第二十三話 「陰陽憑依体験」
リー、否。莫耶は頭を振りながら、怪訝そうな顔をした。どうやら一つ結びになってる髪が気に入らないらしい。
「外しますかね、これ。李には悪いですけど」
そうして青い紐を解き、髪を下ろした。
一応彼女の為を思って腕に青い紐を巻き、飛んでいる無数の魂の方へと目を向ける。
「ん…。あぁこれですね」
ひと時目を凝らし、一つの魂をこちらへと引き寄せる。魂はすぐに莫耶の手の上に乗ってきた。
そのまま、倒れている二人に近付いて行き、手に乗っているそれを惜しげも無く、倒れ込んでいる彼女へと落とす。
魂がするりと入ると同時にチィは直ぐに目を覚ました。
「ん……んぅ」
「お目覚めですか?」
「……ってうわぁ!?おい、ハオ大丈夫か!?」
「人の心配する前にまず退いてあげなさいよ…」
「あっ、そっか」
チィがそそくさと退くと、直ぐにハオは起き上がった。莫耶は、この男の生命力はどうなってるんだ、と内心思ってはいたが、口には出さなかった。
ハオは横目で莫耶を見て、口を開いた。
「お前……リーじゃないな」
「あの身体では維持が出来ないと思ったので借りたんですよ。干将も同じですね」
「……」
「相変わらず怖い顔です。貴方の相棒もこうして生きているのにどうしてそんなに怖い顔をするんですか」
ハオはその質問には答えず、ただただ睨んできた。最も莫耶には悪意が無いので何故そうしてくるのか理解できないし、チィはその状況について行けないでいた。そんな中で、シエンに憑いた干将が鱗を採取して戻ってきた。
「莫耶。そいつにあまり楯突いてやるな。そいつは自分の無力さに怒ってるだけだ」
「干しょ…あれ?」
「どうした?」
本来、莫耶の見た目がリーに少し移った様に、干将も同じになるはずだが、なんの変化もせず、見た目はシエンのままで口調も干将のものでない。なのに、その手には金の剣矛が握られている。
「沉僭王、ですか?」
「そうだ。この剣に身体を乗っ取られた時は驚いたが、干将が話のわかる奴で良かったよ」
どうやら干将とシエンは気が合うらしく、直ぐに身体を返してくれたそうだ。
「シエン、その麻袋の中身はなんだ?」
「竜体の干将の鱗だ。出来るだけ剥いできた。それとお前、生き返ったんだな」
「あぁ。助けてもらったよ」
「ふーん…おい莫耶。これ返す」
そう言って金の剣を宙に莫耶の方へと軽々と放り、その場に座り込んだ。
当然取れるはずも無く、莫耶はじとっとした目でシエンを見ながら言った。
「んー…。もうちょっと優しくして下さい」
「お前が妹だったら優しくする」
「………仕方ないですね。もう用は済みましたし、奥底に引きこもりますよ」
「そうしろ」
溜息を吐いてから、腕に巻いていた青い紐で丁寧に己の髪を結い、頭を二、三度振ってから、一度頷いて目を閉じた。
すると、黒く染まっていた髪や肌が普通の色に戻っていき、最後には目を開いた。
リーが戻ってきたようだ。
「おぉ…。本当に返してくれました…。他人に身体の主導権を握られるってなんか不思議な感覚ですね」
「まぁな」
「さっきの姿も中々よかったな…」
「そうだな、女の私でも中々…」
「あの二人は放っておけ」
「はい…兄様……。まぁ、二人とも元気そうなのは何よりですけど…」
リーは肩を落としながら静かに笑った。
彼らは干将と莫耶を己の身に宿す事で、事無きを得たものの、当の目的を達成できていない事に気づいている。
しかしそれは、まだもう少し後で考えればいいか、と兄妹揃って同じ考えに辿り着いて解決した。




