第十二話 「射鎖魔郷へ」
まだ日もあまり昇っておらず、空は陽の色と夜空の色が混ざり合い、浅黒い紫色の空模様が広がっている。
そんな時に一発の銃声でリーとハオの目が覚めた。
「んー…」
「また銃ぶっ放してるんかあの男女」
三人が寝ぼけて体を起こすと、遠くの方で雑に作られた的に向かって銃を撃っているチィが見えた。
「銃の試し撃ちをしているんでしょうか?」
「せや。あいつは誰よりも早く起きてあぁやって銃の調子を確かめるんや…。ほんまあほくさい」
一発、一発。的に銃弾を命中させ、その度に大きな銃声と的に当たった時の金属音が鳴り響く。
遂には、的が砕け散った。
砕け散ったのを皮切りに、銃を下げて、こちらを振り返った。
そしてこちらに近づいてくる。
「おー悪い悪い。起こしちまったか?日課だから許してくれ」
「いえ、大丈夫です。銃、大事にしているんですね」
「あぁ。こいつらは私の命みたいなもんだしな」
「命…ですか」
「うん。こいつらは私を、ハオを守ってきた銃だし。中々愛着も湧いちまってな。これなくなったら私、死んじゃうよ」
「おー、んじゃあ、ぶっ壊してやろか?」
「蜂の巣にするぞ」
「やめてください、シエン兄様が寝てます」
「「ん?」」
リーがそう言い、二人が視線をシエンに向けると確かに彼は熟睡していた。恐らくこの中で最も耳が良いはずのシエンが銃声を気にせずに眠っていたのだ。
「兄様は眠るのが好きですからね…」
「いやいや…それでもおかしいやろ。儂らで起こされる程の銃声やぞ?なんで一番耳が良いシエンが寝ていられるんや?」
「眠っている時は鼓膜の振動を抑えているのか?」
「…なわけあるかい。んな事出来たらこいつ人間ちゃうで」
耳が良すぎる故に刺激を抑えなきゃいけない。だから鼓膜の振動を抑えている、というのはチィの談。
しかしそれはハオの言った通り人間のやれる事じゃない。
やっぱりシエンもちょっと特異な奴なのだ。
リーがシエンを強めに揺する。
すると、すぐに目を覚ました。
「…なんだこいつ。音で覚めなかったのに揺すられただけで起きるとな」
「……俺は音では起きないけど他の感覚を敏感にしてるから起きれる」
「ほほーん…?面白い体質だねえ」
そう言い、チィが悪い顔で笑みを零す。
絶対、なんか悪い事を考えているなこの女、とハオは考えた。
「じゃあシエンも起きたし行くか」
「そうですね、行きましょう」
「うっし、今日で目的の場所に行くで」
「ん…」
というわけでシエンの特異性が垣間見え、野営地を閉じて、再び歩き出した。
この砂丘は歩けども歩けども砂だ。時折迷宮の入り口の様にぽっかりとあいた穴が見られるのだが、チィとハオはそれをことごとく無視した。
地図をちらちら見るリーだが、この砂丘という地形のせいで今自分が経っている現在地が分かっていない。
だから、無意識に二人について行っているのだ。
道中、何度も巨大化した虫に遭遇した。蟻地獄や蚯蚓などなど…。ちょっと見るに堪えない虫も居たが、ことごとくチィやハオに殲滅された。
たまにリーも参戦するが、狩れても一匹程度。二人には遠く及ばない。倒す速さが半端じゃない。
リーが仕留めた甲虫の残骸を見て、ハオが腕を組んで言った。
「んー。初めて人外相手にしたんやし、まぁ上出来やろ」
「あ、ありがとうございます」
「シエンはどうして見てるだけなんや?」
「俺には向いてないかもしれない」
「そうだな。迷宮まではお荷物かもしれん。迷宮からは反響定位が大いに役に立つぞ」
「そうか。すまんな」
その後も適度に会話を挟みながら、砂丘を進んだ。
甲虫、蚯蚓、百足。いろいろな虫を殲滅しながら砂丘を進んだ。
そして、ようやくたどり着いた。
入口を剣状の岩が取り囲み、明らかに別の迷宮とは違う雰囲気を醸し出していた。
「異様な雰囲気やな…」
「剣状の砂岩が他者の侵入を防いでいるようにも見えるな」
「ここが……射鎖魔郷…」
四人は、その異様な雰囲気に息をのんだ。
空気が重く、冷たい。
そんな状況でチィが歯を食いしばって、大声を上げて穴に飛び込んだ。
「行くぞっ!!」
「おうよ!」
それにつられてハオも飛び込む。
地上には、リーとシエンだけが取り残された。
「行きましょう、兄様」
「あぁ、必ず攻略するぞ」
二人が握っている手を強く握って二人で飛び込んだ。




