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夢紡ぎの街 ―感情と日常の異世界スローライフ―  作者: たむ


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第2章 第89話:連れて行く者 ― 王国の要求

王国の調査隊がついに村へ到着した。ナリ、ノア、レンという三体の影の存在は、研究院の予測を遥かに超える発見だった。影が人の世界で安定しているという事実は、王国にとって極めて重要な意味を持つ。しかしそれは同時に、影が研究対象として扱われる可能性を意味していた。調査隊は村を観察し、影を調べ始める。そしてやがて、王国としての結論を告げる。その言葉は村の静かな日常を揺るがすものだった。

村の川辺には静かな緊張が漂っていた。王国の調査隊は村の広場に簡易の観測器具を設置し、周囲を慎重に観察している。村人たちは少し離れた場所で様子を見ていた。鎧を着た騎士たちがいるだけで、村の空気はいつもと違うものになっている。


川辺には三体の影が立っていた。ナリの胸の核が静かに光る。どくん。どくん。その鼓動は穏やかで、周囲の影を落ち着かせるようだった。ノアは柔らかく揺れ、地面の影を少しずつ吸い寄せている。レンは落ち着かない影のように、時々地面を滑っていた。


アルヴェンはその光景を見つめていた。研究員たちは水晶装置を準備し、記録を取っている。


「三体……。」研究員が呟く。「しかもそれぞれ波形が違います。」


セリスが静かに言う。「当然です。三体とも違う存在ですから。」


アルヴェンはナリを見た。核の光がゆっくり脈打っている。「内部核を持つ影……。」次にノアを見る。「外部固定型。」そしてレン。「高移動型。」


研究員たちがざわめく。「こんな影、記録にありません。」


その時、ミルが小さく言った。「ナリたち、連れて行かれるの?」


村人たちは顔を見合わせた。誰も答えられない。


アルヴェンはゆっくりリナライの前に立った。「君が……この影たちと関係があるのか。」


リナライは少し戸惑いながら頷く。「……ともだち。」


研究員たちが驚く。「友達……?」


アルヴェンは三体の影を見た。ナリの核が静かに光る。ノアがゆっくり揺れる。レンが地面の影を滑る。


「信じられない。」彼は呟いた。「影が人と共存している。」


セリスが冷静に言う。「共存ではありません。ここで生きているんです。」


アルヴェンは少し考えた。そして静かに言う。


「王国としての判断がある。」


村人たちがざわめく。


アルヴェンは続けた。「影は境界の存在だ。もし安定しているなら、王国の研究施設で調査する必要がある。」


ミルが驚く。「え……?」


トオマが言う。「連れて行くの?」


アルヴェンははっきり言った。


「三体の影を王都へ移送する。」


その言葉で村の空気が凍った。


リナライは首を振る。「だめ。」


ナリの核が強く光る。どくん。ノアが揺れる。レンが前に出る。


騎士たちが警戒して一歩前へ出た。


アルヴェンは落ち着いた声で言う。「安心してほしい。危害を加えるつもりはない。ただ研究が必要なんだ。」


リオナが低く言う。「影は物じゃない。」


セリスも続ける。「連れて行く権利はありません。」


研究員が小声で言う。「ですが王国の命令です。」


その時、レンが一歩動いた。影が地面を滑る。騎士の足元の影が揺れた。騎士が思わず後ろに下がる。


ナリの核が光る。ノアの輪郭が広がる。


三体の影がリナライの前に立つ。


村人たちは息を飲んだ。


アルヴェンはその光景を見ていた。影が人を守るように立っている。


「……なるほど。」彼は小さく言った。「意思がある。」


風が川を渡る。森の影が揺れる。


アルヴェンは静かに続けた。


「ならば交渉だ。」

王国は影を研究対象として王都へ連れて行こうとした。しかしナリ、ノア、レンはリナライの前に立ち、村を離れる意思がないことを示す。影はただの境界存在ではなく、自分の居場所を持つ存在だった。王国と村の間に、静かな対立が生まれる。影は誰のものなのか。物語は新しい緊張を迎え始めていた。

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