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92 魔導国へ


 約束の日に合わせ、俺達はヘイム魔導国へ出発した。


 といっても、今回は馬車じゃない。


 同盟国であるヘイム魔導国の首都ヘイムには魔鉄道で繋がっている。


 馬車で向かうと1週間以上掛かるが、魔鉄道ならば片道4時間程度の距離だ。


 さすがに1週間も馬車で移動するのは辛い。特に尻が。


 そう思うと、改めて英雄の偉業に感謝したくなる。


「ユウキ様、こちらですよ」


 魔鉄道に乗るのはこれで2回目だ。1回目はエヴァン達とサバイバル訓練に向かった時。


 あの時と同じようにエリオス王国王家専用の列車に乗り込む。


 違うのは隣の席に恋人がいる事だろう。


 席に座ったら再び手を繋いで。なんて幸せな時間なんだ。


 まぁ、近くにキースもいるけど。彼の隣ではロザリーさんが血走った目で俺を見ているが、見なかった事にした。


「楽しみだね。どんな街なんだろう」


「ふふ。道中の景色も綺麗ですよ」


 すっかり俺は異世界旅行の魅力にやられてしまっている。


 海外旅行が趣味と言う人はこんな気分だったのだろうか。まだ見ぬ景色に心が躍ってしょうがない。


 そうこうしているうちに魔導国へ向かう人員が全て乗車したのだろう。プルルルとベルが鳴って魔鉄道が動き出す。


 始めはゆっくりと動きだした魔鉄道。そのタイミングで他の車両へ繋がるドアが開く。


 やって来たのは機関室に用があると言ってホームで別れたエリスさんだった。


「待たせたな」


 エリスさんはそう言って俺達の前にある座席へ腰を降ろす。


 チラリと手を繋ぐ俺達の手に視線を向けたが、何も言わない。もう見飽きたといった表情が浮かんでいた。


「エリス様。お茶を淹れましょうか?」


「うむ。頼む」


 エリスさんが座って一息ついたタイミングでキースがやって来た。


 彼は魔鉄道が動いているのにバランスを崩さない。座席の窓側に収納されたテーブルを広げて、カップを置いていく。


 少しの間姿を消すとお茶の入ったポットと一緒にクッキーを持って現れた。


 俺達の前にはお茶とクッキーが並び、窓には流れゆく景色。


 エリオス王国王都から西に向かう景色は海外にある田舎のようで。


 小麦畑と風車、整備された街道、遠くには森と山。


 長閑な雰囲気が続く。用意されたお茶とクッキーが景色と相まって心に安らぎを与えてくれる。


「魔鉄道の旅も良いね」


 ぎゅっとアリアちゃんの手を握りながらそう言うと、彼女も手を握り返しながら「そうですね」と笑顔を浮かべた。


「確かに。便利だし、休暇にはピッタリだ」


 今回の旅は休暇という訳じゃないが、筆頭魔導師という肩書を持つエリスさんは研究の要だ。城からほとんど出れない。


 前回のエルフの街へ行ったのも例外中の例外。おいそれと外に出て事故に……なんて事になったらエリオス王国は大打撃。


 加えて彼女は王族だ。その事実も彼女から自由を奪う。


 エリスさんもそれは分かっているが、閉じ込めたり、閉じこもっているのはよくない。


 今回の件で旧友に会いに行って、少しでも休まればと王様も言っていた。


「アリアは乗る機会が増えそうだがな」


 逆にアリアちゃんは外交面で外に出る機会は増えるのだろう。


 その時は俺もついて行きたい。護衛も十分に連れて行くのだろうけど、組織という敵もいるし心配だ……。


「はい。卒業後はまずルーベンスに挨拶へ向かう予定ですね」


 彼女の卒業は冬。12月の中旬だそうだ。


 この世界の学園は12月に卒業して新年までは家で過ごす。家族と新年を迎えた後、就職等の新生活がスタートという訳だ。  


 王族であるアリアちゃんも同じ。来年1月から王族として公務を始め、新年の挨拶と併せてルーベンス王国の王へ挨拶をしに行くという予定が既に決まっているようだ。


「順番に各国を回るの?」


「そうですね。最初はルーベンス王国です。次はヘイム魔導国じゃないでしょうか?」


「オルダニアは面倒だからな」


 オルダニア共和国にも挨拶に行くが、あそこは国内で小競り合いが発生中。


 発生中、というよりは常にと言うべきか。


 小国同士が集まって1つの国になったせいか、各地方の価値観の違いが問題を生んでいる。


 酷い時は内戦も起きるそうなので、オルダニアへ向かう時は十分に情報を揃えて安全を確保してからと決まっているようだ。


「人同士で争っている場合じゃないというのに」


 エリスさんがため息を漏らす。確かにその通りだ。組織の暗躍が見えている以上、人が争っている場合じゃない。


 それでも争うのが人なのだろうか。難しい問題だ。


 他国の事を話し合いながら過ごしていると、時間はお昼になった。


 10時頃に出発したので丁度半分くらいだろうか。


 王城の料理長が作ってくれた弁当を広げて3人で昼食に。


「景色が変わってきたなぁ」


 お昼を食べながら窓の外を見れば景色は山が多くなってきた。


 もう既にヘイム魔導国領土内。魔導国は山が多く、そこから採取した鉱山資源を元に魔導具を生産している。


 各山では取れる資源が明確にされており、枯渇しないよう管理も国が行っているとエリスさんが教えてくれた。


 ただ、見えてきたのは山だけじゃない。


「山の麓が凄い」


 山はどこも変わりない。ただ、麓にある管理施設は日本にあったインフラ施設のような、剣と魔法の世界には似合わない近未来感がある。


 白い施設と青い光。煙突のような場所からは白い煙が出ているくらいしか見えないが、何の施設なんだろうか。


「あれは精錬所だ。山で取れた資源を加工して首都へ送っている」


 施設の色はともかくとして、青い光は精錬する際に稼働する魔工炉という炉が稼働中に発する魔法の光だそう。


 それが窓から漏れて青く光って見えているとエリスさんが言う。


「精錬や加工は全て魔法で行う。正確には専用の魔導具なのだが」


 精錬も加工も人の手はほとんど使わない。専用の魔導具で行い、加工・生産数を増やしているそうだ。  


 人の手が入るのはほぼ最後の工程と品質のチェックくらいのようで。魔導国って凄い。


「魔導国国内はほとんどの業種が魔導具化による作業で行われていますよ」  


「その分、メンテナンス等に必要な知識が無ければならん。他国の技術者はまだ学んでいる最中なので生産国の魔導国くらいにしか導入されておらんがな」


 魔導国は世界の技術最先端を突っ走っているという感じか。


 それを実現させたのが、魔導国に深く関わっている3代目英雄なのだろう。


 俺は窓から魔導国に広がる日常風景を見ながら改めて3代目の凄さを感じ取っていた。


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