93 首都ヘイム
魔鉄道は進み、山の多かった景色から平地へと変わる。それと同時に小さな村や街が見える頻度が増えて来た。
村はエリオス王国とあまり変わりは無い。
レンガ造りであったり木造の家屋が並び、家の近くには畑が広がっているような感じだ。
大きく特徴が出るのは、やはり街のような大きな規模の場所だ。
各街には特色があって、鉱山資源を加工する事をメインに据えている場所もあれば食品加工に力を入れている場所もある。
共通しているのは道中で見た白い建物――これらをまとめて魔導製造所と呼ばれる――が必ず1軒は建っている事。魔導具による製品加工で街が力を入れている物を多く製造しているようだ。
あとは各街には必ず魔鉄道の駅がある。魔導具に分類される魔鉄道発祥の地であるヘイム魔導国ならではか、エリオス王国よりも駅の数は多い。
国内各拠点からの大量輸送を可能にした物流網、大量製造を可能にする魔導製造所。この2点がヘイム魔導国の経済を支える。
「お、見えて来たぞ」
「おお、すげえ!」
特徴を振り返っている間に魔導国の首都『ヘイム』が見えて来た。
道中にあった街とはまるで違う。
「あの中央に建っている場所が中央塔研究所だ」
街の形は東西南北に区画があって、中央には壁で囲まれた背の高い塔が建つ。
東西南北の区画から中央へ渡るにはゲート付きの橋があり、そこを通らなければ中央塔には行けない造りだ。
首都を囲む壁の中に更にもう1枚の壁。厳重な警備が施された入り口ゲート。
ここまで厚い警備が成されている理由は中央塔で最先端の魔導工学技術が日々開発されているからだ。
中央塔で開発に勤しむのは国の代表である魔導工学長が率いるエリート魔導工学師達。一般人が簡単に入れる場所じゃない。
「あの塔に行くんですか?」
「ああ。この国の代表は塔から出ないからな」
エリスさん曰く、塔の最上階付近が代表の家の居住区になっているそうだ。
日々塔で魔導具開発を行い、滅多に他の区画にすら外出しない。エリスさん以上に生粋の引きこもりだと言う。
「勤める者達は各区画に帰宅するが……。まぁ、どいつも研究馬鹿だ。缶詰なんて日常だろう」
エリスさんも一時だけヘイム魔導国で暮していた事があるそうだ。
理由は薬学医療の特別講師としてヘイム魔導国の学園に招かれた時。1年程度の暮らしだったそうだが、中央塔には研究者で溢れていたと言う。
「風呂も入らん、食事も摂らんと没頭しすぎる者も多い。私がヤツに行って風呂と食事は必須事項にしたのが懐かしいな」
やべー空間を変えたのは私だと胸を張って言った。大丈夫? 内政干渉にならないの?
「ヘイムの現代表が鼻垂れ坊主だった頃から知っておる。問題無い」
どうやらエリスさんには頭が上がらないのだろうか。こういう時に長寿なエルフって強い。
「着いたらどうするんですか?」
「駅に案内役がいるはずだ。中央塔に直行だな」
魔導国はエルフの街と違って明確に外国といった立ち位置だ。
さすがに王族であるアリアちゃんやエリスさんが気軽に街を観光するとなると、両国とも色々な準備が必要になる。
それに遊びに来た訳じゃない。魔獣憑きに関する調べ物もあるのだから、観光はまた今度となるのも当然だ。
「まぁ、今日は挨拶までだろう。本格的な調べ物は明日からだな」
キースに時間を問えば昼の2時を過ぎてもうすぐ3時になる頃だった。
ここから中央塔への移動、挨拶を済ませて……となると、時間的には中途半端。
何たって挨拶の時間が長い。
知り合いに「やっほー」と会いに訳じゃないしね。それなりに偉い人がアリアちゃんとエリスさんに挨拶しに来るワケよ。
エリオス王国側も調査の名目で来ているので、相手国に礼を言わんといけない。
ここらが国同士のやり取り、外交というヤツだろうか。
「挨拶は任せて下さいね。ユウキ様は傍にいてくれれば良いので」
魔導国の上層部には英雄が召喚されたと通達されているが人相は伝わっていない。
故にアリアちゃんが俺を紹介するまでは黙って傍にいる。これがベター。
胸を張って外交頑張りますと言わんばかりのアリアちゃん。頼もしいぜ。
そうこうしているうちに、魔鉄道が減速を開始。駅のホームでピタリと停車した。
早速降りようとするが、少し待つ。まずはエリオス王国から護衛としてやって来ている騎士達が先だ。
荷物を降ろすのもあって、俺達は少し待った方がいい。さっさと降りたら急かしていると思われてしまうから。
降車が終わったらキース達を先頭に俺達が降りる。
ホームに出ると騎士達が並んで周囲警戒している中、一人の見慣れぬ男性が笑顔を浮かべて立っていた。
「ヘイム魔導国にお越し下さり、ありがとうございます」
そう言いながら男性は俺達の前で最敬礼を取った。
中央塔への案内係としてやって来たようだ。所属は中央塔総務部と言っていた。
彼の案内で駅を出ると、これまた見慣れぬ青と白のロングコートと帽子に身を包んだ男達。
「ヘイム魔導国警備隊の方々ですよ」
ヘイム魔導国には軍隊や騎士団が存在しない。あるのは国内を警備する警備隊だけだ。
元の世界で例えるなら警察だろうか。
軍隊や騎士団を持たぬ代わりに他国へ魔導具を供給して、代わりに戦ってもらう。それが基本的なスタンス。
ただ、魔導具の実験として魔法を使う魔導師は存在する。他国と違って積極的に戦いへ赴かないという点が、ヘイムの魔導師であるが。
「こちらにご乗車下さい」
駅の外に並んでいたのは馬の無い馬車。4輪・4ドアのキャビンがそのまま置いてあるような感じだが……それを見て俺はピンと来た。
「ふむ。馬無し馬車か。実用化したようだな」
エリスさんが呟いた言葉に、俺の推測は当たっていたようだ。
これは馬無し馬車と言われているようだが、元の世界にあった車に近い魔導具だろう。
大きさ的には軽自動車っぽい。
警備隊の人達が後ろのドアを開き、俺達を席へ誘う。
運転手らしき警備隊員は前のドアへ。前のドア側が運転席なのだろう。
前後しっかりと仕切りがされていた。
「出発します」
前の席にいる運転手がそう言うと、ゆっくりと動き出す。
始動からスピードを乗せるまでの間隔は本来の馬車と同じように。徐々にスピードが上がって行く感じだ。
「ううむ。馬無し馬車か……。王家で一台確保したいな」
「そうですね。魔鉄道では行けない場所への公務の時に便利そうです」
確かにアリアちゃんの言う通りだ。
馬が引く馬車は馬の休憩や世話が必要だが、車であれば気にする必要が無い。
これが本格的に普及したら馬や騎兵といったモノが無くなりそうだと思ったが、もう既に鉄道があるし普及も時間の問題だろうか?
「これを改修してスピードが出るようにしたら面白いと思わんか? 競馬のように競うのも良いだろう?」
エリスさんが腕を組みながらそんな事を言う。
あんた、異世界でロードレースやらF1レースでも作るつもりか?
「夜な夜な人目を盗んで走る練習をせんとな」
「エリスさんが運転するの……?」
そうなったら息子がうるさいだろうからな、と言うエリスさん。
それって峠や首都高攻める走り屋の発想じゃね?




