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60 ベルは2回押す


「ううん、うう~ん……」


 俺はベッドの上で顔を真っ青にし、腹を抱えながら唸っていた。


 急激に腹が痛くなってジャックにトイレに連れて行かれた後、少し収まったと思いきや波は続く。


 しかも押し寄せる波は高波ばかり。自室に運ばれてからも短時間で3回もトイレに行った。


 ゴキュ、ゴキュキュ……。


「はうわ!?」


 俺の中で再びビッグウェーブが押し寄せる。ベッドの上に置いてあるチンチンベルを急いで2回連打した。


 チンチーン! という音が鳴り響くと勢いよく自室のドアが開かれ……。


「ユウキ様! 大丈夫ですか!?」


 駆け込んできたのは新しい執事服に着替えたキース。


「トイレ、トイレ……」


「はい、任せて下さい!」


 体中が痛くて動けず、加えて腹痛に耐えなければならない俺には介助が必要だった。


 ジャック爺さんにされた時と同じように、キースにお姫様抱っこされてトイレへ運ばれる。


「アアァ、オォー!」


 熱いパトスを解き放ち、何とか自分でケツを拭いたら再びキースにベッドへ運ばれる。


 なんという恥辱。


 同年代の男にトイレまで運んでもらい、トイレの前で待機され、再びベッドへ連れて行かれる。


 こんな羞恥プレイあっていいものか。


 ベッドに運び込まれた俺が再び腹を抱えて唸っていると、自室のドアが開く。


「ユウキ様、大丈夫ですか?」


 入って来たのは新しい水差しを持って戻ってきたアリアちゃん。


 彼女も甲斐甲斐しくお世話してくれる。


「お水、飲みますか?」


「ノマセテ、ノマセテ……」


 体中の水分が汗とアレで出てしまう俺は喉がカラカラだった。


 まるで赤ちゃんのようにせがむとアリアちゃんがコップに水を注ぎ、口元に当てて傾けてくれるのだ。


 これだけが癒しだ。恥辱の中にある一筋の光。たまんねえ。


 俺に水を飲ませ終えたアリアちゃんは、ベッド横にあるサイドテーブルにコップを置くと俺の手を優しく包み込んだ。


 アリアちゃんの手から感じるぬくもり。俺はトイレの後で手を洗ったっけ、と心配になった。


「あまり無理しないで下さい。とても心配です……」


 瞳を潤ませ、じっと俺の顔を見る。


 俺は今どんな顔だろうか。青ざめてやつれて、酷い顔になっているんじゃないだろうか。


「ユウキ様が英雄として頑張っているのは知っています。でも、自分の命を顧みずに行動するのはやめて下さい。じゃないと、私……」


 俺の手を握るアリアちゃんは顔を俯かせ、手は震えていた。


 彼女に心配させてしまった。


 彼女は王族としてではなく、俺が英雄だから、という訳でもなく。本当に俺という個人を心配してくれているのだろう。


「君を、失いたくないんだ……」


「ユウキ様……」


 彼女のような大事な人を失いたくないと決意した結果、心配を掛けてしまう。とても心苦しくは思うが、それでも俺の意思は変わらなかった。


 俺が言葉にすると、アリアちゃんはガバリと顔を上げて驚いた表情を向ける。彼女の頬がみるみると赤く染まった。


「アリアちゃんも、ジャック爺さんも、王様も……。みんな、失いたくない……」


 俺がしっかりと意思を告げ、カッコイイ事言ったな、決まったな、と内心思っていると、


「あ、そ、そうですよね……」


 アリアちゃんの赤く染まっていた頬が急激に元の色に戻った。何故だ。


「オホン、ウー、オホン」


 キースは咳払いをしながら俺を見た。そして彼は口パクでこう言っている。


『気付け! 気付いて!』


 俺はハッとなった。まさか、アリアちゃんは俺にホの字なのかってね。


 いやいや、俺も馬鹿じゃないよ。ラノベのような鈍感主人公じゃあるまいし。


 まさか、という思いはあったよ。


 お姫様というオリハルコン級に身持ちが固いであろう女性がね? 膝枕してくれたり、抱き着いてきたり、手を握ったりしてくれるっつー事はね?


 そういう事だと思うじゃん?


 でも間違いだったら俺はピエロどころか、勘違いお漏らし野郎だよ? 慎重にならんといかんよね?


 で、でも、こ、こ、これは本気になって良いのかしら?


 アタシも甲斐甲斐しくお世話してくれて、いつも微笑みかけてくれるお姫様ラブだけど、前面に出しちゃって良いのかしら?


 一緒にいると楽しくて、彼女を想えばやる気に満ち溢れるこの気持ち、出しちゃって良い?


「ウー、オホン、オホン、りょうも、りょうおもぃオホンゴホン」


 キース君のすげえ雑なアシストきた。


 ほら見ろ、アリアちゃんのほっぺが真っ赤じゃないか!


「ユ、ユウキ様……」


 アリアちゃんは頬を真っ赤に染め、潤んだ瞳で俺を見る。


 なんという破壊力。今すぐ抱きしめたい。


 天国のお母さん、お父さん。今、僕の時代が来ています。


 俺はアリアちゃんの手を両手で包み込もうと、もう片方の手を伸ばし――かけた瞬間、アレが来た。


「はうわッ!?!?」


「ユウキ様!?」


 小さな俺の分身がサーフボードで大波に乗り、


『ここ10年で最高のビッグウェーブ』


 どこぞのワインのようなフレーズを言いながら手を振ってやって来た。


 俺はひょっとこのような顔を晒しながらケツに力を込める。


 マズイ。ここで出せば全てが台無しだ。いや、もうこの顔を晒している時点で台無しかもしれん。


 急いでチンチンベルを2回押した。


 チンチーン!


「ユ、ユウキ様!? 良い雰囲気だったのに! くッ! 姫様! 急いで部屋から出て下さいッ!!」


「えッ!? どういう事ですか!? 体調が!? 宝玉を使いますかッ!?」


 チンチーン!


「マズイ! 姫様ッ! お早くッ!!」


「えっえっ!?」


 事情を知るキースはアリアちゃんを急いで退出させた。


 ありがとう。キース。君は最高の友だ。


 チンチーン!


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