虚像
私は彼の事を名前で呼ぶ事にした。茂さんは、私の話をずっと聞いている。見ず知らずの子供にここまで出来るだろうか。私には分からない。
怪奇小説を書いているという茂さんは、私の話に興味があるようだ。そこで私は夢の話や、幽霊と会った話をした。どれも突拍子もない話だったが、信じてくれた。
もしかすると、都市伝説が好きな菜月さんなら彼と気が合うかもしれない。ところが、それよりも私と話したいそうだ。
「幽霊を見たのは本当かい?」
私が頷くと茂さんは立ち上がった。
「じゃあ、その幽霊を探しに行こう。」
茂さんは子供のように喜んでいた。私は喜ぶのはどうなのかと思いながらも付いて行った。
「私はその子を知らないんです。でもその子は私に何か伝えようとしてたんじゃないかって…。」
「そうなのか…。それで、どうしてそのカメラを指差したんだろうな。」
茂さんは何か考える素振りを見せた後、私にこう聞いた。
「そのカメラはどうしたのかい?」
「刺された時に落としてしまったみたいで、その後は回収されたそうで手元には無いんです。」
「そうか…、その子はカメラの持ち主を探していた。君にはその子が誰か分からないが、亡くなったお父さんならそれが分かったかもしれないな…。」
茂さんも大切な人のカメラを持っているそうだ。その為か、私の気持ちはよく分かるそうだ。
「カメラに映るのは虚像、写真は真実であり虚ろなものなんだ。」
茂さんはそう呟いた。
私達は中学校に辿り着いた。茂さんは取材と称して入校許可を取って一緒に入る事になった。
私達は図書室に向かった。今日もあの時と同じく誰も居なかった。幽霊の噂が立ってから誰も図書室に寄りつかなくなったそうだ。
私は図書室の奥へ向かった。すると、そこにはあの少女が立っている。その姿は以前よりもはっきりとしていた。
(来て)
少女は図書室を出て学校の外へ向かう。私達はそれを追った。
彼女が向かったのは人気のない公園だった。その近くの路上で父は刺されたと聞いた。何故彼女はここに来たのだろう。
(ここに大切なものがある)
少女が指したのは公園の植木だった。私がそこを掘ると、石とも異なる硬いものがあった。
そうして拾ったのは金属のリングだった。書類を留めるものにも見えたが、それにしてはしっかりしている。
「これは…、指輪?」
私はそれを大切に仕舞った。指輪の事を少女にも伝えようとしたが、その姿は消えていた。
その指輪は父の婚約指輪だった。カメラは壊れてしまい、もう戻らないが、この指輪を父の形見として大切にしている。
その後、茂さんとは別れた。これからの日々を悲しみに抱きながら生きていかなければならない。どんな事があろうとも、生き続けられる限りはそうしなければならない。
それから、しばらく経ってから警察から連絡が来た。私と父を刺した犯人が見つかったという知らせだった。