第二十八話 「月夜」
彼は確かに二人の名前を知っていた。
こちらは彼を知らないのに。
だからシエンはそんな彼に当然の疑問を投げ掛けた。
「お前、何故俺達の名前を知っている?」
「ん。貴方がたのお知り合いから聞きまして、ずっと此処で待っていたんですよ」
「そ、それにしては…殺気の様なものが伺えますけど…」
リーの小さい声に男はハンっと鼻で笑ってから、こう言った。
「当然でしょう。彼らが首領以外に信頼を置く人達、それは強き者。やはり、少し手合わせはしたくなりますよね?」
「そうか。手合わせしたいっていうのは分かった。ならもう一つ質問しよう」
「なんでしょう」
「これらはお前がやったのか?」
男は少し黙り込んだ。
その後で大きなため息を吐いて嫌そうな声で言う。
「そうだが…。……それがどうしましたか?」
「それがどうしたって…お前にはなんの理由があってこんな事をしたんだ?」
「………あー。もう面倒だから普通に話すわ。なんの理由でそこら辺の奴らを殺したかってか、自分を守る為だよ。当然だ。俺だって生きたいからな」
「自分を守る為?お前は罪人か何かか?」
「おいおい…質問は一つなんだろ?一つより多くしてんじゃねえよお兄さん」
そう言って彼は距離を詰めてくる。
彼が動くに連れて、四人も一歩ずつ後退していく。
そして、ある程度詰め寄った所で鞘から一つの剣を抜く。倭刀に似ていて、異なる形状の剣。
「………日本刀ですか?」
「日本刀だと?確か、倭の独自の製法で作られた剣だよな?」
「えぇ。レン様もあの様な形…いやこの剣の方が邪悪そのもの…」
「いやいや…。人の愛刀を見て邪悪とか言うんじゃないよ全く。一応返り血は全部拭いてるし、研磨だって怠ってないのに…まぁ、返り血浴び過ぎて鉄に血の色が混ざっちまってるから少々赤いのは仕方ないか」
自分の刀剣をまじまじと見つめてそんな事を言い、最後には剣を構えた。
「さぁ、リー・センオウ。剣を抜きな」
「…………仕方ないですね」
「おう。やっと俺の目を見てくれたな。これで漸く強い奴と戦え…」
一閃。
一筋の光の線が走る。
その線は弧を描く様にして走り、男の剣を両断しようとした、が。
「……っ!」
「速過ぎだろおい…。ま、惜しかったがな」
切断には至らず、それどころか刀身の端に傷を付けただけで勢いが死んでしまった。
此処は自前の倭刀を使わずに陰剣を使えば良かったとつくづく思っただろう。
リーは一撃で決められなかった事に少しだけ焦りを覚えながら、男を睨む。
それに対して男はそんな彼女を見て、フッと笑みを浮かべた後で絡み合う剣を下ろして言った。
「ん、まぁ、此処は血溜まりだし場所が悪い。月光が照らしてくれるところまで出ようや」
「その意見には賛成ですね」
二人は、勝手に話を進めて、外へと出て行ってしまった。ちらりと見えたリーの顔には微笑みが貼り付いていた。
取り残された三人の中でシエンが、不安そうな声音で呟く。
「リー…何かに煽動されてないか?」
「どうせ莫耶の仕業だろうよ。だって笑顔だったぜ、あの子」
「情緒が不安定にも程があるだろ」
「…………」
「シエン?」
「不味いかもしれない…状況を見て止めなくてはならない」
そんな時、外から剣が弾かれ合う音が聞こえてきた。
もう戦闘は開始されている様だ。
シエンは何か焦った様子で、地面を蹴り、外に飛び出して行った。




