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64 ルーベンス王国第二王子


「そろそろ第二王子のエヴァン様が到着するようですよ」


 ルーベンスの第二王子が面会を求めているという件を聞いてから1週間後、遂にその日がやって来た。


 俺はアリアちゃんと共に謁見の間の隣にある部屋でお茶を飲みながら待っている状況だ。


 魔鉄道でエリオス王都までやって来た後に入城、そして王様に挨拶をした後で俺と対面。そんな予定が組まれている。


 現在の部屋から謁見の間を監視できるよう小さな穴が開いており、それを通して相手を事前に確認できる為、この部屋が選ばれた。


 因みにその穴は謁見の間に飾ってある第二王妃様の姿絵の目になっているそうな。


「ルーベンス王国第二王子殿下、エヴァン・ルーベンス様が参りました」


「来たようですね」


「どれどれ」


 俺はソワソワとしながらも覗き穴に目を近づけた。


 エリオス側の文官が玉座にいる王様へ告げた後、ドアが開かれる。


 登場したのは筋肉ムキムキな大男。金色の短髪、日焼けした肌、礼服でありながらどこか戦士を思わせるデザインの服とルーベンス紋章の入った青いマント。


 顔面は……イケメンだ。体育会系の筋肉イケメンのご登場。


 地面に敷かれる赤い絨毯を通って、玉座で待つ王様へ堂々と歩く姿は流石の王子と言うべきか。


「エリオス王国国王陛下。お久しぶりにございます!」


「ようこそ参られた。私も会えて嬉しいよ」


 玉座の前で跪く第二王子。王様同士だと跪かないらしいが、相手は第二王子なので王様の方が格が上だそう。


 隣にいるアリアちゃんが教えてくれました。因みに、彼女の肩が密着してて腹が爆裂しそうです。


「こちら、国王である兄からの品でございます」


 そう第二王子が言うと、後ろで跪いていた従者らしき人が品物を王様の隣にいた宰相へ渡す。


「これはこれは、ご丁寧に。すまないな」


 すげえ、異世界にも「これはこれは」文化があるんだ。覚えておかなきゃ。


 この聞き慣れた文化もそうだが、第二王子の従者らしき人は獣人だった。ピンと立った黒い犬のような耳が特徴的。


 尻尾は見当たらない。ズボンにインしているのかな?


 とまぁ、彼らを観察しつつも王様と第二王子の形式的な挨拶が進む。


 10分程度、お互いの国に関する事を喋ったら式は終了だ。俺としては、ここからが本番である。


 コンコンとドアがノックされ、遂にご対面の時が来た。


 先頭は王様、そして第二王子と従者の人が室内へ。


 ガッチガチに緊張した俺とアリアちゃんを見て、第二王子はニコリと笑った。


「こちらがルーベンス王国第二王子のエヴァン・ルーベンス殿。こちらが召喚に応えて下さった今代の英雄。原平勇気殿である」


 王様が両者の間に入り、代わって自己紹介。ここまでは事前に聞いていた通りの手順だ。


「どうも、原平勇気です。日本から来ました」


「私はエヴァン・ルーベンス! お会いできて光栄です!」


 お互いに握手を交わす。彼の大きな手は剣ダコのせいかゴツゴツとしていた。


 本気を出したら手を握り潰されそうな程である。


 だがしかし、彼の目は綺麗だ。とても綺麗である。どこかキラキラ光っているような……。


「ユウキ殿は完全体を単騎で倒したとか! 兄から報告を聞いた時は震えましたぞ! 魔法を纏わせた剣で相手を斬ったと聞き、それはまさに3代目英雄様を彷彿とさせるような――」


 キラキラしている理由が分かった。彼は英雄マニアだ。


 俺が完全体と戦った時の状況を全て覚えているようで、それと過去の英雄が行ったと思われる行動を比較する。


 褒めてくれているが話が長い。すごい長い。喋り始めてもう5分は経っている。


 握手したまま。


「は、はは……。いえ、そのぉ……」


 俺がどう反応して良いかと冷や汗を流していると、後ろに控えていた従者の人が「ゴホン」と咳払いを1つ。


 咳払いを聞いた第二王子はハッと我に返った様子を見せた。


「申し訳ない。熱くなってしまいましたな」


「いえ、その、ありがとうございます」


 褒めてくれて悪い気はしない。それに彼は純粋に俺の行動を評価してくれているんだ。


 良いリアクションが取れなくて、こちらが申し訳なくなってしまうな……。


「アリア姫もお久しぶりであるな」


「ええ。エヴァン様は相変わらずでございますね」


 おや? 知り合い同士か? と思ったがお互い国の王女王子なのだ。そりゃ当然か、と自分の中で結論付ける。


「アリア姫は今年で学園を卒業でしたかな?」


「はい。そうですね」


 彼とアリアちゃんの関係性が王様から少しだけ語られた。


 彼は俺と同い年で、アリアちゃんよりも年上だ。彼女の事を幼少期から知る王子様といったところ。


「卒業後はご結婚を?」


 エヴァン氏がそう言って、俺は飲みかけていたお茶を噴き出しそうになった。


 ご結婚。そのワードは俺の耳に酷くこびり付く。


 だが、彼の言う事ももっともだ。アリアちゃんは王女様。早くに結婚して国の跡取りを、と方針があってもおかしくない。


 俺は噴き出しそうになったお茶を必死に飲み込み、動揺を隠しながら平静を装う。


「へ、へえ~」


 何とか絞り出した答えがこれである。平静を装いながらも心臓はバックバク。


 片手で持っているカップをソーサーに置いたが、カチャカチャ音が鳴りっぱなしである。


 べ、別に~? 気にしてませんし~? と心の中で叫んでいると、ソファーの上にあった腕の袖口をアリアちゃんの指で摘ままれた。


「結婚はまだしませんよ。意中のお相手はいますが」


 そう言って彼女は横目で俺を見た。


 俺もです、と言いたいがこの場には王様もいるじゃないですか。王様も「フム」とか言っちゃってるし。その「フム」はどっちなの?


 エヴァン氏も俺とアリアちゃんを交互に見た後に「ほう」と呟いた。


 この話題についてはこれ以上追及されず、エヴァン氏が話題を変える。


「ところで、陛下。森に行く前にユウキ殿と手合わせをお願いできないでしょうか?」


 なるほど、王様の言った通りか。


 彼のお願いも事前打ち合わせの通りだ。


 英雄の力を見ておきたい。これは国の代表である王家としての役目もあるだろう。


 いざという時に頼れるか、頼れないか。主に戦闘の面で頼れるかどうかを見極め来るだろう、と王様も言っていた。


 これについてルーベンス側に悪意は無い。


 例えば戦闘特化だった2代目と4代目のような英雄であれば、ルーベンスが窮地に陥った時にすぐ応援を要請できる。


 逆に3代目のように魔導具開発に長けた人物であれば、英雄が作った魔導具を事前に揃えて予め備えておいて自国でどうにかする。


 この2パターン、どちらに舵を切るかという話だ。まぁ、3代目は物作りに加えて魔法も凄まじかったのだが。


 純粋に俺をどちらに当て嵌めて良いか、ルーベンスは判断しきれていないのだろう。


 浄化結界で毒を無効化できるのは同盟国へ報告済み。


 毒の無効化と魔獣の弱体化が図れる英雄能力持ちだが、剣術や魔法のレベルは素人に近いというチグハグな状況なのだ。


 迷って当然かもしれない。


 ルーベンス王としては武勇轟く弟に英雄の力量を見極めさせ、新型聖水を輸入するだけに留めるか否かを判断したいのだろう。


 そういった意図の元、手合わせを願って来るという予想は王様から聞かされていた。


 俺と王様は目を合わせて頷き合う。


「勿論だ。ユウキ殿もそう願っておる」


「え?」


 王様から出た言葉が意外だったのか、エヴァン氏は少し驚く様子を見せる。


「俺は英雄として頼りないと自分でも思っています。ですので、貴方の感想をお聞きしたい」


 聖水と結界。この2点が現時点で俺の持つ強みだ。だが、この2つだけ。剣も魔法もまだ扱いきれていない。


 英雄としての能力が無ければ、俺の力なんて下の下どころか最下層も良い所だろう。


「俺は強くなりたいんです。ですから、ルーベンス王国きっての猛将と呼ばれる貴方からも学びたいと思っています。ですので、是非手合わせをお願いします」


 俺は本音を包み隠さず言った。


 俺は強くなりたい。皆を守れるように、誰も失わないように。


 スタンピードが王都を襲った時、英雄の能力が無かったらアリアちゃんはあの場で死んでいただろう。


 その「もしも」という最悪の未来を俺の人生から何としても取り除きたい。


 全てを覆し、彼女を守れるように強くなりたい。


 俺が深々と頭を下げていると、エヴァン氏が立ち上がるような動きを見せる。


「頭をお上げください。ユウキ殿」


 頭を上げれば、予想通り立ち上がって俺を見るエヴァン氏がいた。


「私もまだ若輩。自国で猛将と呼ばれてはいるが、まだまだだと自負しております。そんな私で良ければ、好きなだけ学んで頂きたい!」


 彼の目に炎が宿っていた。


「さぁ、訓練場へ参りましょう!」


 ガッと俺の両手を握り、ぶんぶんと振り回す。


 俺は早まっただろうか?


 いや、俺も熱く行くべきだ。


 そう決意して、王様とアリアちゃんを引き連れて訓練場へ向かった。


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