が割り込んだ。

「……私は別に興味ないけど」

 エレインがすでに横に腰を下ろしていた。魔導書を膝に乗せ、さりげなく、しかし確実にシュウの隣を確保している。

「……その、空いてるなら……座るだけよ」

「ああ。隣いいか」

 その一言で、エルフの尖った耳がぴくりと震えた。

「~~っ!? い、いちいち許可取らなくていいのよ!!」

「……取らなくていいのか」

「そ、そういうわけじゃ……!」

 エレインの翡翠の瞳が泳いだ。七層の歪んだ魔力の中でも微動だにしなかった精霊眼が、今はシュウの顔を正視できていない。耳はもう完全に横を向いていた。

 キッチンからリィネが現れたのは、そのときだ。

「……あらあら。皆さん、少し露骨ですわね」

 湯気の立つカップを四つ、盆に乗せている。揺れる迷宮の道中でも、彼女の所作は乱れない。狐の耳と尻尾だけが、くるりとシュウの方を向いていた。

「お茶ですわ。七層の疲れが残っているでしょうから」

 リィネが一人ずつカップを渡していく。ミーニャには猫の好む薬草を少し足した温かい茶。フィオナには王都でよく飲まれるという花茶。エレインには何も言わず、彼女が好む苦みの強いものを。

「……なんで分かるんだ」

 シュウが自分のカップを受け取りながら訊く。

「……シュウ様のお好みは、もう覚えましたわ」

 リィネが静かに微笑んだ。その笑みには、どこか遠くを見るような色が混じっていた。

「……それと、一つ申し上げておきますわ。シュウ様」

「……何だ」

「今夜、この箱の中で――誰かがあなたの寝床に潜り込みますわ。確率、九十九パーセント」

 一瞬、車内が静まり返った。

「なっ!?」

「ふ、不潔よ!!」

 フィオナとエレインが同時に叫んだ。エレインの耳が限界まで横を向く。フィオナは王家の法典を持っていないのが悔やまれるほどの勢いで立ち上がりかけ、天井に頭を打った。

「……痛っ」

「……フィオナ。大丈夫か」

「だ、大丈夫じゃないわよ! なんでそんなに冷静なの!?」

「……ん。私が一番」

 ミーニャが即答し、さらにシュウへ密着する。猫尻尾がぱたぱたと揺れた。

「この泥棒猫!!」

「……シュウの隣、私の場所」

「決めるのは私よ!!」

「……うるさいわね……静かにして」

「ふふ……皆さん可愛らしいですわ」

 ガストンがミラー越しにこちらを見て、肩を揺らして笑っていた。シュウは静かに呟く。

「……仲良くしろ」

 全員が、一瞬だけ固まった。

 そしてなぜか全員、顔を赤くした。

「……リィネ」

 シュウはカップに口をつけながら訊いた。

「……その予言、外れることはあるか」

「……残りの一パーセントは、二人潜り込む場合ですわ」

「なっ!?」「ちょっ!?」

「……ん。二人でも入れる」

「入れないわよ!!」

 騒がしい。七層の重く静まり返った空気とは、まるで別の世界だ。

「……ガストン。八層の入口まで、あとどれくらいだ」

「二日だな。……その間に、しっかり”絆”深めとけよ」

 ミラーの向こうで、ガストンがにやりと笑った。

「……余計なお世話だ」


挿絵(By みてみん)


 テツクズ号は、吹雪の中を静かに進み続ける。

 車内では今も言い合いが続いていたが、誰も本気で席を離れようとしなかった。

 シュウは温かいカップを両手で包み、窓の外の白い闇を見つめた。

 八層。深層の影は、まだ先にある。

 だがとりあえず今夜は――賑やかに過ごせそうだった。

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