第二十話 「選定の刻、地に立つは黒と白の僭王」
通路を歩きながら、リーは口を開いた。
「兄様、貴方も一緒に戦うんですか?」
「当然だ。妹だけで行かせられるか」
「兄様が居てくれるととても心強いです…。ですけどやっぱり怪我もしてますし…私だけの方が」
良い、と言おうとした時に、壁に追いやられて、顔を極限まで近付けてきた。
兄にここまで接近された事が無かったリーは若干たじろぎながらも目を逸らすことはなかった。
シエンはその状態で口を開く。
「あのな…勘違いするな。お前一人でどうにかなる相手じゃないんだぞ。自分の力を信じるのは良いが、無理をするのはやめてくれ…これ以上家族を減らしたくない」
「……分かりました。共に頑張りましょうお兄様」
その返事にシエンは微笑みを見せた。リーでさえ滅多に見ないシエンの笑顔。
リーはその笑顔を忘れないように脳裏に収めておきながらその場から走り出した。
「行きましょう兄様!勝利して宝物を手に入れれば一発逆転です!」
「あぁ!必ず四人で生還するぞ!」
そうして二人は通路を駆け抜ける。
ハオに教えられた正攻ルートを駆け抜け、遂に大広間、輪廻転生環の中心へと辿り着いた。
そして、その大広間の中央に、大きめの剣矛を二つ持った男が立っていた。彼は二人を見るなり、口を開いた。
「俺の目的は李だけだったが…まぁいい」
「………通り掛かった時に竜が死んでるのを見たがその中身が出てきた感じか」
「あの剣から身体がびりびりするような感じがします…」
「無駄な話は良い!さぁ、始めよう!お前達がこの剣を持つに相応しい器か否か、選定の刻だ!」
そう言って男、干将は二対の剣を構えた。
リーは中腰に構えて、剣に手を掛ける。
シエンはそれを音を聞きながら眺めるだけ。今はまだ出るべきでは無いと分かっているからだ。
「っ!!」
互いの身体がブレて剣がぶつかり合う。一度二度、三度…何重にも重なる剣閃を全て二対の剣で受けきられ、リーは一度身を引く。それを追おうとする干将の前にシエンが飛び入り、正拳を打ち込もうとするも、回避され、刺突の構えをしてくる。
「ふんっ!」
「っっっ…あぶっ!」
盲目とはいえ耳の良いシエンは筋肉の動く音でそれをギリギリ感知し、刺突を間一髪で避けた。そして、倒れる様にして横にずれ、シエンの元いた位置にリーが飛び込んできてさらに追撃を加えにかかる。
しかし、それを分かっていたかの様に黒の矛剣でリーの剣を受け止め続け、隙を突こうとしてくるシエンを金の矛剣で全て躱し続けた。
そして、シエンは剣の柄で、リーは力で。
「無駄ダァっ!!」
「うあっ!?」
「ぐっ…!」
それぞれ別の二方へと弾き飛ばされた。地面を転がり続けるのを抑えなんとか立ち上がるが、動かずに互いに違う思いを募らせていた。
「(あの金の剣、何か攻撃しようとするほど硬くなってる気がする…)」
「(あの黒の剣は攻撃するごとに刃が鋭くなっている気がします…)」
「戦闘中に考え事とは、余裕よなあ!!」
二対の剣を地面に叩きつけ、叩き割られた地面から衝撃波が飛んでくる。
リーはそれを旋回して回避し、刃を投擲し、投擲した方向に自ら突貫し始めた。
「ちょっ、リー!!!」
刃は真っ直ぐ干将の方へと飛んでいくが当然受け止められる、が。その後ろから、剣を蹴る様にして突進し、干将の方の体幹をずらし、身体のバランスを崩させた。
そして、そのまま飛び上がり、もう一本の剣を取り、回転しながら真下へと滑降する。
真下、干将の脳天へと。
しかし、その剣撃ですらも金の剣によって防がれてしまう。火花が散り、地面が砕け、少し沈む。
しばらくの牽制の末、
「しゃらあああああああっ!!」
「きゃっ…!?」
またしても力の差で弾き飛ばされてしまった。
加えて剣が粉砕されてしまった。空中を舞うリーに追撃を加えようと剣を振りかざす干将をシエンが蹴り飛ばし、リーを抱えて着地した。
リーを下ろすと、彼女は頭を下げながらこう言った。
「兄様…ありがとうございます」
「無茶をするなと言ったはずだ」
壁に叩きつけられた干将は壁を蹴り二人が話している最中に飛び掛かってくる。それを少し横にずれて回避し、みぞおち辺りを狙い、膝蹴りを喰らわせる。
「ごあぁ゛っ…!?」
突然の攻撃を剣で守れる訳もなくなんの抵抗も無しに天井へと飛ばされ、そのままめり込んだ。
加えてシエンが跳び上がり、天井に再度叩きつける様にして殴る。
シエンは地面に着地して、目を丸くしてるリーに話しかける。
「警戒を怠るな。どうせ死んでない」
「でしょうね…」
短い会話を切り、天井を見やる。
だらりと今にも落ちてきそうになっている干将は、流血で血まみれになりながらも目だけはこちらをまっすぐ捉えている。
「(剣は折れてますし…兄様とて、本当に隙がないと攻撃すらままならない…)」
「(どうしたものか…)」
そんな時に、リーの背後から甲高い金属音が鳴り響いた。皆の視線がその音の方に移動する。
そこには、三本の剣が投げ捨てられていた。
投げられた方向を辿っていくと、今にも倒れそうな顔色のハオがチィを背負いながら膝をついていた。
「ハオさん!?」
「持って…いけ!なんとしてでもそいつを倒せ!!」
シエンは皆の視線が剣に移動した際に既に動いていた。干将の顔面に向かって蹴りをお見舞いする。
干将の体がぐらりと揺れる。
「…こういう時は習ったものに頼らない方がいいな」
「要らない話をするな…」
「っっ!!!」
唐突の横一文字。
ギリギリで回避するも、前髪が切り取られてしまった。
その結果に納得がいかないのか、干将は大きく舌打ちをして体をふらつかせる。
血がダラダラと流れ滴る干将の様子がおかしく思えたリーが何かに気づき、声を上げた。
「兄様!干将の足元に陰陽印が!」
「……!」
「莫耶、交代だ!」
二対の剣矛を放り投げると同時に、水の様に溶け出した干将は完全に地面へと浸透していった。
そして、それと入れ替わるかの様に、黒い液体状の物がボコボコと床から溢れ出し、人体を精製していく。
さっき出会った幼女の姿ではなく、少しだけ成長して、髪色が黒に染まり、肌も同じく若干ながら黒みがかかり、赤い目元から白いひび割れの様な物が見て取れる。
彼女は降ってきた二対の剣をそれぞれの手で受け止め、笑顔で二人に対して言い放った。
「再開です。あなた方がこの剣を持つに相応しいか、今度は私が見定めましょう。相応しくなければ、殺しますけどね」
対するリーは目つきが変わり、落ち着いた声で言った。
「ここは私が引き受けます」
「な…」
「だって兄様、ハオさんが私に剣を託してくれたんです。何かの想いが募った剣。きっと力になります」
その言葉を口にしながら笑顔を作り、すぐさま変生した莫耶を見据える。
シエンは暫く黙っていたが、やがてそれを認めたようで、口を開いた。
「分かった。俺は出来る限り援護に回る。それでいいか?」
「えぇ。構いません」
「お話は済みましたか?」
肩に金の剣矛を乗せ、首を傾げる莫耶。
それに対して、リーは一本の倭刀を取り出し、莫耶へとその剣先を向ける。
「私が勝ちます」
「いい目です。本当に純粋で、とてもさわやかで、どこかほのかに甘い。本当に…貴方は私好みで。とても良い王様です」
「まだ王になった訳では無いですけどね!!」
その言葉を皮切りにリーは地面を蹴った。
陰の選定戦だ。




