第二十二話 「変生」
莫耶は私達を使えと言った。
恐らく、この黒の剣矛と金の剣矛の事を指しているのは理解出来た。
だが、リーは莫耶に顔を近付けて言った。
「……別に私は凄い剣なんて要りませんし、なんなら今は借金を抱えていますからそれを返し切れるようなお宝が欲しいです」
「え、えと…」
シエンはリーの言葉を聞いて、こいつは容赦無いな、と思っていた。
とはいえ、シエン自身も剣なんて使わないのでどうせなら金や金になりそうな宝物が欲しいという言葉には賛成である。
一瞬たじろいだ莫耶だったがその後に刺された部位を抑えながら身を起こし、説得を試みる。
「よいしょっと…。それはお困りのようで…一応この陰陽剣も高値で売れはするでしょうが、売って欲しくないですし…あっ、干将の刃鱗とかどうでしょうか」
「あれを剥がすというのか?」
「はい。この金矛なら行けるかと。是非」
「……俺が剥がしてくる。リーはハオとそいつの様子を見とけ」
「はい。兄様」
シエンは、莫耶から金の剣矛、干将を受け取り、竜が倒れていた場所へと歩いていった。
この時、リーはハオがチィの下敷きになって倒れている事に気付いた。
慌てて、チィをどかそうとするも、彼女は非常に重くなっていた。
「なん、で…こんな重いんですか!?」
「あぁ、それは死んだ状態だからですね…」
「へ?」
「そのままで大丈夫ですよ。貴方がこれを受けとってくれれば、ですけど」
そう言って黒い液体が滴る黒の剣、莫耶を両手で差し出してきた。
リーはそのおぞましい様子の陰剣を見て、若干顔をしかめたが、結果、その陰剣に手を伸ばした。
そして、その陰剣の柄を握った時に莫耶は微笑んで言った。
「ありがとうございます───────これで、私は死ななくて済みます」
「え?…っっ!?」
黒い液体がリーの腕に絡みつき、皮膚を突き破って中に入ってくる。
黒い液体、否、何かが腕の中に入っていく度にメリメリ、ゴリッ、ブチブチと生々しい音を立てて肉、骨を退けながら奥に、奥に入っていくために途轍もない激痛に襲われ、その痛みに叫び悶えた。
「あ゛ああああああああっっ!!い゛っいた、痛い痛い痛い痛い!何これ、何これぇ……!?あ、ぐぅぅ…!」
「耐えて下さいね。私の依り代」
「依りし…依り代!?それってどういうっ………ぐぅぅ…はぁっ…!?あああああああああっっ…!!」
びちゃびちゃびちゃびちゃ…。
莫耶だったそれは黒い液体となって音を立てて床に落ち、リーの足元へと収束していく。
そして、足の肉も突き破り中へ侵入してくる。
こうして、暫く痛みに悶え、叫び、遂には涙で顔を濡らしながら倒れた。
しばらくした後にリーだった者は何も無かった様に立ち上がった。白かった髪が先にかけていくに連れて黒に染まっている。瞳の色もこれまでとは違って赤くなり、肌の色も少しだけ黒い。
「………これが、私?…この子は、誰?」
─────一方で、シエンの方もその事象が既に起こっていた。黄金に輝く液体が溢れ、水溜りになっている。
その中心で膝をつき、白い髪に染まったシエンが水面に映る自分の顔を見ながらこう言った。
「……目が…少し見える。俺は誰だ?こいつは、誰だ?」
何処からか、無数の魂が飛んできた。
その魂はシエンの、そして広間に居るリーの胸元からすっ、と入っていった。
その時に、二人は同時にそれぞれの名を口にした。
「俺が…………干将だ…」
「私が…………莫耶……」
王として選ばれた二人は、息絶えた二人の剣鍛治をその体に収める事、憑依される事を選んでしまった。




