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50・二人は幸せ

最後に余談が入りますが、別に……と思ったらスルーしてくださって結構です。なんの支障もございませんので。あしからず。

 手作り結婚式は、終始和やかなムードで行われた。友達がピアノ演奏してくれた「結婚行進曲」に合わせて新郎新婦が入場し、互いに誓いと指輪の交換を行う。その後はひたすらお喋りの時間が続いていた。 一応高砂席のようなものは設けられていたが、気兼ねなく話せるほうがいいということで、新郎新婦共にずっと友人たちと楽しくお喋りをしに回っていた。中央に置かれた大き目のテーブルには、デリバリーとはいえ中々美味しい料理が揃っていて、お酒も沢山用意されている。アットホームなパーティーに相応しいウェデングケーキは、やっぱり友人の手作りだった。二人が大好きな苺が沢山盛られていて、チョコレートで出来たプレートには丁寧に似顔絵まで描かれている。ケーキ入刀のあとは新郎新婦の手でケーキがゲストに配られて、あっという間にケーキは完売した。まもちゃんが描いたウェルカムボードもとても評判が良かったようだ。ちゃんと会場内に飾られて、ゲストの目を楽しませてくれたみたい。どこからか「この絵、どこかで見たことあるけど……」なんて声は聞こえてきたけれど、先輩が漫画家だということは勿論ここでも極秘だ。

 最初はガチガチだったまもちゃんも、次第に緊張が解けてきたのか随分リラックスしているようだ。今日はあの瓶底眼鏡を掛けていないので、なんだか少しだけ気まずそうだけれど。

 まもちゃん曰く、眼鏡は自分の本心を隠したり人との距離をとりたいから掛けていると言うのだ。以前、内海先輩の彼女との間に起こったことを考えたら、自分の本心は隠したほうが楽に生きていけると思ったそうだ。人と深く関わりたがらないのは、怖いから。いつ裏切るか裏切られるかわからないこの現実から、自分を守る為にあの瓶底眼鏡を掛け始めたそうだ。

 あれは自分の顔色を隠してくれるから、そう話してくれた。じゃあ、なんで今は掛けていないのかって? それは……


「香澄には本心を隠したくないし、ちゃんと見つめたいから」


 と、はにかんで私に答えるまもちゃん。照れたように頬を染めて、困ったような表情をして、こんな台詞を言われたら……もう抱きつかずにはいられなかった。人目を気にせず彼に抱きつくと、周りがやんややんやと盛り上がり、まもちゃんは真っ赤になって一所懸命私を引き剥がそうとする。でも、とても愛おしい気持ちが込み上げてきて、私の腕はまもちゃんの首に絡んだまま外れることはなかった。

 大好き

 凄く大好き

 どんなに口にしても私の気持ちの全てを伝えられそうにない。それくらい、私は片思いしていた頃よりも彼の事が大好きで仕方ない。私達が起こしたハプニングは、いい余興になったようだ。周りの人も新郎新婦も、大いに盛り上がっていた。和やかな時間はあっという間に過ぎ去り、最後はたろちゃんの謝辞で締めくくることになった。最後の最後にたろちゃんは泣かせてくれる……。会場内は沢山の涙と笑顔が溢れて皆で最後に写真を撮って、お開きとなった。


 *****


「それにしても、嬉しいなぁ」


 会場からの帰り道、私はまもちゃんと二人で歩いていた。明日は会社なので私達はそのまま東京にとんぼ返りすることになり、今は駅構内を歩いていた。そして私の手には新婦・晴菜ちゃんから貰ったブーケがある。オレンジ色が綺麗なブーケは、帰ったらドライフラワーにしようと思っている。すっかりご機嫌な私はまもちゃんの横で鼻歌なんて歌ってしまうくらい浮かれていた。と、言うより、あまりにも幸せなパーティーにまだ気分が浮かれていたのかもしれない。まもちゃんもそんな私の様子を温かな眼差しで見つめてくれていた。

 新幹線に乗り込んだ私達は、席に着いて一息ついた。お酒で喉がからからに焼けていたので、駅で買ったお茶のペットボトルを取り出して、ゴクゴクと喉に流し込んだ。五百のペットボトルはあっという間に半分以上なくなってしまった。私のお茶も、まもちゃんのお茶も同じように半分以上なくなっている。二人ともよくお酒を飲んだからかもしれない。ようやく終わった大きなイベントから解放されて、私もまもちゃんも死んだように眠りについたのだった。


 新幹線から降りて最寄り駅までの電車に乗り込んだ私達は、寝ぼけ眼のままユラユラと電車に揺られボーっとしていたらあっという間に最寄り駅に到着。慌てて降りた私達をくすくすと笑いながら通り過ぎる乗客の視線から逃れるようにホームを出ると、そこはいつもの私達の街の景色が広がっていた。あぁ、帰ってきたんだなぁと思うのはどうしてだろう。確かに楽しかったはずなのに、帰ってきた途端ホッとするのはどうしてなんだろう。私達はそのまま帰宅した。勿論、しっかりと手を握り締めて。

 

「今日、また泊まってもいい?」

「え? 仕事は……」

「ない。樹や翠にはご飯もチンして食べられるように用意したし、実はここから出勤できるようにスーツも用意してきたんだ」


 にっこりと微笑みながら荷物を掲げるまもちゃん。あぁ、だからこんなに荷物があったのか……と、今更納得した私。勿論、まもちゃんを拒否する筈もなく、そのまま私の部屋に二人で入っていった。部屋に着くと二人は大きく息を吐いた。そしてそのまま私達はお土産にもらったお菓子を広げてテレビを観ながら食べ始めた。美味しい美味しい地元のお菓子を嬉しそうに食べるまもちゃん、そして私はあのアールグレイを淹れた。アールグレイを注いだカップを手渡すと、まもちゃんは懐かしそうに目を細める。


「これを二人で飲んだ時は……こんな風に香澄と付き合えると思わなかったなぁ」


 ぽそりと呟くまもちゃんをジッと見つめていると、片手で「おいでおいで」と私を手招く。そしてそのまま、まもちゃんの両足の間にすっぽり入り、背中をまもちゃんの胸に預けるように座った。後ろからは暖かなまもちゃんのぬくもりと、とくんとくんと穏やかな鼓動を感じながら抱きしめられていた。前に回された腕をぎゅっと掴むとさらに力を込めて抱きしめるまもちゃんが、愛おしくて仕方ない。安らぎを与えてくれるこの時間が、永遠になればいい、そう思えた。


「香澄、今日は凄く素敵な式だったね」

「うん……幸せいっぱいの式だったね」

「僕達も、あんなふうに幸せな式を挙げたいね」

「え!?」


 私がぐるっとまもちゃんの方に振り向くと、まもちゃんはいつになく真剣な顔で私を見つめている。そして優しく私の左手をそっと持ち上げると、薬指にキスをした。キスをしたままの姿勢で上目遣いで私を見つめ、にっこり微笑むまもちゃんは、なんだか少し凛々しく見える。


「この指は、予約済みの証」


 うっすら残るまもちゃんの証は、小さくピンク色に染まっていた。まるで誓いの儀式のように、私を愛おしむように何度も指にキスをする。そしてそのまま後頭部を引き寄せられ、優しいけれど熱を帯びた激しいキスが何度も何度も繰り返される。呼吸をする暇も与えられないくらい角度を変えては深く、深く私を蕩けさせた。そして、激しいキスが終わると額と額を合わせてまもちゃんが囁いた。


「いつか……僕のお嫁さんになってください」


 突然のプロポーズに、私は嬉しくて言葉が出せない。何度も首を縦に振って頷くだけで、言葉は何時になっても出てこなかった。代わりに出てきたのは大粒の涙。ぽろぽろと彼の手を濡らすように流れ出る涙を、優しく指先で拭ってくれるまもちゃん。そしてそのままぎゅっと抱きしめられた。

 私の夢は「お嫁さん」。それを叶えてくれるのは、まもちゃんだけ。他の人じゃダメなの。まもちゃんじゃなきゃ、夢は叶わない。だから……お嫁さんにしてください。


「一緒に幸せになろうね、香澄」

「――うん!」


 お互いに強く強く抱きしめ合い、交したキスは生涯忘れることはないだろう。

 ワンルームで誓った愛は、永遠だ。

 初めて言葉を交したミステリアスな眼鏡の先輩は、今では私の大切な恋人。

 ずっとずっと、大事な人。


                         ――本編 完――




 *****余談*****


 ある日の事。

 会社の昼休みに屋上でまもちゃんの手作りのお弁当を一緒に食べていた時のことだ。


「はぁ~……」

「……なんでお前が一緒に昼ごはん食べてるんだよ」

「はぁ~……」

「おい、内海!」


 そう。なぜか内海先輩が私達と一緒にご飯を食べているのだ。二人の時間を邪魔する……もとい仲間に入るように側に寄って菓子パンをかじっている内海先輩。どうやら何かを聞いて欲しいらしい。その様子を見て、口を開いたのは私だった。


「内海先輩、何かあったんですか?」


 すると、よくぞ聞いてくれた! と言わんばかりに輝く笑顔が私達に向けられた。それを見てドン引きしていた私達の様子には気付くこともなく、内海先輩は私達にペラペラと話し始めたのだった。


「実はさ……ちょっと前からなんだけど、忘れられない子がいてさー」

「内海ならいつもと同じようにその子に接すればいいじゃないか」

「そうじゃないんだよ。その子は皆のものなんだ。だけど、好きという気持ちは膨らむばかりでさ」

「なんだそれ? 皆のものって」


 手作りのお弁当をもぐもぐ食べるまもちゃん。今日は三色弁当に象さんのウィンナーに花の形をした人参が乗った肉じゃが、そしてりんごのうさぎさん……これは、全てまもちゃんの手作りだ。まもちゃんを嫁にしたい! と思ってしまう私はおかしいのだろうか? お弁当を食べ終えたまもちゃんは、食後に牛乳を飲んでいた。どうやら今でも大きくなれるんじゃないかと密かに思ってるらしい。無理だと思うけど、あえてそれは言わないでおいた。


「実はさ……俺、とある握手会に行ったんだよ。その握手会の作者がさぁ……すっげー可愛くて」


 内海先輩がうっとりと思い出しながら話している内容を聞いた途端、牛乳を吹き出したのは言うまでもない。紛れもなく、まもちゃんの女装のときの話だろう。


「しかも、彼女が姿を現したのはそれ一回きりで……会いたくても会えないんだ。切なくて胸が締め付けられるよ」


 陶酔しきっている内海先輩を冷ややかな目で見るまもちゃん。その横で笑いを堪えているのは私。

 何、これ。おかしすぎる……!

 内海先輩、その恋は実りませんよ。だって私が恋人ですから!

 ……とは言えないので、そのまま笑いを堪えていた昼休みだった。






ども。

ついに最終話です。4000文字超えてしまってすみません。

幸せ満載にしてみました。如何でしたか?

守にも香澄にも幸せになってほしいものです。本当は守とお父さんの話とか、まだ認めてもらってないお母さんの話とか、香澄の両親の話とか(親ばっかだな)色々あったんですけど、すっきり50話で収めるのに彼らの話は邪魔でした。なのでカット!

何はともあれ、無事に完結を迎えることができました。

読んでくださった皆様のお陰です。

本当にありがとうございました。大感謝です。



また、しばらくしたら連載を開始しますので、見かけたら是非お立ち寄りくださいませ~(´∀`)♪

では最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

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