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作戦会議兼カラオケ

12月に入った。先週は朝奈さんとの収録もなく、バイトぐらいしか予定のない週末だった。



『明日の午後の必修授業の後、柏木君は授業ある? 時間あるならちょっと相談があるんだけど』



朝奈さんからそんなラインが入る。予定はなかった。



『空いてます。なんでしょう』


『露ちゃんが作戦会議したいって。私の家行くのは時間かかるし、カラオケに行かない?』



カラオケ。朝奈さんと? ……やった! もちろん返事は『行きます』だ。





授業終わりに朝奈さんと合流する。大学の西門の近くで待ち合わせ。朝奈さんがスマホをいじりながら立っていた。ハイウエストで裾の広いショートパンツに、アイボリー色のセーター。ダボダボのアウターを羽織っていたが、足がほとんど出ていて寒そうだ。



「朝奈さん、お疲れ」


「お〜、お疲れ〜」



朝奈さんはスマホをしまって、手をひらひら振った。にんまり笑っている。



「足、寒そう。朝奈さん寒くないの?」


「致し方ない犠牲だよ、柏木君。女の子のファッションには、犠牲がつきものなのですよ」


「なるほど。勉強になります」


「そうでしょ。精進したまえ、柏木君」



朝奈さんとそんなことを話しながら、カラオケに向かう。



「ちなみに聞きたかったんだけど朝奈さん、作戦会議って何?」


「あ〜、まあ着いたら、ね」



朝奈さんは周りを気にしている。他にも帰る大学生がちらほらいるので、『ゆかなん』のことは喋りにくい。



「さっきの必修授業、来週小テストだってね。柏木君は大丈夫そう?」


「やばいっす」


「あはは、私も。作戦会議終わったら、カラオケじゃなく勉強かな?」


「それはちょっと……」



勘弁してほしいな。せめて一回ぐらい、朝奈さんの歌声を聞いてみたい。そんな感じで喋っていたらカラオケに着いた。受付を済ませて部屋に入る。時間は3時間。飲み放題のドリンクバーではなく、注文方式だ。

 背もたれ付きの長椅子が、一つしかないタイプの部屋だった。朝奈さんが長椅子に座る。こうなると俺は朝奈さんの隣に座るか、丸椅子みたいなのに座るかのどっちかだ。朝奈さんの隣に座りたい……どうしよう。ためらっていると、朝奈さんは隣をぽんぽん手で叩いて俺を長椅子に誘う。誘われるがまま、俺は朝奈さんの隣に座った。


よっしゃ、朝奈さんの隣に座れた。とりあえず注文するドリンクを選ぶ。



「ドリンクはオッケー。柏木君、フライドポテト食べる? 注文していい?」


「どうぞ」


「ポテトは外れがないのがいいよね。まずいことないもん」



……冷静に考えたら、これってデート? 側から見たらどう考えてもデートだ。今まではいきなり家だったし、腕は縛られるしで、デートなんて感覚はなかったけど、二人でカラオケなんて学生の典型的なデートの一つじゃないか。

 カラオケの店員が注文したポテトと、ドリンクを持って来た。俺は自分を落ち着かせるために、適当に頼んだオレンジジュースに口をつける。



「とりあえず作戦会議しよっか。露ちゃんに電話かけるね」


「わかった。『ゆかなん』の作戦会議だよね? どんな話?」


「わかんない。露ちゃんが話してくれると思うよ?」


「……朝奈さんも何の会議をするのかわかってないの?」


「うん」



朝奈さんは頼んだジンジャーエールを、ストローで飲みながら頷いた。さてはゆるゆるだな、この会議。

 朝奈さんが露さんに通話をかける。繋がった。今回はカメラ通話ではないらしい。



「ゆかなーん! おっつかれー! 柏木さんもおるん?」


「露ちゃ〜ん。柏木君もおるよ〜」


「お久しぶりです」



露さんは相変わらずの元気な大声で挨拶をしていた。



「露ちゃん、作戦会議って何?」


「あ〜それな。じゃあ、いきなり会議しよか。今な、ゆかなんのチャンネルがまた伸び始めてんねん。ロールプレイの動画のおかげで」



確かに、『ゆかなん』さんのチャンネルの登録者が、最近徐々に増えだしていた。



「ゆかなんのロールプレイが求められてるってことやん? せやから柏木さんのネタから、台本をどんどん作っていこうと思ってるんやけど、動画にする順番が大切やろ? 何から作っていけばいいかなぁ、と思って。そのための会議です。これは」



なるほど。思ったより大切な会議だった。『ゆかなん』さんのためだし、真剣に考えねば。



「順番かぁ……この前露ちゃんがくれたのは、添い寝のやつだったよね」


「あれなら、パジャマで撮れるやろ? 衣装もできるだけ合わせたいからなぁ」


「そうか、衣装の準備もいるのか」


「せやで、柏木さん。柏木さんのネタにあったメイドのやつも人気出るやろうけど、メイド服なんか持ってへんやろ、ゆかなん」


「持ってるわけないやん」



朝奈さんはポテトをつまみながら、そう答える。話しながら朝奈さんは、足を伸ばしてぶらぶらさせていた。かわいい。



「クリスマスはとりあえず、サンタ服着るような台本でいいんじゃないですか? サンタ服あるよね、朝奈さん? 前のクリスマスの動画で着てたし」


「うん。タンスの奥で眠ってるよ」


「あ〜、クリスマスは生配信でもいいんちゃう? サンタ服着て」



えっ、『ゆかなん』さんの生配信!? しかもサンタ服着て!? 最高だ!!



「めっちゃいいじゃないですか、それ! やりましょう!!」


「せやろ〜? ゆかなんは?」


「う〜。久々だけど頑張るよ……恥ずかしいんだよね、あの格好」



朝奈さんのサンタ服は胸元露出しまくりの、ミニスカサンタである。朝奈さんからしたら、当然恥ずかしいだろう。でも男は大興奮間違いなしだ。



「まぁまぁ。正月帰ってくるやろ? そんときにご褒美として、ゆかなんにメイド服買ってあげる! 撮影に使えるやろ?」


「え〜……」



朝奈さんは撮影用のメイド服がもらえるというのに、露骨に嫌そうな顔をしている。そりゃあメイド服なんて、撮影以外ではいらないのかもしれないが。



「……露ちゃんは撮影会したいだけやろ? サンタ服の時みたいに」


「買ってあげるんやから、それぐらい許してよー!」


「撮影会?」



なんだそれ。



「ゆかなんに衣装着てもらって、いろんなポーズや角度で撮影すんねん。これは仕事に必要やからやで? イラストの世界には巨乳の美少女がいっぱいおるけど、現実世界では稀やからな。ゆかなんみたいな超絶巨乳美少女にコスプレさせて撮影できるなんて、イラストレーターからしたら最高の資料提供なんやで!! 柏木さん!!」


「そ、そうですか」



露さんに、めっちゃ早口でまくし立てられた。とりあえず熱意は伝わってきた。



「柏木さんにも見せてあげよか? ゆかなんのめっちゃエロい写真がいっぱいあってな……」


「露ちゃん!! そんなんすんねんたら、もう撮らせてあげないから!!」


「冗談やん〜!! ごめんて、ゆかなん〜」



……めっちゃ見たいな、その写真。とりあえず、露さんとは仲良くしておこう。そう、俺は心に決めた。

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