第十八話 「例え刃が届かずとも」
干将と莫耶は、壊れかかった虫の壺の中にまだ残っていた。莫耶が用意した虫達は瓦礫の下敷きになっただろう。それでも、干将は止まらず、破壊を続ける。転生輪廻は此処で終息する。
「良いのですか?干将」
「──────────」
「…貴方の気の向くままに」
干将は環を破壊をしながら、その中心へと行こうとしている。中心には作りかけの陰陽剣があるからだ。それの仕上げをしに。
「待ちなさい。干将莫耶」
その声は広い空洞である筈なのに両者どちらにも聞こえた。二人はその声の主が居る方へと振り向き、莫耶が口を開く。
「李僭王…。私達の邪魔立てをする気ですか…」
「当然です。捕縛された魂を解放して貴方が剣になりなさい、莫耶」
「───干将っ!」
その声と共に干将が動き出し、腕をこちらへと勢い良く伸ばしてきた。
それをリーは容易く回避して、腕に飛び乗り、全力疾走で莫耶の方へと向かう。
しかし、そのまま腕を止めている訳もなく、腕を揺すりリーの足場を崩す。
リーは落下際に干将の腕を蹴り、勢いを付けて干将の両脚に傷を付けた、筈だった。
刃の様な刃鱗に守られ、刃が通らず、そのまま剣が折れてしまった。
「やっぱり。これじゃダメみたいですね、よいしょっ」
大きく旋回しながら走り、二本程転がっている剣を拾い上げ再び地面を蹴る。
今度はその二本の剣を干将の目に向かってその剣を同時に投擲した。
投擲した剣は真っ直ぐに干将の目に向かって飛んでいき、身体をずらし、刃の様に逆立っていた鱗が閉じてその剣を弾いた。
「……そんな芸当も可能なんですね」
リーは再び剣を拾いながらそんな事を呟いた。
今の状態の干将はあの鱗を突破しない限り彼にダメージは与えられないだろう。
剣は幾らでもあるが考え無しに攻撃してもただ剣が壊れていくだけで意味が無い。
あの干将の閉じた鱗をもう一度切り開かせる方法を探るしかない、そう踏んだリーは動いた。
干将の拳が振り下ろされるが、それを旋回しながら回避して壁を蹴って干将の体へと飛び乗り、剣を莫耶目掛けて一本だけ、投擲する。
「……ひっ!」
「………」
当然ながらその剣は干将のもう一つの腕によって阻まれ、弾かれる。
だが、既にリーはその先にいる。莫耶の襟首を掴み、干将の肩から剥離させた。
そのまま、肩を蹴って地面に着地、走りながら身体を回してその遠心力のままに莫耶を干将の方に投げる。
そこまでした後に、リーがペアの名を叫ぶ。
「チィさん!!」
その呼び声と共に、リーが向かう方向から発砲音が鳴り響いた。
リーはそれを確認した後に全力で彼女の元へと走る。
投げ捨てられた莫耶の胸元に、返しの付いた弾丸が深々と突き刺さり、そのまま干将の方へと飛んでいく。
弾丸が点滅し始め、弾丸が熱を持ち始める。
その時に莫耶が呟いた。
「──────あぁ、死にたくありません…。死にたく─────────」
発光が最高潮に達し、その後、干将の腹部辺りで大爆発を引き起こした。
リーは爆発に巻き込まれまいと全力でその場から離れようとしていたが間に合わず、背中を焼かれた。
「あっっ……ぅぐ…はぁー…はぁっぐぅぅ…」
砂煙の中で痛みに悶え、倒れているとゆっくりと足音が聞こえてきた。
その足音は人の物だった。
そして、リーの目の前で足を止めて、その人は口を開いた。
「全く、俺の妹というのは、なんでこうも無茶をするのか」
「…………に、にい、さま?」
その声はシエンの声にそっくりで、ついつい彼女は兄様と呼んでしまった。
男は黙ってリーを肩に担ぐと、さっさと収容室の方へと続く通路の方へ駆けて行った。
通路に辿り着いた時、直ぐにチィが迎えてくれた。
「リー…!ってちょっと、やっぱり間に合わなかったんだな。てか…シエン、お前は妹の扱いをだな…ていうかその傷でよくもまぁ…」
「なんだか。妹の為だと思ったら身体が動かせた。ハオがあんな事を呟かなかったらあのまま寝てただろ。あと、背中を火傷しているからどうしようもない察しろ」
「ふーん。兄妹愛が凄いね」
「取り敢えず応急処置しろ。俺はあっちで寝てる」
「はいよ」
シエンはリーをその場にゆっくりとおろし、収容室の方へと歩いて行った。
リーはうつ伏せのままシエンを見送ってから口を開いた。
「兄様がここまで持ってきてくれたんですね。助かりました」
「ん。取り敢えず歯、食いしばれ。痛いから」
「はい?あっっっっっっっ……あああああああああっ!!!?」
「響くから歯を食いしばれって言ったのに…我慢我慢」
「ああっ…んぐぅぅ…!んんんんっー!」
軟膏のようなものを火傷した背中に塗りたくるチィに痛みに足をバタバタさせるリー。
取り敢えずは一つの峠を越えた気がした。
しかし、先程の爆発でさらに大きくなった空洞にて。
刃の様に逆立っていた鱗が剥がれ、肉が露出する竜の体が崩れ落ち、息絶えた。
その中からズルリと何かが零れ落ちてくる。
人の形をした、何か。
その人型はゆっくりと歩き、顔の一部しか無くなった莫耶を見て、口を開いた。
「……お前を守れなかったのは悔いよう。あの剣士等は必ず討つ。この干将莫耶でな。……では、また会おう、輪廻の果てでな」
長く白い髪をはためかせ、長い前髪から垣間見える目つきの悪い瞳孔はとてつもなく赤い。
上半身は裸で、その両手には二本の矛剣が握られている。
約数百年ぶりに彼、干将は人の姿を取り戻した。
リーという女の剣をみたからであろう。
そして、莫耶が息絶える事でその未完成の陰陽剣は完成にかなり近づいた。
あとこの剣が欲するのは人の血のみ。
血に飢えた陽剣は、輪廻転生環の中心にて白の剣の到来を待つ。




