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94 中央塔


 俺達は首都ヘイムの街並みを窓越しに見ながら中央塔へ向かう。


 さすが最先端技術を生み出す国の首都なだけあって、街のいたるところに魔導製造所がある。


 魔法の力で動かす製造所は元の世界にあった石油や電気を動力とする工場よりもクリーンに思える。


 そういった面では元の世界よりも環境に優しく、一歩進んだ世界なのかもしれないとまで思えた。魔法ってすごい。


「あの製造所は何を作っているんですか?」


 良い機会だし、前の席にいる警備隊の人に聞いてみた。


 右側の窓から見える製造所は一際大きい。白い外装は同じであるが、建物自体がやや半球体のような丸いフォルム。


 他の製造所とはちょっと違って目立つ建物だ。


「あれは魔導具の魔水晶や魔導師用のローブを製造している場所です」


「室内で魔法の発動試験も出来る場所なんですよ」


 警備隊の人曰く、あそこは戦闘用魔導具の製造所らしい。


 魔法の発動試験もするような施設を街のど真ん中に置いても良いのか、と思うが何重にも防御魔法壁が重ね掛けされていて安全面も確保されているそうで。


 それに製造されているのは一般人向けの出力が制限されている物、所謂護身用の魔水晶のようだ。


 これらは悪漢から身を守る為であったり、魔導師育成の為の学園で教材として使われる。


 魔導師向けのローブはその名の通り、魔導師の人達が着るローブ。


 このローブには使用者の魔力がブーストされる加工がされているのだが、この加工方法は魔導国で秘匿とされている技術である。


 故に他国の王族でも簡単に製造所へは入れない。敷地内外には警備隊の人が立っていて、警備も厳重だ。


 製造所を通過すると、中央塔へと向かう為のゲートに差し掛かる。


 俺達の乗る馬無し馬車はゲート前で一時停止。ゲートを警備する人が俺達を確認する。


「ようこそお越し下さいました!」


 エリオス王国の王族が乗っていると確認すると、警備隊の人達は一斉に敬礼した。


 他国の王族相手に失礼のないように、という事なのだろう。だけど、あの人達はみんな俺を見ていたような?


「当然だろう。この国は賢者の出身国であるし、3代目が家族を持って暮らした国だ。王族よりも英雄に気を配るのは必然だろう」


 ほんとぉ?


「そうですよ。英雄様が改良したという新型聖水。あれで仲間が救われました。感謝申し上げます」


「英雄として召喚される方はこの世界に影響を及ぼします。それも良い方向に。感謝していない者などおりません!」


 話を聞いていた前の席の人達がそう言ってくれた。


 知り合い以外に言われるとすごい照れるね。作った聖水で助かったと言われると貢献しているんだな、と改めて思える。


「到着致しました」


 中央塔の入り口前に停められた馬無し馬車。


 外で待機していた警備隊の人にドアを開けられ、順番に降りていく。


「ようこそお越し下さった」


 警備隊に守られながらも俺達を出迎えたのは白いローブを身に纏い、顔には白いヒゲを生やしたお爺さん。


 杖ととんがり帽子を被っていれば大魔導師である! と名乗っても違和感がない。


「久しいな、ヴァレリー。年相応に老けておるようだな」


「ほっほっほ。先生は……相変わらずお変わりないようで」


 エリスさんと挨拶を交わすお爺さん。彼はエリスさんが言った名前からして国の代表である魔導工学長『ヴァレリー・レオンガルド』なのだろう。


 召喚陣を作った賢者の末裔、そして3代目の血を受け継ぐ者か。


 エリスさんと交流を持っている人物で、先生と呼ぶのは若い頃に彼女から学んだからだと聞いているが。


 こう2人が並んでいるのを見ていると、先生と生徒が逆に思えてしまう。


「アリア姫様もようこそお越し下さった」


「はい。この度はお世話になります。そして、こちらが今代の英雄ユウキ様です」


 約束通り、アリアちゃんによる紹介までじっと待っていた俺は満を持して一歩前に出る。


「初めまして。原平ユウキです」


「私はヴァレリー・レオンガルドと申します。英雄様、お会いできて光栄ですぞ」  


 にこやかに握手。


 笑みを浮かべたヴァレリーさんは優しいお爺ちゃんって感じだ。


「さぁ、どうぞ中へ」


 立ち話もそこそこに、さっそく中へと案内された。


 塔の中には研究者らしき白衣を着た人と警備隊の人達が列になって俺達を迎えてくれる。


 エントランスには受付窓口、そして一番目を引くのは――


「エレベーター?」


 エントランスの奥に上下に動くエレベーターらしき物があるのだ。


 ガラス張りで外が見えるようになっているやつ。


「英雄様の世界にもありましたか?」


「はい。上下に動いて人を運ぶヤツですよね?」


「そうです、そうです! こちらは3代目英雄様が開発しました」


 なるほど。魔鉄道なんて物を作るくらいだ。エレベーターを作っても違和感はない。


 しかも、エレベーター前には案内人がいるVIP仕様。俺達がいるので今回だけの特別待遇なのかもしれないけど。


 俺達はエリオス王国騎士と警備隊の先導でヴァレリーさんと共に乗り込んで上に行く。


 総勢20人くらいだろうか。それほどの人数が乗っても狭さを感じない大きさ。すごい。


 チーンと音が鳴って停止した階は最上階の8階だった。


 エリオス王国の騎士と警備隊の人が先に降り、先導されて辿り着いたのは広い応接室。


 席に着き、お茶を配膳されたところでヴァレリーさんが話を切り出す。


「今回の件は把握しております。皆さんが自由に調べ物を出来るよう手配しておりますので」


 エリオス王国から事前に説明を受けているからか、既に準備は出来ていると説明された。


 抜かりない準備にエリスさんも満足気に頷く。


「英雄様への協力準備も出来ております。担当する者は私の孫です。あとでお会いして頂ければ、と」


 ヴァレリーさんの言葉を聞いて俺は立ち上がる。


「協力ありがとうございます。本当に助かります」


 俺は誠心誠意心を込めて頭を下げる。


 しかし、担当してくれるお孫さんはどんな人なんだろう?


「ほっほっほ。世界の為です。それに……」


 そう思っていると、笑っていたヴァレリーさんがエリスさんを真剣な表情で見た。


 エリスさんが頷くと、次は俺を見てずずいと顔を近づけてくる。


「しかし、我々も英雄様に頼みがございましてな」


「た、頼み……?」


 俺はゴクリと喉を鳴らした。


 エリスさんを横目で見ると、彼女は既にその頼みとやらを知っている様子。


「わ、わかりました」


 俺はヴァレリーさんの頼みを聞こうと承諾した。


 だが、気付くべきだったのだ。彼もまた、エリスさんと同様に研究馬鹿であると。


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