67 参加します
俺は廊下を歩いていたメイドさんにエヴァン氏の泊まる部屋を聞いてその場へと向かった。
ドアをノックして入室すると、中には確かにエヴァン氏と従者の人が。
「ユウキ殿? どうなされた?」
挨拶もそこそこにソファーに導かれ、俺はエヴァン氏の対面に座る。
「体はもう大丈夫なのですか?」
「ええ。もう問題ありません。それより、ちょっと聞きたいことが」
何でしょう? と首を傾げる彼に俺は問う。
「サバイバル訓練って何をしているんですか?」
エヴァン氏がエリオス王国に来た目的は俺と会う事。それとサバイバル訓練を行う事である。
俺の予想通りであれば結構ハードな訓練をするんじゃないだろうか。
「森に3ヵ月程度篭り、自給自足しながら魔獣とひたすら戦うという内容ですが……」
通常で3ヵ月程度。国に何かあればそのタイミングで引き上げる。
森に篭っていても定期的に連絡要員が訪れるそうだ。まぁ、国の王子様だし当然だろう。
森では基本的な道具だけを持ち、水も食べ物は自給自足。
水は川で汲み、食べ物は森に生えている物や森にいる動物を狩って食べる。
俺はなるほど、と頷きながらも予想が当たっていた事に少々嬉しくなった。
「その訓練、俺も連れてってくれませんか?」
そして、俺は考えていた事を口にした。
サバイバル訓練というのは思っている以上に過酷だろう。文明のレベルが無い場所で暮らすのだ。
だが、きっと今後の自分に役立つ知識を得られるはずだ。
それにエヴァン氏と共に行動していれば彼の強さの一端も見て学べるかもしれない。
「森にはBランクの魔獣もいますし、危険も伴いますが……」
エヴァン氏が俺の提案を聞いて懸念を口にする。
まぁ当然だろう。英雄に何かあったら王子の責任と言われてしまうかもしれない。
「勿論、危険は承知しています。王様にも許可は取りますし、俺の意思で参加します。ルーベンス王国に迷惑は掛けません」
そう言うと、エヴァン氏は腕を組んでから少し悩む。
悩みながら俺の顔をジッと真剣に見つめた。
「どうして参加しようと?」
俺の胸の内を探るかのように、エヴァン氏は俺の目を見て問いかける。
「強くなりたいからです」
俺は即答した。これが紛れもなく本心だからだ。
「何故、そこまで強くなろうとするのです?」
「俺は英雄です。強くなって世界を救うという役目もあります。ですが……。一番は大切な人を守りたいからです。この世界が危険な世界だというのは理解していますが、誰も死んでほしくない」
俺もエヴァン氏の目を見つめながら答えると、彼は「フッ」と笑った。
「ははは! 良いですね! 良い答えだ!」
先ほどまで浮かべていた真剣な表情を崩し、彼は膝を一度叩いて豪快に笑う。
「アルフォンス陛下から許可が取れれば構いません。共に訓練に励みましょう」
「はい! さっそく許可取ってきますんで!」
やった。参加しても良いと言われたぞ。
俺はすぐに部屋を出て、王様へ許可を貰いに走った。
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「え……。3ヵ月の訓練ですか……?」
王様の執務室に行くと部屋の中にはアリアちゃんと王妃様も。丁度良いと早速訓練の件を述べたのだが……。
王様は腕組みをしながら悩み始め、アリアちゃんのお顔は優れない。まるで限定品が品切れになった時の絶望を現すかのように。
王妃様はそんなアリアちゃんを見ながら「あらあら」と楽しそうに笑っているし。
「ふむ。連絡がちゃんと取れるならば許可しよう」
現地に騎士を1週間に一度向かわせるので、それで安否確認を徹底するようにと条件付きであるが許可が下りる。
俺は即座に了承した。別に隠れて何かする訳でも無いし。
「え!? お父様! 良いんですか!?」
「いや、別に変な事をする訳じゃないだろう? 危険な森であるがエヴァン王子もいるしな。安否確認で不安要素があれば中断すれば良い。それに強くなろうとする気持ちは無碍にできんだろう」
「そうですけど! そうですけどぉ……」
王様の言葉に何も言い返す材料が無いのか、アリアちゃんはしょんぼりとしてしまう。
しょんぼりしたと思いきや、くるりと顔を俺に向ける。
「良いんですか! 3ヵ月も会えないんですよ!」
「ええ、ああ、うん……」
俺は何と返して良いかわからず、曖昧な返事で濁した。
「寂しいじゃないですか……」
瞳を潤ませ、俺を見るアリアちゃん。彼女の表情が俺のハートを貫いた。
俺もでヤンス! 寂しいで候! と言いたいところだが我慢だ。
一時の寂しさを埋めて、彼女を永遠に失うかもしれないという懸念を見過ごす訳にはいかない。
彼女に想いを伝える為にも、俺はこの訓練で成長して少しは自信をつけたい。
「もう。ユウキさんを困らせちゃダメよ」
何と言おうかと悩む俺に助け船を出したのは王妃様。娘を宥め、何とかその場を収める。
「彼らは明日から出発すると言っていたから、今夜中に準備せねばならんな」
王様は急ぎ訓練に向けての準備を整えてくれるようで。
すいません、と俺は頭を下げた。
「いや、良いのだ。ユウキ殿が強くなろうとする気持ちは我に止められん。それは世界の為になる事だからな。我に出来る事があるなら何でも力になろう」
やはり王様は良い人だ。じぃんと胸が熱くなる。この人達の為にも頑張らなきゃな。
その後、詳細を話し合ってから執務室を後にする。
一緒に廊下へ出たアリアちゃんの顔は暗い。
「その、アリアちゃん」
「はい……」
どんよりとした雰囲気を纏う彼女に、俺は真剣な表情で告げる。
「今、君の気持ちには応えられない。今の俺では不釣り合いだから……」
内心はドキドキしっぱなしだ。だが、決意を固めて正直な気持ちを口にする。
「俺が強くなって、アリアちゃんを守れるようになったら……。俺の気持ちを聞いてくれないかな?」
不釣り合いだから、の辺りで闇のオーラが濃くなっていたアリアちゃんであるが、俺の言葉の続きを聞くと驚いたように顔を上げた。
「それって……」
「いや、その、うん……」
今の俺は顔が真っ赤だろう。廊下のど真ん中で告白めいた事をしているのだ。
両想いであるとわかってから、真剣に考えた末の結論。
「私も……」
「ん?」
彼女は小さく呟きながら俺の服の裾を指で摘まむ。
「私も、ユウキ様に相応しい女性になれるよう頑張ります」
彼女が纏っていた暗い雰囲気は霧散し、あるのはいつもの笑顔。
やはり彼女の笑顔は天使級に可愛い。




