95 煉獄の絵面
頼みがある、と言われた俺はヴァレリーさんの案内で場所を移した。
移動した先は中央塔4階にある実戦場。4階全体のフロアを2つに区切り、2ヵ所で魔導具の性能実験を行える凄い場所。
外で見た製造所のように専用の防御魔法が施されていて、魔法を室内でぶっ放してもOKという。とんでもねえな。
こんなとんでもねえ場所に連れて来られた訳だが、勿論ヴァレリーさんと2人きりじゃない。アリアちゃんとエリスさんも一緒だ。
「ほうほう。これは……これは……」
だが、今の俺は猛烈に後悔している。
「ほら、英雄様。もっとこちらに突き出してくだされ」
何ならヴァレリーさんと2人きりの方が良かった。アリアちゃんはいてほしくなかった。
何故かって?
ヴァレリーさんに尻を至近距離から見られているからだ。いや、正確に言えば尻の前にある魔法陣なのだが。
いつぞやの、エリスさんが俺の魔力総量や魔法陣を調べた時と同じ。
しかし、その時より人数は多い。
何とヴァレリーさん以外にも中央塔に勤める研究者達も参加しており、俺のケツの前には常に5人の顔が至近距離にある状態だ。
地獄の絵面再びである。いや、もうこれは煉獄だ。
「あん♡」
ケツに顔を近づけるヴァレリーさんと研究者さん達の鼻息がくすぐったい。思わず甘い声を漏らしてしまった。
大丈夫か? アリアちゃん、ドン引きしてないか?
「アリア様、あちらにも不思議な物がございますね」
「ええ。何でしょうね。ところで、ユウキ様は――」
「ああっと! あれは空飛ぶイチゴじゃないですか!?」
「空飛ぶイチゴって何ですか!?」
全力でキースが彼女の気を逸らしていた。
俺はハンケチーフを歯で噛み締めながら声を我慢しつつ、キースのファインプレーに涙を流した。
ロザリーさんは完全にドン引きしてる。表情から「キメェ」と思っているのが一発でわかった。
「ふむ。何度見ても不思議だ」
そう言いながら腕を組んで頷くのはエリスさん。
不思議だ、じゃないよ! あんたの孫の恋人が尻の前に知らん人の顔を並べられて観察されているんだぞ!
「撃つ時はお尻を向けるんですよね?」
「しかし、何故に尻へ魔力管が伸びているのだ?」
「いや、人とは違う場所にあるからこそ魔力水などの生成を可能にするのかもしれない」
研究者さん達は考察始めちゃったよ。マジで考えるのやめて。
女神様んちがミスっただけだから。
「あの的に撃ってもらえますかな?」
「はい」
ヴァレリーさんからの催促が来た。協力を得る為の対価として立っている今の俺は頷く他無い。
「ファイヤッボッ!」
俺はケツを的に向け、言われた通りに魔法を撃った。
種類は何でも良いと言われたので、発動に慣れている牽制用のファイアーボールをチョイス。
「威力が大きくありませんか?」
「初級魔法とは思えん威力だ。1発で2発分くらいの威力だろうか?」
そう言い出したヴァレリーさんは魔力測定器を持って、俺のケツに容赦なくぶっ刺した。
「どういう理屈なのでしょう? 減っているのは初級魔法1発分です」
「魔力量に比例して威力が上がるのは分かっているが、これはおかしい。1発分なのに威力が2倍……。英雄に備わった能力なのか、それとも先人が唱えた説が間違っているのか」
みんなで頭を悩ませる。俺は尻を突き出し続ける。
どうなってんだおい。もう腰がいてえ。
「英雄の能力ではないのか?」
「まだ経過観察と追加調査が必要ですな」
エリスさん、話に参加してないで止めてよ!
さすがにもうキースの時間稼ぎも限界だ。俺はそろそろ腰が痛いから、という理由で終了してくれと言おうした。
その時、実戦場のドアが開く。また追加でケツを拝みたい人が来たのか、そう思ったのだが……。
「おお。ユキ、こっちに来なさい」
にこやかに笑うヴァレリーさん。手招きされたのは、ドアから姿を現した片目が隠れるほどの前髪を伸ばした子。
女の子だろうか? 体が細くて小さい。アリアちゃんよりも少し大きいくらいだ。
服装はズボンとシャツ。顔は可愛い。
見た目では女の子としか思えない。
「英雄様。この子がワシの孫であります。名はユキと申しましてな」
「は、初めまして。ぼ、ぼくはユキと申します」
ほう、ボクっ子ときたか。
見た目は完全に女の子だ。声は少年っぽい。
こりゃあどっちだ?
ニコニコと笑いながらも、目の前にいるユキ氏の性別を探る。まるでわからねえ。
「ユキ君、お久しぶりですね」
「アリア様、お、お久しぶりです」
どうやらアリアちゃんと面識がある様子。それにしても、アリアちゃんはユキ氏を君付けにしていた。
つまりは男の子か?
「相変わらずユキは可愛い顔をしておる。このジジイとは大違いだ」
「この子は母親似ですからの」
HAHAHA! なんて笑い合うエリスさんとヴァレリーさん。
エリスさん、あんたは俺の予想を揺さぶったよ。女の子なのか?
「英雄様。この子が例の件に協力する技術者です。こう見えて、腕は一流。ご安心くだされ」
ほう、この子が。もう性別がわからんが、ひとまず置いておこうじゃないの。
俺はユキ氏と挨拶を交わす。
だが、彼女(彼?)は俺の前でモジモジし始めた。どうした。
俺の挨拶には問題無かったはずだ。
「あの……」
「ん? どうしたの?」
俺は優しく問いかける。スマイルを絶やさず、親戚のお兄さん風の雰囲気を必死に出した。
「ぼ、ぼく、英雄様に協力できません!」
おーまいがー。




