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異世界から勇者を召喚したら、どう見ても魔王な件  作者: なち
【悲報】我が国が召喚した救世主、どう見ても魔王

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11/11

うちの勇者様、今何してる?



 聖女の来訪から五日。

 日々治療に明け暮れている、と教会側が言う聖女は、市井の噂では街の至る所でその姿を見るという。勿論治療をしていないわけでは無い。毎日決まった時間に治療院は開かれるのだが、その時間には常駐している他の聖女達に混ざって治療をしているという。

 ただそれ以外の時間の多くは、調査だとか、旅支度だとか、仲間探しだと言って街を散策しているというのである。

 民は大喜びである。魔王討伐に志願した、清らかな容貌の聖女。

その人気はうなぎ上り。

目の前で転んだ少年の膝小僧を、汚れも厭わずすかさず治療。食堂で会った、腕を折って休職中だと言う大工にも治療。市場で勇者見たさに無理をしてから寝込んだままの老人の話を聞けば、その家を訪ねて治療。ちなみにこの老人は、中央広場で一瞬神に召され掛けた。

 マルセルに頼み込んで聖女にお供していたケイロンは、涙を流さんばかりに報告した。

 ケイロンは聖女と女神シルフィードの信奉者である。

孤児院育ちのケイロンは、軽い風邪や栄養失調で仲間を失った事が多くあった。孤児院の子供達は、まともな治療を受けられない。聖女の数は限りあり、貴族達が優先されて、教会が謳うような平等などありはしなかった。それは仕方がないことだった。理解はしていた。

だからある日、教会での役目を終えた老聖女が、その空いた時間で孤児達を見舞ってくれるようになると、ケイロンは聖女という存在を敬愛するようになった。

 教会の制度には正直思う所はある。ケイロンのような平民の下っ端がこき使われる現実も、性根の腐った神官が居る事も、知っている。

 それでも聖女を崇めているケイロンは、女神シルフィードに仕える為に教会に入った。

 まだまだ下っ端であるケイロンには、聖女に挨拶する事もままならない。それが今回、魔王の傍に侍っ

たお陰で、国王に伝手ができた。

 神は、いる!


 高揚に上気した顔で、ケイロンはマルセルに報告した。

そして、魔王の部屋でも聖女の素晴らしさを熱く語った。

「ふーん」

と気の無い返事で流しながらも、魔王は考える。

 この世界に召喚されてから、随分な月日が経った。その間、それなりに快適に過ごして来たが、この部屋に籠りきりだった。

 自堕落生活には満足しているし、日参して来るマルセルもアシュレイにも文句は無い。

最近はポテチの完成度も高い。

だが、

「聖女様は果物がお好きなようで、市場では良くお食べになられて!」

とケイロンが語った瞬間、魔王は思い出したのだ。

 聖剣を抜いた中央広場で、雄叫びを上げて酔っ払っていた男。その男の左手にあった肉串。

美味そうだと思った。網目のついた分厚い肉が四つ。かかっていた赤いタレも気になった。

 隣の男が小さい樽のようなコップを、豪快に傾けていた。動く喉仏。飲み下されるのは絶対酒だ。

魔王がこの城で日頃飲んでいる上品な酒とは絶対違うと思う。

 民衆が埋め尽くす広場の先で、家屋に寄り添って並んだ色とりどりの布屋根。あれが市場だったのだろう。

「よし。俺も街に行こう」

 聖女には微塵の興味も持たぬ――所か、存在すら頭にはない――まま、魔王は颯爽と立ち上がった。



 その頃、マルセルは会議室で重い尻を叩かれていた。

「聖女が来てしまった今、猶予はありません」

もっともだ、と臣下達はギルロイの弁に頷く。

「魔王だろうが何だろうが、あの男には勇者の仮面を被ってでも進軍してもらわなければいけませんぞ。戦域まで行ってしまえばこちらのものです」

「マグマイトには我が国最高の戦士達が揃っています。そこで魔族と共に討ってしまいましょう!」

マグマイトは、魔王領との国境にある戦場の名である。軍務長官の右腕たる歴戦の戦士が総司令として派遣されている。

 他には軍閥である、マルセルの母の生家などから5人の将軍。名を売りたい傭兵。誇りある騎士。ギルドの依頼を受けた冒険者。

 マグマイトには、常に国内の最大戦力が集まっている。

「……」

マルセルは顎を撫でて思案する、フリをした。

 魔王は勇者としては落第である。魔王と考えれば脅威である。

だが、あのニートは存外とても気に入られている。城で働く女達は嬉しそうだし、停滞していた城の食事情も進化を遂げている。彼を恐れて貴族達も大人しいし、重鎮達もやり難そうだ。

何より、アシュレイ。とても愛らしい笑顔を、マルセルにも惜し気無く晒してくれる。父親であるマルセルより魔王に懐いているのには言い得ぬ感情も湧くが、あの子の幸せはマルセルにとっても幸せだ。

 今のままでいいのでは? むしろその方が、私は平和だ。

 と、言えるマルセルでは無い。

「……現状、魔王軍の動きはどうか」

「総司令からは、魔王軍四天王から「勇者が召喚されたって本当?」と探りを入れられたようです。総司令は否定したのですが、我が方が浮足立っているのを見て、「じゃあ、こっちも本腰を入れる準備をしよう」――魔王軍四天王の言葉そのまま、前線を維持して後続の半分が下がったようです。好機と仕掛けたのですが、敵の魔法戦力には苦戦しており、のらりくらりと逃げられると。あまり深く入らないようにしている、との事です」

軍務長官セドリックは、総司令の報告書をそのまま読んだ。ちなみにセドリックには戦における知識が無いので、総司令は子供に話すように嚙み砕いて報告しているらしい。

 ――なぜ軍務長官なんだ、本当に。

「……兎に角、勇者様の召喚は国王陛下たっての要望で成立したこと。交渉には当然、今まで通り陛下に立っていただきます」

 宰相ギルロイは勇者の前には二度と立たないと決めている。立っても、口は利きたくない。空気になる。

ただでさえ薄毛を気にしてるのに、あの翌日は抜け毛がそれはもうやばかった。

「それから、各国からも書状が来ております。勇者様の動向伺い、進捗、支援の内容――これらはこちらで協議して、返答いたしますが宜しいか」

「……任せる」

「それでは国王陛下におかれましては、早急に勇者様とお話いただきますよう。聖女からも勇者様との謁見を打診されております故、よろしくお願いします」

 

こうして、会議はお開きとなった。

 残されたマルセルは、疲れた吐息を漏らす。それから、背後に控えた侍従に

「うちの勇者様、今、何してる?」

力無く、尋ねた。



 ――この後、魔王のご機嫌伺いに行ったマルセルは、聖女との謁見の条件として市街へ降りる許可をし、アシュレイに泣き落とされて、二人の観光をも許可する事になった――。




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