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ダンジョン攻略で借金返済!   作者: 明治産
第四章 奪還編
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第三十九話 「黒金の防衛戦」

「さて…」


 シエンがレンの家の玄関先で仁王立ちしている。彼の臨む先には大勢の軍人を引き連れた李書文の姿があった。


「楚の民が何故我らの前に立ちはだかる」

「…単純にお前のやる事が気に入らないからだ」

「非国民が…」

親友(レン)は返してもらう」


 互いが地面を強く踏み込んだ。


 ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─


 李書文襲撃の数十分前。

 シエンは忘れないようにと、自室で点字の勉強をしていた。

 ある程度の感覚が戻って来た頃、扉が開く音が聞こえて来た。シエンの部屋に入ってくる人間は今は一人だけである。


「ルイか」

「あぁ。どうだ、点字は?」

「今の所理解できている。全然大丈夫だ」

「そうか、なら良かった」


 会話が途切れて沈黙が続く。

 黙々と点字を触り続ける中でシエンがふと口を開いた。


「お前は……いつまでそんな事を続けるんだ」

「え?」

「いつまで自分を偽り続けるんだ?」

「……気付いてたのか」


 極限まで研ぎ澄まされた聴覚は、性別までも看破する。幾ら口調を男らしくしても、身なりを男らしくしても、歩幅や、筋肉の動かし方、様々な方向から看破できてしまう。


「実は、出発の時にはもう気付いてた」

「まぁ…目よりも緻密な情報を得れるから分かるよな…むぐっ」


 頬を掴まれて呆気に取られるルイ。

 そのままシエンが真顔でこう言ってきた。


「俺の前でその口調はもうやめろ。らしく接しろ」

「ふん、俺がどうしてこうしているかも知らないのによく言えるな」

「……まぁな。だが、薬物摂取でなんとか生き繋いでるのは知っている」

「え…?」

「時折、床に薬みたいな物が落ちてる事がある。拾えば実際に薬で、シュウに聞けばルイのだと答えたから、わかった」


 ルイは呆気に取られていた。自分は無意識のうちに薬を過剰に摂取していて、尚且つ取りこぼしていたなんて。

 彼…彼女はレンに拾われた人の中で最も古参であり、とある理由から女としての尊厳が消え失せ、男として生きようと言葉遣いから何まで全てを変えた。しかし、トラウマは消えず、今でも『刃物』を見ると身体中の傷という傷が疼き出し、身動きが取れなくなるのだ。

 それを今まで隠し通してきたのに、自分のミスで露呈するとは。


「…それで、どうするのさ」

「何がだ?」

「私にらしく接しさせてどうするってんだ!私は嫌なんだよ、女として生きるのが、価値が無いのに女として生きるのが嫌なんだよ!」


 そこまで言うと、シエンは顔をズイッと近づけてこう言ってきた。


「お前は子供が産めなければ女としての尊厳が無いというのか?」

「え、な…そうだろうがよ!だって、そんなのと一緒になったって子孫を残せないんだぞ!?」

「………間違いも間違い大間違いだ。男にとって、女は支えてくれるだけで良いんだ。相棒をな。それを今、証明する」

「な、え?」

「奴等が来た、俺が出る」


 そう言って、シエンは玄関へと躍り出た。

 前方には数々の軍人、そして、その中央には己の親友を奪った男が立っている。


 ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─


 沉と書文の拳が交差する。

 書文が胸元、沉が頬に拳を突き付けた。

 辺りに風が巻き起こる程の衝撃が起き、辺りの木々が揺れる。

 威力は圧倒的に書文の方が上で、あっさりと沉の身体が吹っ飛び、扉に叩き付けられる。


「迷わず前へ踏み込んで来た事は褒めてやろう、だが青いな…っ?」


 顔を顰める書文、拳に痛みを感じ、見やると刃の様な物が刺さっていた。金色の鱗の様にも見える。

 先程葬った筈の男の、頬が吊り上がる。

 髪の間から普段は開かない狂気的な相貌が覗く。

 血の混じった枯れた声で叫ぶ。


二之打不要(にのうちいらず)。だからどうした…!俺は此処を通すつもりは無い!!」


 干将の刃鱗纏鎧。干将と息を合わせた者に現れる身体異常。

 筋繊維の上に逆立った鱗が覆い、皮膚の上から攻撃を受けると、それらが刺さる。なお、少なからず鱗が筋繊維に刺さっていき、覆われている本人にもダメージが生じる。

 大事な人々を守るという、沉本人の意思に干将が共鳴して産まれた物である。

 沉は立ち上がり、扉の前で仁王立ちする。

 それを見た書文は初めての感覚に狂喜し、叫ぶ。


「我の二之打不要を破った者は貴様が初めてだ小僧っっっっ!!!その刃の鎧ごと、粉々に砕いてやるわぁっ!!」


 二つの地面の割れる音が辺りに響き渡る。

 それからすぐ身体の破壊される音が辺りに何度も響き渡った。


 ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─


 あれからいつまで殴り合ったか。


「ぐっ…」


 息を切らす書文の身体や拳には無数の刃鱗が刺さり、血が止めどなく溢れている。

 逆に言えばそれだけ。

 対する沉は、全身に打撲痕が出来、両腕の骨が砕かれ、体の至る所の皮膚が剥がれたのか金の鱗が露出している。

 身体は既に限界、だが、彼は立ち上がる。

 何が彼をそうさせるのか、書文は分からなかったが、開いた虚無の瞳にたぎる戦意を感じ、それを理解した


「なんとしてでも防衛するという絶対的な意思…天晴れだ。殺せぬのは惜しいが今回は退くとしよう」

「…………何度来ても同じ事だ」

「名前を聞いておこう、小僧」

「沉…僭王…」

「沉僭王。次やる時までに剣を研いでおくが良い、次は我も全てをぶつける」

「………」


 そう言って、彼は戦いを眺めていた軍人の合間を割いて消えていった。軍人達もそれに釣られて消えていった。

 沉がその場に膝をつき、倒れようとしたところに、玄関の扉を開けて飛び込んできたルイがそれを受け止めた。


「ど、どうしてそんなになるまで…馬鹿野郎!」

「………男っていうのは…大事な人間の為なら無理が出来るものなんだ」

「……っ!辞めてよ、頼むから無理しないで。死んじゃったらどうするのさ…」

「やればできるじゃないか」


 そう言って柔らかに微笑み、彼女の手の中で眠りに落ちた。

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