二十五章 その言葉は 六
今後の方針について、しばし語らったのちに、ゼクディウスは安堵からため息をついた。
「にしても、みんな割と平気そうで安心した。あんなくたびれてたから、相当長いこと休憩必要そうだと思ったんだが」
「本気で魔術使うには、まだ時間かかるけどな。日常生活ができるくらいには回復したさ」
「ふひひ……道路の真ん中でごろ寝ばかりもしてられないですからねぇ……」
「意外と回復って早いんだな……やっぱり、そのあたりの感覚が俺にはわからないからなぁ……」
ローザとクフェアの言葉に、ゼクディウスはそんなつぶやきを漏らす。
「うーん……体力で考えると、それこそ倒れこむまで全力疾走して、ようやく、はうくらいはできるようになった、というところでしょうか。魔力は精神ともかかわりがあるとされますから、精神を酷使しすぎて動く気力もわかない、というところを抜け出たばかり。もう一度立ち上がり、歩いたり走ったりするにはまだ早いという段階ですね」
「つまり、まだ精神すり減らすようなことはできない、って認識でいいな?」
「ええ。そうなります」
カークスの説明にゼクディウスは得心したとうなずく。
「じゃあ、精神すり減らすようなことは俺が一人で済ませておく。みんなはゆっくり休んでくれ」
「何する気っすか?」
「ま、お偉いさんへのあいさつ回り、ってところだな。腐った連中でも、お上はお上。せいぜい媚びへつらって覚えをよくして、利用させてもらうさ」
「先生……意外と悪いところもあるんですね」
「利用できるものを使わないって選択肢はない。少なくとも、戦争中はな」
あえて悪人じみた笑みを浮かべて見せるゼクディウスに、一同はあきれるのだった。
来客は、日が変わった直後のことだった。
「ゼクディウス様、このような時間に申し訳ございません。火急の要件、と国から招集がかかっているようです」
マイルディアのその言葉に、ゼクディウスは最初こそ戸惑った。
しかし。次の言葉を聞いた時、戸惑いを置き去りにしてでも行動すべきだ、と判断するに至る。
「なんでも、ゼクディウス様の次に優秀だった、と言えばわかると、宣戦の大使が呼びだしているとか……」
翌日への準備に励んでいたゼクディウスだったが、彼には、そう自称するク・マキナの人物に心当たりがあった。
だからこそ──様々な準備を途中にしてまで、今、王宮にいるのだ。
「ゼクディウス・カルーレン、招集に応じ、参じました。なんでも、ク・マキナの大使が私を呼びだしているとか……?」
「ようやくの到着か。大使殿には、早くお帰り願いたいのだが、なぜかゼクディウス・カルーレンと会うまでは帰らない、と仰せでな。あまりにも長く滞在されては、あらぬ疑いもかかろうというもの。敵国の者とはいえ、それは本意ではないのでな」
「かしこまりました」
いちおうは目上にあたるであろう相手に、うやうやしく接するが、それを当然とばかりに相手は返事をする。
「貴賓室で大使殿はお待ちだ。王宮は初めてか?」
「はい。なにしろ、一代で財を成した男の息子ですので……いかような形であれ、このような場所に足を踏み入れることが許されるとは夢にも思わず」
「本来ならば、むろん分不相応だがな……成金の息子も呼び出せんとなっては、ムル・クアリアスの名が廃る。光の後を追え。その程度できるだろう?」
あからさまに自身と、父を軽んじた発言にゼクディウスは内心舌打ちをしながら、案内役として作られた魔力の球について行く。
「……やれやれ。さすがに王宮ともなると、随分と広いな。しかし、なんなんだ? この光」
ただの魔力球ではない、と感づいているがゆえに、ゼクディウスは気を抜いたようなひとり言を漏らした。
カルーレン家に、魔術が使えないものがいる。そのことは、国の上層にある人間ならば誰もが知ること。
だからこそ、さも魔術の知識がムル・クアリアスに住んでいれば最低限耳に入る程度しか知らない、ということにしなくてはならない。
敵国に魔術の情報を流した。そう思われては、教え子達の立場、命さえも危うくなるのだから。
「お、光が止まった……それに、随分と立派なドアだな。貴賓室はここらしい」
緊張なく呟いてから、貴賓室のドアをノックするゼクディウス。
なにしろ、忍び込みなれた場所にいるのは、知らぬ相手ではないのだ。ゼクディウスにしてみれば、緊張する方が難しい。
形だけは正式に、ノックをする。
「待ちわびていたところだよ。僕の要求はようやく通った、というわけかい?」
敵国にただ一人でありながら、傲慢なまでの態度の大使。相変わらずか、とため息を吐きながら、ゼクディウスは戸を開ける。
「その声は、やっぱりお前か。久しぶりだな」
広大な部屋に、一人たたずむ女性にそう声をかけるゼクディウス。
「やあ、久しぶりだね……カルーレン首席?」
意味深に微笑む女性は、ゼクディウスのことをそう呼んだ。




