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91 お菓子作りと炎魔法


 教会とロクサヌさんの商会にお伺いを立てたが、残念な事に両組織のトップは現在不在だと返答された。


 教会のトップである司祭――俺が召喚された時にいたご老人は他の街に出向いて魔獣憑きの情報を集めてくれているそうだ。


 ロクサヌさんも同様に今後に向けて販路の調整や物資の調達準備などを行ってくれている。


 どちらも俺の言い出した件で忙しくさせてしまっているようだ。申し訳ないな、という気持ちを抱きながら会った時はしっかりと礼を言おうと心に決める。


「せめて孤児院の子に差し入れしようかな?」


 王都にある教会本部の隣には孤児院が建っている。


 親を亡くした子や捨て子、孤児院に来る子の事情は様々であるが、孤児院の運営は国や住民の支援によって成り立っているのだ。


 ここは俺も支援をしようと王様に聖水で得た資金の一部を回してもらえるようお願いする。


 それとは別に孤児院への差し入れ。子供が多いしお菓子にしようか、と思いながらアリアちゃんに相談した。


「ユウキ様が差し入れるとなると、子供達は喜ぶと思いますよ」


 英雄がお菓子をくれた、と喜ぶそうで。


 俺は孤児院の子達が目を輝かせるようなカッコイイ英雄ではないと思うが、口にするのは空しくなるのでやめておいた。


「どこかで買ったお菓子だと温かみが無いかな?」


「?? ユウキ様はお菓子が作れるんですか?」

 

 アリアちゃんが可愛らしく首を傾げる。


「うん、作れるよ」


 簡単なクッキーやケーキ程度であるが、親を亡くしてから一人暮らし生活が長かったせいもあって作る事は出来る。


「まぁ! でしたら、手作りが良いと思います! みんな喜びますよ!」


 ここは一丁、クッキー大量生産して全部納めてやろうじゃないか。


 という訳で材料を購入してから、アリアちゃんと王城の厨房へ赴いた。


「クッキー作りですか?」


「はい。孤児院の子に差し入れしようかと。大量に作るので味が良ければ皆さんもどうぞ」


「良いですね!」


 厨房にいる料理長に厨房の使用許可を求めると快諾してくれた。


「ところで、姫様はどのようなご用件で?」


「私もユウキ様のお手伝いをしようかと。クッキーを一緒に作ります!」


 えへん、と胸を張ったアリアちゃん。爆裂可愛い。


 だが、一方で料理長の顔から一瞬だけ表情が消えたのを俺は見逃さなかった。


 アリアちゃんが手を洗いに行った時、料理長は俺の肩を叩きながら言う。


「ご武運を」


 何を!?



-----



 俺も手を洗い、材料を用意してクッキー作り開始。


 アリアちゃんは料理経験は全く無し。過去に1度だけやった事があるそうだが、失敗に終わったと彼女は言う。


 恥ずかしそうに言っていたが、当然だろう。誰でも初めては失敗するものだ。


 それに彼女はお姫様。料理をするのは料理人の仕事である。


 これは悪い事じゃない。城で料理を作る宮廷料理人という職が生まれ、最低でも城で料理人という雇用を生み出すのだから。


「じゃあ、俺が教えるから一緒にやろうね」 


「はい! 頑張ります!」


 ふふ。良い感じだ。恋人と隣同士でお菓子作り。なんと定番なひと時だろうか。


 それはともかく、まずは生地作りだ。今回はノーマルとチョコを練り込んだバージョンの2種類を作る。


 この世界でもクッキーは定番なお菓子であるので、型は色々用意できた。


 といっても動物の型は無い。それらは一部の獣人族を彷彿とさせたり、魔獣を彷彿させたりという事情があるようで。


 ポピュラーなのは星型やハート型などのマーク型、王冠型や剣と盾の形など、図形型といった種類。


 他にもハンター(武器を持った人)型や魔法使い(棒を持ってトンガリ帽子をかぶった人)型などがある。人型は良いのか? と思うが気にしてはいけない。


 世界が変われば事情が変わる。クッキーの型においての意識も変わるものだ。


 用意した生地に型を押し付けてポンポンと量産していく。


 俺は無難に図形型を選んだ。隣で楽しそうにするアリアちゃんは王冠と人型をチョイスしたようだ。


 型で抜いた物をくっつかないよう並べたら、プレートにおいて冷蔵庫で少し置いておく。


 その間はアリアちゃんとお茶をしながら休憩し、冷蔵庫から取り出したらあとは焼くだけ。何と簡単なのだろうか。


「じゃあ、焼こうか」


「はい!」


 俺は色々な形になっている生地を並べたプレートを持ってオーブンへ。 


「さて、オーブンに入れて……と」


 調理用の大型オーブン。これも魔石という名の電池で動く魔導具だそう。やっぱり、3代目ってすげえや。


「アリアちゃんの方も――」


 彼女が作った入れよう。そう言いながら振り向くと衝撃的な光景が目に飛び込む。


 何という事でしょう。


 アリアちゃんはクッキー生地に向かって、魔法の火炎放射をぶっ放していたのです。   


 ゴウゴウと彼女の手の平から放たれる火炎放射。


 遠巻きに見ていた料理長の表情は消えていて、他の人達も「やっぱりやりやがった」みたいな顔になっているじゃありませんか。


 これか? これが料理長の危惧していた事なのか?


 俺が口を開けて呆けていると、アリアちゃんは魔法の放射を止めた。


「あら? クッキーが消えちゃいました」


 違うよ。消し炭になって、急いで料理人が開けた窓から吹いた風が攫って行ったんだよ。


 しかも「焦がした」じゃなくて「消えた」というストロングスタイルな表現。王族ってすごい。


「ア、アリアちゃん。クッキー作りに魔法は使わないよ」


「え!?」


 マジ!? みたいな表情された。これはガチで知らんかったパターンだ。


「オーブンを使うんだ。こっちの残っているのを入れてね」 


 幸いにも彼女が作った物はまだ残っている。それをオーブンへ入れるよう誘った。


「ここに入れて炎魔法ですか?」


「違うよ」


 せめて火魔法って言おう。炎って言っちゃダメでしょ。もう自ら消しにいってるじゃん。


 でも、そんなテンプレお姫様なところも可愛い。


 彼女に説明しながらオーブンで焼き上がるのを待つ。

 

「わぁ、本当に出来ました!」


 目の前には丁度良く焼けたクッキーが。


 俺とアリアちゃんは1枚ずつ摘まんで口に運んだ。


「美味しいですね」


「うん」


 この後、大量に焼いたクッキーを城の食堂と孤児院へ差し入れに。 


 どちらからも評判であったが、俺にとって一番良かったのはやはり恋人と一緒に何か作業をするという経験だ。


 楽しかったし、彼女を近くに感じられる。またやろうと心に誓った。


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