66 模擬戦後
本日は城に泊まっていくと良い、模擬戦後にアルフォンス王からそう言われたエヴァンは素直に甘える事にした。
従者であり、相棒である獣人族のレッドと共に用意された部屋へと案内されるとソファーに腰を降ろした。
「見ていただろう? どう思った?」
エヴァンはレッドに問う。
問われたレッドはソファーに背中を預け、足を組みながら口を開く。
「まだまだだろ。まぁ、根性はあるよ。それよりも、外野がうるせーったらねえわ」
王族であるエヴァンの前で不敬と取れる態度と言動であるが、両者は気にしない。公式の場以外ではこれが2人にとって普通だった。
「何度も攻撃を受けても立ち上がる姿。それと、最後の一撃。あれは……」
エヴァンは己の手の平を見つめながら続ける。
「己の体を犠牲にしながらも勝利を掴もうと突き進む。最後まで目が死んでいなかった。何度やられようと、彼の目は私を真っ直ぐに見ていた」
確かにレッドが言う通り、英雄は『まだまだ』だ。戦闘に関して技術も経験も浅い。
だが、実際に対峙していた自分が段々と感じていった感覚は――『恐怖』だ。
何度吹き飛ばしても立ち上がり、何度攻撃を加えようとも、真っ直ぐ見つめる目。
経験の浅さが露呈した最後の機転は、戦士として向こう見ずな愚かな行為だと誰もが言うだろう。
左手の骨が折れれば、不利になるのは明白である。だが、それでも尚、向かって来ようとする姿と意思の籠った瞳。
決して折れぬ意思と心が無ければ、あの目は出来ない。
「このまま成長すれば恐ろしい怪物が……。いや、英雄が誕生するな」
歴代英雄に詳しく、崇拝するルーベンス王国の王子はそう見抜く。
レッドも彼の意見に異は唱えない。事戦闘に関してセンスは自分よりも上なのがエヴァンという男である。
「外野がうるさいとはなんだ?」
レッドの告げた感想を追求するエヴァン。問われた本人は「ハッ」と鼻で笑いながら語りだす。
「英雄はやはり弱い、尻から出るからだ、魔獣との戦闘以外では役に立たない……。まぁ、英雄が弱いって意見だな」
レッドは狼系統の獣人故に耳が良い。窓から戦闘を見ていた貴族などから発せられる言葉はピクピクと動く耳が確かに拾っていた。
これらの言葉を発していたのは反王派の貴族達。先日の王族がユウキを優秀と評したとしても、意見や見方を変えようとしない。
「アルフォンス陛下が放置しておくとは思えんが……まぁ良い。ただ、うちでも同じ結果にはなりそうだ」
英雄という存在を神格化しているルーベンスにユウキがいたとしたら。
尻から剣と魔法を出すという異端な姿を国民が受け入れるか? と問われれば素直に頷けない。
確かに外から見れば英雄とは言い難いが、一度中身を知れば英雄にふさわしいと評価されるのがユウキという男。
彼の中身を知るまでが一番の困難なのだが。
「とにかく、彼が成長すれば頼もしい英雄になるのは間違いないな」
エヴァンがそう話しを締めると、ドアがコンコンとノックされた。
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場所が変わって王城の廊下。
廊下を歩くのはジャックとアリアという組み合わせ。
「ユウキ様は無茶しすぎです。特に今回は模擬戦ですよ?」
心配が故に頬を膨らませるアリアにジャックは苦笑いを浮かべる。
確かに今回行われたのは模擬戦で、それも英雄の力を図るという目的があった事。
どちらかといえば、真剣勝負というよりもスポーツ的な意味合いが強かっただろう。
しかし、英雄はそう思っていなかったようだ。いや、途中から意識が変わったのかもしれない。
終わり際に見せた捨て身の一撃。終わった後に見せる悔しそうな顔。
政治的な意図が含まれた戦いだったとしても、負けたくないと思うのは同じ男性であるジャックには痛い程理解できた。
それに――
「恐らく、以前の完全体との戦闘で危機感を強く感じたのでしょう。私とアリア様が死んでいたかもしれないという恐怖を感じて、このままではいけないと」
ジャックにしてみれば、己の身を案じてくれる英雄の考えは光栄に思える。
誰かを守り、誰かの為に戦いたいという気持ちは大切だ。特に英雄という存在なら猶更だろう。
「それは、そうかもしれませんが……」
大切にしてくれる、大切に思ってくれているのだ、とアリアも理解しているが、それでもユウキが傷付くのを見たくない。
彼女の心の中では感情が反発しあい、何とも言いにくい気持ちになる。
「勝負に負けて悔しいと思わぬ男児はおらんでしょう」
ジャックはユウキの心情の変化を良い傾向だと内心で評価する。
召喚されてからユウキは『劣って当然』と思っている傾向にあった。それが一変し、負けたくないと思えるのは良い事だ。
失うかもしれないという恐怖を知ったからだとしても、受け身的な考えから己の意思を貫こうとする姿勢は大事である。
「ユウキ様が医務室で何か閃いたような顔をしていたのも気になります」
悔しそうに歯を食いしばりながら治癒魔法を受けていたユウキ。
だが、治癒が終わる頃には何か良い案を思いついたと明るい表情を浮かべているのが、アリアは凄く気になっていた。
それと同時にどこか胸騒ぎがしてならない。
「さて、ちょっと行って来ると出て行ってしまいましたからな」
ユウキの考えにアテがあるジャックであったが、思っている予想を口にしない。
言ってしまえば隣にいるお姫様は……。
「英雄殿、私は応援しておりますぞ」
ジャックはアリアに聞こえないよう、小さな声で脳裏に浮かぶ英雄の背中へ声援を送った。




