十九章 それぞれの想い
「ちょ、ちょっと待って! それって、つまり…!?」
食事を終えた面々は、思い思いの場所へと散って行った。
そして、今ゼクディウスと双子は、孤児院前の広場にいた。
「…ああ。アオイは、サーシャに結界術を全て教えて、この村を守れるようにしたら…この村を出て、一級魔術師として戦地に赴くつもりだ」
「そんな…! 盗み聞いたことが本当なんて…そんなことじゃ、私たちがしようとしたことが無駄になっちゃうじゃない!」
「サクラ、落ち着いて! 先生がそのままにしておくわけが無いでしょう?」
「ミウメ…そうね。そのとおりだわ。先生、あなたは、これからどうするつもりなの?」
その言葉にゼクディウスは大きく息を吸い、吐き出した。
「サーシャに、わざと飲み込みの悪いふりをしてもらうしかできない。時間稼ぎだな…」
暗い表情のゼクディウス。その表情が双子にも伝染していく。だが、それに気が付いたゼクディウスはもう一度ため息をついて、再び口を開く。
「もう一つ、考えはある。アオイの考えの根底をひっくり返すような考えだ」
それを聞いて、双子の表情は明るくなる。
「本当!? そんな考えがあるなら最初から言ってよ、もう!」
「先生、それはどんな考えなのですか?」
そう聞かれ、ゼクディウスは穏やかな笑みを浮かべる。
「簡単なものだぞ…だが、俺の理想とは真逆だ。その答えは…アオイが徴兵に応じるなら、俺たち全員も兵役につく、ってアオイに伝えることだ」
そこでゼクディウスは一息つく。
「まあ、アオイは俺たちを守るために徴兵に応じようとしている。なら、守るやつら全員が自分も戦う、って言いだしたらどうなると思う? 徴兵に応じる意味、無くなるって思わないか?」
「確かに…でも、先生の言ったとおりね。本気で兵役につく、って言ってるなら、犠牲者を出さないって言う先生の理想とは真逆だもの」
「もちろん、脅しだぞ? お前が戦うなら俺たちも戦う、っていうな。そんなことをされればあいつ的には大慌てだろうさ」
そう言うゼクディウスはどこかしら焦燥を感じる。急いで策を考えないと。そんなところから来ているものなのだろう。
● ●
「…そうかい。ようやく、決意したんだね」
一方そのころ。孤児院の院長室でアカネとアオイが話をしている。
「はい。徴兵に応じます。母さんの言葉は正しいですから」
老化抑制魔術陣によっていまだに十代半ば程度の姿。その姿ににあった声でアオイは答える。
「…あんな言い方しかできなくて、済まなかったね。大切な娘に、いたら迷惑だなんて…親として、失格だよ」
沈んだ声のアカネ。それにアオイは明るい表情で首を横にふる。
「そういう言い方しかできない状況ですから。でも、この村を守るためにサーシャに結界術は教えたいですね…」
「分かってる。あの子は飲み込みがいいからね。きっとすぐさ」
「授業の隙間をぬって、結界術の教科書を書かなくてはいけませんね。家事は、幸いゼクさんが何とかしてくれますし…」
「そうだね…まあ、あいつのことだ。ただ見送るだけってことはしないだろうから、その時のことも考えておくんだね」
苦虫を噛み潰したようにアカネが言うと、アオイは笑顔で答えた。
「守るために、傷つけないといけない時もあると母さんの言葉で学びましたから」
● ●
その頃、サーシャの部屋では。
「白いの。本ばかり読んでていいのか? 双子の言ってた事が確かなら、アオイは…」
「…お兄さまなら、きっとお姉さまの暴走を止めるような良い策を考えてくれるでしょう。私より、何倍も良い策を」
「それでもだ。何も考えないでいるのは…」
「…なにも、考えていないわけではありませんよ」
そう言うと、サーシャはローザに読んでいる本の背表紙を見せる。
「対魔術戦闘基礎…? こんなの読んで、どうしようって言うんだよ?」
「…お姉さまは、多少強引な手段を用いてでも私たちをここにいさせたままで首都へと向かうでしょう。それを止めるためです。妨害魔術を使う自信は、今はありませんが、その日が来るまでに勉強すればお姉さまに数秒の隙を作ることができるかもしれません。その数秒にお兄さまが、そして、ローザさんがどうにかしてお姉さまを抑え込んでくれる…私は、そう信頼しています」
その言葉に、ローザは息を大きく吸い込んだ。
「信頼しているたぁ…人をやる気にさせるの、うまいな…分かったよ。とりあえず、オレたちはペアだ。オレがお前の手足になってやる。だから、どんな無茶な策でも言え。頭脳に従うほうが、オレはやりやすい」
「…はい、ありがとうございます。どんな手段を用いても、お姉さまを守りましょう。それがたとえ…いえ、なんでもありません」
そう言うと、サーシャは再び本に目を通し始めた。
● ●
アオイが去った、アカネ一人の院長室。そこでアカネは声を上げずに笑っていた。
「爽快、とでも言えばいいのかねぇ…この感情は…」
そう言いながら、机の鍵付きの引き出しを開け、中の一枚の紙を見やる。
そこには、たしかにこう書かれていた。
『プロジェクト・デグリスィニンア ラッカルッカ 中間報告書』
その紙に書かれた文字はその題を除き、ク・マキナでも、ムル・クアリアスでも、ルア・メクルイデスの文字でもない文字でつづられているため、内容は分からない。
ただ、アカネはその紙を幸せそうに見つめていた。
「あたしの…マソオの…トウオウの、シコクの、ソヒの! パークウェルの姓を継いできた者達の願いが、ようやくかなう…! ふふ…今日を、戦乱を待っていた…!」
その様子を見たものは、誰もがこう思うだろう。
この女は狂っている。
「研究、実験は済んだ…あとは、ふふ…」
狂気のこもった瞳で全てを見返すと、アカネは紙をしまい、厳重な鍵をかけた。
「さて、ガキどもの様子でも見てくるとするかね」
そう言うころには、すでに普段通りに戻っていたが、それがまた、一種の恐怖だといえた。
十九章 END




