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「境界前夜、全員集合」

 翌朝、ガストンが秘密基地の裏から怒鳴り声を上げた。

「おーい相棒! ちょいとこっち来い! ついに動いたぞ!!」

 全員が裏口へ回ると、巨大な鋼鉄の車輪がゆっくりと回転していた。改良を続けていた迷宮内移動用の自走輸送車——ガストンが「地下でも使える馬車」と呼んでいた代物の、駆動輪だ。

「炉心と連結させた! 蒸気じゃなく魔力を動力にしてるから燃料は魔石ひとつでいい。試作だが走るぞ、絶対!」

 フィオナが呆れた顔で腕を組む。

「……あなた、いつの間にこんなもの」

「暇な時間は全部これに使ってた。ガハハ!」

「暇そうに見えたのに」

「それが職人ってもんだ、王女様」

 エレインは輸送車の側面をそっと撫で、内部の魔力の流れを確かめた。

「……魔力循環の効率が思ったより高い。ガストン、ここの接続部、少し改良すればもっと出力が上がるわ」

「おっ、エレイン嬢ちゃんわかるか! そこが一番悩んでたとこなんだよな!」

 二人が輸送車に顔を突っ込んで話し込み始める。フィオナは「私には全然わからない会話ね」と呟きながら、シュウの隣に立った。

 シュウは離れた場所で、出刃包丁の刃先を確かめていた。

「……十層まであと六層ある」

 フィオナはその横顔を見て、少しだけ声を低くした。

「……本当に行くの。アウモデウスのところまで」

「ああ」

「……怖くないの?」

 シュウは少し間を置いた。

「腹が減る前は、何でも怖い。腹が減ったら、何でも獲物に見える」

「……それ、答えになってないわよ」

「お前が怖いなら、来なくていい」

 フィオナは唇を引き結んだ。それから、ふいと前を向く。

「……来るに決まってるでしょ。誰があなた一人に任せるのよ」

 ミーニャが当然のようにシュウの腕に寄り添い、銀色の尻尾が足首に絡みつく。

「……シュウ。……四層から行く」

「ああ。明日の朝、全員で出る」

 そこへリィネが暗がりから現れ、扇で口元を隠しながら微笑んだ。

「……ふふ。未来が変わっていく音がしますわ」

 大きな狐尻尾が、期待と興奮を隠しきれずに揺れていた。

 ガストンが輸送車の上に立ち、両腕を広げる。

「よし! 全員揃ったな! 出発前に飯だ! 最高のやつを食わせてやるよ!」

「ガハハ!じゃないわよ……」

 フィオナの呆れ声が、笑い声に変わった。

 その夜、秘密基地の暖炉を囲む輪は、これまでで一番大きかった。

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