第十三話 「深造迷宮」
バシャンという音と共に身体に冷たい物が染み込んでくるのを感じた。目を開けて周りを確認すると、今自分達が居る場所が水中であると知った。
しかし、それを知った瞬間、息が出来ないと察知し、急いで水面へと上昇する。
「っっっっ、ぷはっ!」
リーは水面に出て、切れかけた息を整える。
息を整えながら他の三人も浮き上がってきているかを確かめる。全員、順番に浮かび上がってきた。
その様子を見て、リーは安堵の息を吐く。
「取り敢えず上がりますか…」
水を吸って重くなった服に嫌悪感を抱きながら岸に上がったリーは上着を脱いで服を絞って水分を出しながら迷宮内を見渡す。
天井や床、壁は石煉瓦造りで所々に二体の龍の絵が描かれている。また、大量の錆びた剣が様々な所にまばらに突き刺さっており、何か意味ありげな物を醸し出している。
「まるで昔絵本で見た古戦場…ですね」
「リー、紐が緩んでるぞ」
「あっ、チィさん。ありがとうございます」
後ろからびしょ濡れのチィとハオ、シエンが続々と上がってきた。シエンに関しては既に反響定位で場所を分かっている様で一人でも歩けている様だった。
「ん、こっちに道があるで。下り坂やな」
「じゃあ、そっちに行くか。何処かしらに乾かせる所があれば良いんだが」
「あぁ…そういえば上着だけじゃなくて中もビショビショでしたね」
「うーん、一度全部脱いで乾かさなきゃならないようだな」
「着替えを持ってきた方が良かったですね」
そんな会話をしながら下り坂を下っていくリーとチィを後ろからゆっくりと追いかける様に歩くハオは小さく呟いた。
「ん?」
「どうしたハオ」
「シエン、少し音を鳴らせ」
「…?分かった」
音が鳴りやすい様になっている靴の踵を鳴らし、音を響かせる。
その後、直ぐにシエンが声を上げた。
「んっ…?行き止まり…?」
「せや。普通の迷宮なら道が続いている筈なのに、この迷宮の場合、この一本道しかない上に行き止まり。迷宮ですらないただの穴やな」
「間違えた感じか」
「かもなぁ」
その後、本当に行き止まりにぶち当たり、四人で話し合い、一先ず一晩を明かそうという話になった。
そして、あの水溜りの場所から見上げれば、空から暗くなって来ていた頃。
「昨日水浴びしてねぇからさっきの水溜りに入ってくるわ、綺麗だったし」
「あっ私も行きます」
「んー。早めに帰ってきてな」
比較的ラフな格好に着替えた二人が水溜りの方に歩いて行った後にハオは全員の服の乾き具合を確かめながら独り言を漏らした。
「あー。なんか引っかかるな」
「どうした?」
「いや、この洞窟。ただの洞窟やあらへん気がする」
「は?」
「ほれ、乾いたで。俺が持ってくのもアレやから目が見えないお前が持ってってき」
「おい、話が見えないぞ…」
多くは語ってくれないハオに不思議な感情を抱きながらシエンはリーとチィの服を持って水溜りの方に歩いて行った。
「ただの洞窟だったらこんなにボロい剣なんて落ちてないし、それに、あんな深い水溜り見た事ないわ…」
一人になったハオはそんな事を口にした。
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
「二人とも。服が乾いたから持ってきたぞ」
「あっ、兄様。ありがとうございます」
「おー。そこ置いといてくれ」
「あぁ、では戻る」
服を岸に置いて戻っていったシエンを見ながらチィは頰を吊り上げる。
「んー、盲目とはいえそう言う観点はあるんだねぇ」
「そう言う観点とは…?」
「羞恥心的な?」
「あぁー。確かにそうですね」
シエンとはいえ、そういう事に敏感になる年頃なので、仕方ない。そういう若い感情を持つシエンの事をチィは良いと言う。
チィの好みがよく分からなくなったリーは一人、水溜りの中に潜り始めた。
あの時はよく見てなかったが、この水溜りは底が見えないぐらい深い。
「(不思議な感覚ですね…)」
そんな時だった。水溜りの見えない底の方で何かと目が合った気がした。何か嫌な予感がしたので一旦水面に上がろうと上を目指そうとした時。
「──────っ!?」
まだ月光で明るかった水中が一瞬にして暗転した。
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
大きな水の音を聞いたシエンとハオは急いで水溜りの方に走った。
そして、その水溜りの異変に驚き立ち止まった。
「な…んやこれ?」
「…?」
「水がない…さっきよりかなり浅くなっとる。…っ!?なんや!」
「え?」
上を向いてハオが叫ぶ。
そしてソレが上から落ちて来た。
姿を見たのは一瞬。黄金に輝く巨大なナニカ。
そしてそれは大量の水を撒き散らしながら穴の中に消えていった。
「あいつらの服も消えとる…器用なこっちゃな…」
「何が起きた?」
「持ってかれたんや…!あの二人を!」
「つまり……この下に迷宮があるのか」
「……?なんでそんなに落ち着いてられるんや?妹が持ってかれたんやで?」
「俺の妹はもうか弱くない。剣が無くても戦える」
「薄情な兄貴やなぁ…」
そう言いながらハオは元いた場所に戻り、チィの銃器を担いだ。シエンはそれに合わせるようにリーの倭刀を持った。
「行くぞ…」
「あぁ」
そして二人もあの黄金のナニカを追うようにして水溜りに飛び込んだ。




