ようこそいらっしゃいました!! 聖女様!!!
今回、とっても短め。
聖王国シルフィリアを聖女が発った、と言う先触れから一ヶ月と18日。
早くて7日、通常で10日掛かる道程である。
「聖女はまだですか?」 と言うさり気無い問いに、「とっくに発った」と言う答え。駐在外交官とそんなやり取りを3往復した後の事だ。
辿り着いた聖女一行は、道々、怪我人や病人を癒して来た為に時間がかかったと詫びた。
慈母なる女神の愛し子たる聖女には、病気や怪我を治癒する力がある。
魔法とは呼ばれない、選ばれた者だけが使える奇跡の御業。
聖王国シルフィリアは、四百五十年前、四代目の勇者と共に魔王を討った聖女を女王として、その故国が名を改めた国だ。各国に散らばり搾取されていた聖女を纏め、聖教会で管理・運営する事で分け隔てない人間の治療を行う制度を作った。
それから規模を増し支持を高め、聖王国――および聖教会は権力を増した。
誰しも、病や怪我を治療してくれる存在を無碍には出来ない。その恩恵を賜った者も、当然信徒になる。女神シルフィードは今や創精神ゼウシスにも勝る信仰を得ていた。
サラマンド王国の王都サルマにも聖教会の支部があり、その象徴たる教会は王城に並ぶ絢爛さを誇っていた。
国王であるマルセルの方が権威はある。立場も上だ。それでも、聖教会および聖女の人気はマルセルとは方向性の違うもので、それを軽視すれば民意を失いかねない。
国境を越えてからの聖女は、馬車をゆっくりと走らせ街々で治療行為と言う名目で歓待を受けながらやって来た。
王都へ入ってからも、勇者の凱旋さながらの華々しさで民衆の熱狂の中をやって来た。
マルセル達は王城の入り口でその様子を見守りながら――二時間、待った。
やっと辿り着いた聖女一行は、騎馬した聖教会騎士10名。それから三台の馬車。
一番先頭から聖女と最高神官服の中年男性、二台目の馬車からは女性神官3名。三台目からは誰も降りて来ない。門番が言うには、聖女の荷物だったという。
悠々と降り立った聖女は、目に痛い程真っ白な白い長衣に、薄いベールを鼻の辺りまで被っている。首からは女神シルフィードの紋章のペンダント。右手には聖女の宝杖。聖剣と同じく、聖なる力を備えた聖女の神具だ。
恭しく腰を折る所作は美しく、神聖だ。
「サラマンド王国の輝ける太陽、マルセル国王陛下にご挨拶申し上げます。此度は勇者様の召喚、まことにおめでとうございます。勇者様一行に加えていただく為、聖女ミカエラが参上いたしました」
声は澄んで、ピアノの音色のように耳に心地良い。
「うむ」
と厳めしさを意識して、マルセルは一つ頷く。
「聖王国シルフィリアの尊き聖女よ、よく参られた。天高きにおわず女神シルフィードに感謝するとともに、その使者として歓迎いたす」
「有難きお言葉にございます」
顔を上げた聖女は、口元を綻ばせる。ベールから晒されたそれだけが、艶めかしく弧を描いていた。
後ろに並んだ臣下が姿勢を正し、神官たちが膝をつく。
「ようこそいらっしゃいました!! 聖女様!!!」
その日は聖女も到着直後で疲れているだろう、と言う事で軽い挨拶だけで、彼女達は教会へと向かった。王国滞在中は王城ではなく教会の居住で生活する意向らしい。
正直マルセル側としては、目の届く所に居て欲しい。だが彼女が、出立までは一人でも多く治療したい、と言う。その献身を前に、「正直聖教会にのさばられたくないし、勇者より目立ってほしくないんです~」とは言えなかった。
何せ、勇者召喚を無かった事にしたい王国側だ。勇者には王国の将来を背負って欲しい、だがその勇者を表に出したくない、と言う矛盾。
教会に向かう聖女を笑顔で見送るしかなかった。
一方、その頃勇者は――と言えば、まあお察しだろう。
自室の寝台で大の字になっていた。アシュレイはその腹の上で同じく大の字になって、涎を滴らせていた。




