八章 思い思いの時間
彼らの夕食までの思い思いの時間。その様子を見よう。
まずは、外に遊びに出た双子から。
● ●
「わぁー! ふふふ…今日の苦行は終わり!」
サクラはそう言ってはしゃぐ。しかし、ミウメはどこか落ち着いた様子で、それを見ている。もちろん、普段なら二人一緒になって遊ぶような状況だ。
「ミウメ? どうかした? おなかでも痛いの?」
「え…ううん。何でもないわ」
そういうミウメ。しかし、その顔色は良くはない。ゼクディウスやアオイと比べればだいぶマシなものではあるが、どこかくらい。
「…ねえ、サクラ。ゼクディウスさんは、なんであんなアンケートを用意したのかしら?」
「? どうしてって…あの人自身が言ってたじゃない。戦争のことを考えていたら何となく、って」
「そうよね…でも、それが本当なのかなー、って思うの」
ここ、パークウェル孤児院にやってくる前のことを思い出すミウメ。
まだミウメとサクラという花の名をつけられる前の話。その頃は、ミウメもサクラに依存に近い感情を持っていた。それ故に、ミウメはサクラを守らんと必死に自分の秀でた部分を磨き上げていた。
その結果できたミウメの能力。それは、一つの魔術への異常なまでの適正と、嘘を見抜く能力だった。
その能力が、囁くのだ。
ゼクディウス・カルーレンは、何か嘘をついていると。
「ミウメは、あの理由が嘘だって思うの?」
サクラもまた、能力がある。一点に特化した、魔術適正。そして、これは能力と呼ぶべきではないかもしれないが――ミウメへの全幅の信頼。サクラは、もしもミウメが何か命令をしたら、きっとそれは正しい、と実行に移ることだろう。その好意が、殺人だったとしても。
だから、ミウメの言葉をあっさりと信じる。
「んー…断じはしないけれど、なんかあやしいわよね。サクラはそう思わないの?」
「私に聞かれても困るっていうか…嘘を見抜くのって、ミウメの方が上手だもん」
信頼から、サクラはミウメの判断に任せようとする。
「そっか…うーん…私の考えすぎなのかなぁ」
ミウメはミウメで、自分の嘘を見抜く能力に確証を持っているわけではない。まあ、女のカンのようなものだろうと思って、それなりの信頼はしているのだが。
「そうだ、ゼクディウスさんの普段の様子をのぞいてみましょう! そうしたら、何かわかるかも!」
子供らしい安易な思い付き。しかし、この場にそれを止める者や、異議を唱える者はいない。
「そうね! 私も一緒に行くわ!」
「よーし、それじゃあ、ゼクディウスさんの部屋の窓際へ行くわよー!」
● ●
場面は変わる。
(…ローザさんが借りていった本…読んでみたい…)
自室で勉強しながら、サーシャはそう考えていた。
双子に“鈍器”という感想を持たせたほど分厚い本。その中にはどれだけの知識が記されているのか。学びたいという意志の強いサーシャは、それが気になって仕方なかった。
(…私にも…読ませてくれるでしょうか…)
ローザのゼクディウスに対する態度を思い返しながら、しかし、自分には優しくしてくれたことを思いながら考え続けるサーシャ。
(案ずるより、生むが易し…とりあえず、行ってみましょうか)
しばらく勉強しながら考えた末にそう結論付け、サーシャは部屋を出て、フラフラとした足取りでゆっくりとローザの部屋へと歩き出した。
そのさなか、中庭を挟んだ先の廊下を歩いているアオイをサーシャは目にする。
(…? お姉さま…どうかされたのでしょうか…)
その様子は、端的に言って挙動不審。ちらちらと周囲を気にして、まるで自分は尾行されてないか、とでも思っているかのようだ。
(…私には、気付かなかった様子…あちらには、確か…お兄さまの部屋が…あっ)
その事を思い出し、何かを感じるサーシャ。
(…まさか。お姉さまともあろう方が、そのような事…あっても、お兄さまがそれを受け入れるとは…)
少しの間無表情で悶々とするものの、そんなことはありえないと自分に言い聞かせてローザの部屋に再び歩き出すサーシャ。
そして、彼女はローザの部屋の前にたどり着く。
(えっと…まずは…ノックを…二回はお手洗いで、三回は親しい相手。四回がマナー…だったでしょうか…)
そんなことを思い出したサーシャは、コン、コン、コン、コンとゆっくり四度扉をたたく。
『…誰だ?』
「あ…私、です。サーシャです」
『入っていいぞ』
「…失礼、します」
そっと扉を開けるサーシャ。
「オレになんか用か?」
ベッドの上に座り、サーシャに声をかけるローザ。枕元には先ほどの分厚い本が置かれており、おそらくベッドに横たわりながら読んでいたのだろうと想像させる。
「…あの、その本を、私も読みたくて…」
「その本? ああ…先公から借りたやつか。別にかまわねーけど?」
「…ありがとうございます。ですが、お兄さまのことを先公呼ばわりするのは…どうかと…仮にも、教師相手なのですから…」
「お前はまじめすぎだ、白いの。オレは、あれくらいの奴をいちいちセンセーなんて呼んでられない」
「…左様ですか」
残念そうな様子を見せるサーシャ。
「逆に聞くが、お前はなんで出会ったばかりの相手を教師だの、お兄さまだのと信頼できるんだ? お前は人が怖いはずだろ?」
「…そうですね。ですが、お姉さまとの約束ですから…それに…悪い人では、無いと思うので…」
「お姉さま…アオイのことか。その約束が無かったら、どうだ? あいつのことをお兄さまだなんだと慕っていたか?」
そう言われて、サーシャは少し考え込む。いつかこの村の外から誰かがやってきて、サーシャにも優しくしてくれる。そうしたら、部屋の外に出てみてほしい。そんな約束を思い出していたのだ。
「…お姉さまがいなければ、人間不信の中にいて、外に出ようとはしなかったかもしれません。ですが…お姉さまはいますので…」
「要するに、アオイを信頼しているから、アオイが信用する相手も信用してみよう、ってわけだ」
「…最初は、そうでしたが…今は違います。お兄さま自身が、良い方だとわかりましたから…あなたも、ですよ…? ローザさん」
「…ふん、そうかよ」
面と向かって良い方といわれたのが照れくさいのか、顔をそらしながら言うローザ。
「んな事より、本、読みに来たんだろ? さっさと読むぞ。オレも気になるから」
「…はい」
それが照れ隠しなのは誰もが見て取れたことだろう。それが分かっているのか、サーシャも笑みを浮かべる、とまではいかないが、やわらかい雰囲気になる。
「続きからじゃ、お前が内容分からないだろうから、最初から読み直すか…しかし、ところどころによめねぇ文字があるんだよな…」
その言葉にサーシャは少し疑問を感じる。
(…ローザさんも、一通り読み書きはできるはず…なのに、読めない…?)
「…その文字、見せていただいていいでしょうか…?」
「別にいいけど…あ、ここな」
そう言ってローザは本の挿絵部分を指さす。そこには、サーシャがふだん触れている文字とは異なる文字があった。
「これは…旧ク・マキナ語…?」
しかし、その文字の形状を知らないわけではない。前に読んだ本で、ほんの少しだが紹介されていたのをサーシャは記憶している。
「よく分かるな…」
「…読書は、毎日欠かしていませんでしたから…」
記憶にある代ク・マキナ語を呼び覚まし、何とか読み解いていく。
「…ル・クル・ウル・ラル ラーイヌ マキュイナ=デグリス ラレライア マクナエラ…」
「…さっぱりわからん。現代ムル・クアリアス語に直してくれ」
「できません」
ゆったりとした喋り方をするサーシャにしては珍しく、すばやく、断じるように言う。
「…その…本で見て、形と発音を覚えただけなので…単語の意味までは…」
「ああ、なるほど…しかし、発音だけ知ると内容が気になるな。何とか知りたいんだが…」
「…お兄さま」
「あいつがどうかしたか?」
「…お兄さまなら、意味を知っているかもしれません。そうでなくとも…辞書を持ってらっしゃるかも…」
「なるほど。一理あるな…あいつに頼らないといけないってのは不満だが」
そう言うローザの表情は本当に、心の底から嫌なのだろうと感じさせるもので、サーシャも少し戸惑いを見せる。
「…ローザさん。あなたは、なぜお兄さまを…いえ。男性をそこまで嫌うのですか…?」
「あぁ? なんでだぁ?」
声を荒げるローザに、サーシャは怖がる様子を見せた。それを見て、ローザも動揺する。
「わ、悪い…脅かす気はなかったんだ。ただ、な。オレにだって、話したくねぇこともあるんだ」
「…それが、男嫌いの理由、だと?」
「ああ。まあ…男は最低だから、ってことだけは言っとく」
そう言うローザの瞳はどこか怯えていて、彼女らしくない。それを感じたサーシャは、これ以上触れない方がいいのだろう、と察する。
「…すいませんでした」
「いや、オレの方こそ悪かった。ほんと、脅かす気はなかったんだ」
その言葉を聞いて、サーシャは一つの疑問を感じる。
(オレ…普通なら、男性の一人称…男を最低といっておきながら、男になりたがっている…のでしょうか…)
とはいえ、それを聞けばやはり男嫌いのことにかかわってくるだろう。サーシャはそう判断し、そこにも触れないことにした。
「…とりあえず、お兄さまの部屋に行きましょう」
「は? 今から行くのか? なにも部屋まで行かなくても…」
「…気になったことはすぐ答えを知りたい性分なので。それとも…ローザさんは、知らないままで放っておきますか?」
(それに、お姉さまがあんな様子でお兄さまの部屋の方へと向かっていたのも、気になります…)
そんな思いを隠しつつ、本を手に持ちローザの部屋をフラフラと後にするサーシャ。気のせいか、そのよろけ方は先程までよりひどく見えた。
「待てよ。そんなフラフラしてたら、自分の部屋にも帰れねーだろ…ったく、オレも行きゃいいんだろ?」
そう言って後ろからサーシャを支え、本を持ちあげるローザ。
「…ありがとう、ございます」
「お前は体弱すぎだぞ、白いの。これくらいでふらつくなよな…」
そう言うローザの腕を見るサーシャ。太くはないが細くもなく、しっかりと筋肉が付いていることが見て取れる。
「…ローザさん、私が思っていたよりも…トレーニングに、精を出してらっしゃるようで」
「これくらい普通だろ? これで納得してちゃ早いんだよ。オレは…もっと強くならないといけないからな。弱い女のままじゃいられないんだよ」
「ローザさんは…強くなりたいのですか?」
「誰だってそうだろ。大切なもんを守りたいとか、それが無い奴は自分自身を守りたいとか…オレはそう言う守るための強さがほしい。傷つける強さなんて、強さじゃねぇ」
その言葉に、サーシャはそっと微笑みを浮かべる。
「…ローザさんは、やはり優しいですね」
「…っ! お前、やっぱ笑うとかわいいわ」
「…? そうでしょうか…」
その言葉に、サーシャの表情は微笑みから疑問に変わる。
「ああ。男にその笑顔、ポンポン見せるなよ。気があるって勘違いされるからな」
「…はい。分かりました」
そんな事を話している間に、二人はゼクディウスの部屋にたどり着く。
● ●
場面は変わる。
「うぅ~…うぅ~…!」
アオイは一人、部屋のベッドの上でうめくかのような声を出しながら転がっていた。
(やっぱりダメ。一人だと心細い…母さんか、ゼクさんと一緒に居たい…)
もやもやとした気持ちで、抱き枕に顔をうずめるアオイ。
(でも、母さんはここを維持するための仕事で忙しいはずだし…ゼクさんも、きっと家庭教師としての仕事をしていますよね…)
戦争のことを知っている誰かとそのことで話をして、自分の中のもやもやを消し去りたい。でも、その誰かは皆忙しいはずだから、自分なんかが話をしに行って困らせてはいけない…そんな思いにとらわれ、アオイは少し泣きそうになる。
「ダメ…泣いたら、止まらなくなっちゃう…」
口に出して言う事で、自分の感情を律するアオイ。
「私はしっかり者のお姉さん…みんなを支える側なんだから…心配をかけちゃだめ…!」
姉としての自覚と、若くして一級呪文師になるほどの精神力。それがアオイの涙をかろうじて止まらせていた。
(大丈夫…私は泣かずに耐えられる…)
自分に何度も何度も言い聞かせ、感情の波を耐え続けるアオイ。
その戦いは、数分に及んだ。
(…少し、落ち着いてきた)
ぼんやりとした頭で、そう考えるアオイ。
(でも、このまま一人でいたらまた同じことの繰り返し…それじゃダメ。夕飯まで耐える自信もないし…)
ではどうすればよいか。一旦感情を整理し、一級呪文師らしい聡明な頭脳で考えだすアオイ。
「迷惑でしかなくても…一緒に居てもらうしかないかな…」
一人でいるからダメなら、二人、あるいはそれ以上でいるしかない。そして、その相手は自分と同じ事情を抱えた相手が好ましい。
つまりは、ゼクディウスか、アカネのどちらかだ。
「…仕事を手伝えるのは…ゼクさん、かな」
手を動かしている方がましで、相手の手伝いもできる。その方が相手の迷惑にもならない。そんな考えから、ゼクディウスの元に行こうと結論付けたアオイ。
「うん…ゼクさんには悪いけど、ちょっとだけ…一緒に居てもらおう」
そう言って立ち上がり、自室を後にするアオイ。
(…って! 落ち着いて考えたら女性が男性の部屋を訪ねるのってどうなの!? な、なんか変な意味にとられたりしないよね。お、オーケーの合図だとか…そんな意味に…大丈夫だよね? ゼクさんは…そんな人じゃないもんね)
少し頬を染めて、万が一の事態を想像するアオイ。その想像が終わりになるころには顔は真っ赤になっていた。その間戦争のことを考えないですんだ、と言えば彼女にとって良い時間だったろう。
(ちがう、違う! ゼクさんは、そんな人じゃ…! 私が変な事を考えすぎているだけ!)
ぷるぷると頭を振り、頭の中から“変な事”を追いだすアオイ。
(でも、他の人は邪推するかもしれないし…うう、二重の意味で見られたらまずいことに…)
実際は入っていったところを見られても“アオイは真面目だから手伝いに来たのだろう”くらいしか思われないのだが…戦争と、“変な事”で頭がいっぱいなアオイにはそんなことは思い浮かばない。頭はいいのだが、抜けているところがある。彼女を言い表すにはその言葉がぴったりかもしれない。
(とりあえず、私の後方を探知。前方は…自分で注意していれば大丈夫)
「天上の目よ、我にその視界の一部を見せたまえ。範囲は、術者の後方。いざ、与えたまえ」
小さくつぶやくと、アオイの後頭部にどこか禍々しい、それでいて荘厳で清らかさも感じさせる目を思わせる魔方陣が浮かんだ。
「これで、よし」
その魔方陣はゆらゆらと揺らめいて、アオイの後を追いかけるように動く。そして、魔方陣の中の目を思わせる部分は、上下左右にうごめき、どこか不気味だ。
(これで後ろの方で動いたものがあればわかる。あとは周りに気を付けて…)
きょろきょろと周囲を見渡してみたり、耳をそばだててみたりと、彼女なりに周囲を気にする。
そのかいあってか、誰とも会うことなくゼクディウスの部屋の前までたどり着くアオイ。
(私が話をして迷惑になる分は仕事の手伝いで取り戻す。それでいいよね)
どこか後ろめたい気持ちを、そう考えて打ち消し、アオイはゼクディウスの部屋の扉をノックする。
『どうぞ』
「失礼します」
返事を待ち、扉を開けるアオイ。
「アオイか。どうかしたのか?」
優しげな笑みを浮かべて迎えるゼクディウス。彼が作業をしている机の上には山のように紙が積まれている。
「やっぱり、お忙しそうですね」
「ま、それなりにな。打文機があれば楽なんだが…給料をためて買うかな。家庭教師をお役御免にされたら、カンパニュラにでも渡していく。あいつ、小説を書くのが趣味なんだろう? だったら、あれば便利なはずだ」
「打文機って言ったら、結構高価じゃないですか。家庭教師としての仕事に必要だって言って、母さんにある程度お金を出してもらったらどうですか?」
「なるほど、その手もあるな…考えてみるよ」
にっこりと笑うゼクディウスに、アオイは心が落ち着くと同時に、あこがれを感じる。
(ゼクさんは強いな…こんなふうに、私もなれたら…)
自分と同じ立場にありながら、このように笑顔を浮かべられる。その強さにあこがれずにはいられない。
だが、アオイは知らない。ゼクディウスもまた、心の内は乱れに乱れているのだと。
「さて…たぶんそうだろうと思うから言うんだが…一人でいるのがつらくなりでもしたのか?」
図星をつかれ、アオイは安らぎに似たものを感じた。
「はい…ばれちゃいましたか」
「そりゃ、そんな不安そうな顔を見せられたら察しはつくさ」
そう言われて、アオイは思わず鏡を探してしまう。
(そんなに表情に出ていたでしょうか?)
それを確かめるために今の自分の表情を見てみたかったのだ。
「心配しなくても、皆の前では普通だったよ。弟妹の前ではしっかりしないと、って思いがよっぽど強いんだろうな」
そう言うゼクディウスは、やはり笑顔だ。
「…ゼクさんは、強いですね。最初の方こそ戸惑っていましたが、それでも私ほどじゃないです。今では、私の事を気にかけてくださるほど落ち着いてらして…」
うつむきながらアオイはそう言う。
(いけない、こうならないために会いに来たのに…また泣きそうになってきた)
「落ちついてなんかいないぞ? 俺は…現実から目をそらしているだけだよ。そうでなければ、葬式躁病みたいなもんだ。事態が大きいから、逆に…っていうか。それだけだ。俺よりアオイの方がよっぽどしっかりしてる。みんなに心配をかけちゃだめだ、って思いだけで耐えてるんじゃないか?」
図星をさされ、アオイは思わず顔を上げる。
「会ってそんな期間はないわけだが…なんか察しはつく。そんなふうに、自分の中に封じ込めてるんだろう、とな。まあ、こういう言い方だと口説いてるように聞こえるだろうが…俺の前では素になっていいんだぞ? 泣きたいなら泣けばいいし、叫びたいなら叫べばいい。みんなに聞こえない程度にな」
頬をかきながら、苦笑いをしているゼクディウス。それを見たアオイは、少し言葉に詰まる。
「そんなこと言わないでください…こらえているものがあふれちゃいますから」
「だから、あふれさせて構わないって。俺たちは共通の秘密を持っている。そしてそれはとても重いものだ。だったら、自分が耐えられない部分は相手にも一緒に持ってもらっていいと思う。まあ、その相手は俺かアカネさんくらいなわけだが」
困ったような笑みでゼクディウスは続ける。そして、それを見たアオイは…。
「……っ!」
はら、はら…涙が、こぼれていた。透明で、夕日を浴びて輝くそれは、まるで宝石のようで。
「すいません…! わ、私、しっかりしなくちゃいけないのに…」
自分が泣いていることに気付き、慌てて涙をぬぐうアオイ。
ゼクディウスはそれを見て、ポケットからハンカチを取り出す。
「俺の前でくらい、しっかりしなくてもいいんだぞ? 一歳とは言え、俺の方が年上なんだから、少しくらい甘えてくれよ」
アオイの涙をハンカチで優しくぬぐいながらゼクディウスはそう口にする。
「ま、またそうやって口説いてるようなことを言うんですね、ゼクさんは」
「つらい事を抱えているアオイに少しでも楽になってもらえるなら、口説きもするさ」
「ゼクさんだって、私と同じなのに…私と同じつらい事で、戦争のことで、悩んでいるはずなのに…」
ぽろぽろと涙をこぼし続けながらアオイは言う。
「俺に気を使うな。俺は大丈夫だから…全部吐きだして、楽になるといい。しっかりするのはそれからでも遅くないさ」
「…っ、はい…!」
そう言うと、アオイはゼクディウスに抱き付き、その胸に顔をうずめた。
「戦争なんて…嫌です~~! 始まらないで~! ずっと平和なままでいて~~~!」
突然抱き付かれ動揺するゼクディウス。しかし、アオイの叫びに正気に戻り、そっと抱き返す。
「そうだな…戦争なんて始まらないのが一番だ」
「ク・マキナの人たちのバカぁ~! なんで兵器増産とかしちゃうんですかぁ~!」
「今まで続いてきた平和を崩すような事…本当に、バカだよな」
そっとアオイの頭をなで、胸元が湿っていくのを感じるゼクディウス。
その時、部屋の扉が開かれ、窓の方から物音がした。
八章 END




