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65 模擬戦


 訓練場へ移動した俺達はジャック爺さんに理由を話し、場を空けてもらう。


 中央で向き合う俺とエヴァン氏。それを遠巻きに見る騎士団と王様達といった具合だ。


 話を聞きつけたのか城内にいた貴族が王様達よりも遠くで見ていたり、城内の廊下にある窓を開けて観戦する様子を見せていた。


 ギャラリーが多く、俺の背中には様々な視線が刺さる。


 エヴァン氏は国で猛将と呼ばれ、Aランク魔獣すらも倒す戦士だ。


 浄化結界を得た事で魔獣には強くなったが、対人戦では素の能力が問われる。今の俺が勝てるとは思えない。


 だが、無様な姿を見せるつもりはない。


「準備できました」


「いつでもどうぞ」


 俺達は審判役のジャック爺さんへ言うと、彼は頷きを返すしながらルールを再確認。


「魔法は身体強化のみ。他の魔法は使用禁止。相手を殺してはなりません。危ない時は止めさせて頂きます」


 よろしいですね? と問われ、俺達は無言で頷いた。


 それを確認した爺さんが片手をあげ、


「はじめ!」


 開始の合図を告げながら振り下ろした。


 俺は合図と共に踏み込んだ。


 相手の出方を見る、持久戦に持ち込む。これらの手は通用しない、というよりも出来ない。


 相手と俺では、明らかに体格の差や鍛えている時間の差がありすぎる。


 足と手に身体強化を施し、相手の懐へ。


 エヴァン氏は一瞬だけ驚いたような顔を見せるが、さすが戦い慣れているのだろう。すぐに目を細めながらこちらの動きを見て、模擬戦用の木製大剣を構える。


 俺は相手の見る姿勢に構わず、脇に構えた木剣を横に振った。


「ぐっ」


 ガンッと鈍い音が鳴る。どっしりと構えた相手は大剣でこちらの攻撃を防御するも微動だにせず、まるで大樹に斬りかかったような感覚が腕にジィンと伝わる。


 ヤバイ、と脳が警鐘を鳴らした瞬間には俺の視界の隅に黒い影が動く。


 咄嗟のバックステップで避けると、影の正体は相手の膝だった。


「次はこちらから参る!」


 こちらの肝が冷えている間など与えず、大剣の刃を地面に擦り付けながら突進してくるエヴァン氏。


 ありゃ何だ。ダンプカーか、と言わんばかりの迫力だ。


 彼の目はギラギラ光り、こちらを粉砕する気満々である。


 俺の背中にはゾクゾクと悪寒が走り、とにかく避けようとするので精一杯。


 横跳びで避けようとするも距離が近づいた途端、一気に踏み込まれてしまった。


「え!? ごへッ!?」


 当然回避は間に合わず、大剣の横薙ぎと自分の体の間に剣を挟んで防御するも威力は殺しきれずに吹き飛ばされて地面を転げまわる。


 ありゃなんだ、一瞬で加速したぞ。


 痛みに堪えながら加速の正体を探るが正解には辿り着けない。


「まだまだッ!」


 俺は痛みを感じながら立ち上がり、再び剣を構えた。


 が、加速の正体が掴めずに俺はやられっぱなし。


 回避を許さず、確実に攻撃を当てて来る手段に対抗できない。


 しかし何度目かの攻撃を喰らう瞬間に、俺は見た。


 エヴァン氏の足が踏み込む瞬間だけ地面に食い込んでいる。あれは身体強化を発動させた証拠ではないだろうか、と。


 という事は、突撃してくる前半は素の能力なのか。あの絶対殺すダンプカーモードが素なんですか。


 アタリを付けた俺はもう一度、剣を構えて受ける体勢に。


 再びエヴァンダンプカーが迫る。次は相手が間合いに入った瞬間に……。


 ここだ、と俺も身体強化を施してバックステップ。


 チッと相手の大剣が俺の服に掠った。回避成功だ!


 エヴァン氏も今度こそ驚いた顔を隠さない。


「素晴らしい! こちらが身体強化を使うタイミングを見切りましたか!」


 そう言いながら、白い歯を見せながら笑った。


「寸でで身体強化をして加速していたんですね」


「こういう使い方もあるという事です。相手にタイミングを図らせない小細工ですよ」


 そう、小細工。彼にとっては小細工レベルの技術だ。


 タイミングを図らせない。その通りだ。


「ぐ、がッ」


 先ほどまで使っていたタイミングは二度と現れない。発動するタイミングを微妙にズラし、こちらの回避と防御を行うタイミングを潰しに掛かる。


 他の魔法が使えれば。そんな考えが過るが、冷静に考えたら無駄な足掻きだろう。


 土鎧を纏ったとしてもエヴァン氏のパワーなら貫いてくるはずだ。


 まさに手も足も出ないとはこの事。


 俺は何度も攻撃を喰らい、吹き飛ばされる。


 痛い。体中が痛い。むき出しの肌には擦り傷が、顔中泥だらけで頬からは血が流れる。


 だが、立ち上がって剣を構える。潔く負けました、と言いたくない。何とかして一撃だけでも有効打を入れたい。


「…………」


 フゥフゥ、と息を荒くしながら立ち上がる俺を見るエヴァン氏の目に油断は無い。


 ここまで来れば一か八か。肉を斬らせて骨を断つ、といった捨て身戦法しか通用しないか。


 単純かもしれないが、それしか俺の脳裏に考えは浮かばなかった。


「ハァァッ!」


 何度目か。ダンプカーの如く、相手の突撃。


 相手がタイミングをズラしてくるならば、


「だあああッ!」


 ズラさなければ良い。


 俺は剣を片手に持ち、左肩を相手に向けて全力で踏み込む。


「なにッ!?」


 相手が防御と回避のタイミングをズラしてくるならば、こちらはそれをしなきゃ良い。


 相手が使う武器は大剣だ。だったら相手が武器を振る()()を失くせば良い。


 水平に振ろうした剣を肩でガード。ゴリゴリゴリ、と左腕の骨が砕ける音がした。


 身体強化を施しながらも骨を砕かれる。めちゃくちゃ痛い。


 だが、相手の動きはどうだ。左手を犠牲にし、こちらも全力で踏ん張ったおかけで止まっているではないか。


 歯を食いしばりながら痛みに耐え、俺は右手に持った剣を振る。


 だが――


「ガッ!?」


 俺の考えは甘かった。密着した状態で剣が振れないようにしたが、蹴りを喰らって俺の攻撃は空振り。


 ゴロゴロと地面を転がるが、


「ちくしょ……ッ!」


 俺は剣を杖にしながら立ち上がって相手を見た。


 視線の先には口を半開きにして驚くエヴァン氏の顔。


 なんだその顔は。もう一度だ。左手の骨が砕けて動かない。だが、盾くらいにはなるだろう。


 もう一度、間に――


「そこまでッ!」


 考えを巡らせていると、ジャック爺さんが俺達の間に割って入った。


「そこまで! 終了である!」


 終了。終了?


 俺の膝から力が抜け、ガクリと折れた。


「ユウキ殿!」

 

 木剣を支えにしている俺に駆け寄ったのは予想外にもエヴァン氏だった。


「大丈夫か!? 誰か! ポーションを!」


 彼が叫ぶと遠くで「はい!」と叫ぶ声が聞こえた。


「素晴らしかった」


 無事な方の肩に優しく手を添えて、俺をじっと真剣に見つめるエヴァン氏はそう言った。


「いえ……」


 俺は納得できない。俺は弱すぎると現実を見せつけられた。魔獣に対して有効的な手段はあるかもしれないが、対人戦はこのザマだ。


 彼の言葉を素直に受け入れられず、俺は顔を伏せて歯を食いしばる。


「英雄殿、医務室へ参りましょう」

 

「はい……。エヴァンさん。ありがとうございました」


 俺はジャック爺さんに体を支えられながら医務室へ。


 そこにはアリアちゃんが待機していて、宝玉で砕けた骨を治癒してくれる。


「あまり無茶を……」


 アリアちゃんが心配そうにそう言うが、俺は頷く事も出来なかった。


 一歩間違えれば誰かが死ぬかもしれない、という恐怖を完全体との戦闘で知ってしまったからか。


 それとも負けるという悔しさを知ったからだろうか。


 当初からエヴァン氏との戦闘で敵わないだろうと思っていたにも拘らず、俺の心には不甲斐なさと悔しさが残る。


 もっと強くなるにはどうすれば良いのか。その事で頭がいっぱいだった。


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