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朝奈悠花

朝奈さん視点

小さい頃から声優に憧れていたけれど、そんな大それたことを目指すのは私には無理だった。みんなも反対するだろう。

 私はほどほどな道を選んだ。ちゃんと勉強して、頑張ったねとみんなが言ってくれるような大学に進学すること。みんなもそれを応援してくれた。だからこれでいいんだと、そう思うことにした。


きっかけは露ちゃんだった。小学校の頃から親友で、中学、高校も一緒だった。彼女はずっと絵を描く仕事をすると、みんなに平気で言っていた。

 私は応援していたが、叶うかどうかはまた別の話だと、少し冷めた目線でいた。いや、そうじゃないと、自分も夢に向き合わなければいけないような気がして、辛かったんだと思う。


露ちゃんは、夢を実現させた。それを私は、無難な大学に入ってから知った。


私も何かしなければいけないような気がして、自分に向き合わなければいけないような気がして、私はASMRの動画を録ることにした。声優の真似事ができそうで、でも声で演技しなくても、耳かき音声とかスライムを触るとかで動画を投稿できる。

 自分の夢に向き合わなければいけない、という思いと、でも怖くて向き合いたくないという思いでせめぎあっていた自分には、ぴったりの選択だったんだと思う。


露ちゃんに、私がASMRの動画を録ろうとしていることを伝えると、それをすごく応援してくれた。だから私は頑張れた。

 少しHな路線の動画で攻めることも、別に気にならなかった。みんなそれを求めていたから。男の人は苦手だったけど、直接喋るわけじゃないし。幸い私は向いていたようで、動画のチャンネルの登録者はすぐに伸びた。


演技をするのはやっぱり苦手だった。私は声優になるスタートラインにすら立とうとしなかった人間だ。その勇気すら持てなかった人間だ。できるはずもない。



(だから、諦めていたのに)



私はずっと、声優の人たちや声で頑張っている人たちを比較対象にして、自分を認めていなかった。ダメな自分を見つめ、頑張らなければいけないのが自分だったから。



『朝奈さんは本当に素敵な存在なんだ』



柏木君はそう言った。私は恥ずかしかった。そんな人間じゃないよ、私は。そう言いたかった。

 けど、胸がくすぐったくて、暖かい気持ちになれたのも事実だったから。


柏木君に、私が『ゆかなん』だとバレた時は、本当に焦った。恥ずかしいし、他の人に絶対に知られたくなかった。

 けど今は、もしバレても大丈夫だと少し思えている。柏木君が本当に大好きだと伝えてくれた『ゆかなん』を、今は誇れるから。……やっぱり恥ずかしいけれど。Hだし。


今は、柏木君が来てくれる日が待ち遠しい。


……私は柏木君を好きになったから。

 けど、この思いは柏木君には秘密だ。それを伝えるには、私にはまだ少し勇気が足りない。


心音の収録の時、帰りの玄関で私の口から思いがこぼれそうになったけど、柏木君と喋るタイミングが被って、たまたま声には出なかった。あの時伝えていたら、柏木君はどう答えてくれたんだろうか。



柏木君からもらったキットカットの片割れを、私はぽっかり空いた柏木君の口に押し込んだ。驚いた柏木君の顔が可愛かった。残ったキットカットを私は食べる。とっても甘かった。


……手を繋いでみようかな? こっそり繋いだら、柏木君はどんな反応をするんだろう。でもそんなことしたら、告白してるのと変わりないんだろうか。


またの機会にしておこう。もしかしたら、次の収録で手を繋げるかもしれない。心音の時みたいに。あの時は頑張った。柏木君と手を重ねた勢いで、告白しようか迷ったけれど、あの時は柏木君が倒れてしまったから。



……そういえばもう一つ、柏木君には秘密にしておくことがある。心音収録で柏木君が寝てしまった時、私はこっそり柏木君の頬にキスをした。柏木君が愛おしくて、我慢できなくて。これはたぶん、一生言わないけどね。


仕方ないよね? 好きな人が目の前で寝てるんだもん。それに柏木君が急にもたれかかって来たから、私は一瞬襲われるのかと思ったし。それのお返しってことでいいよね。うん。

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