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57 突撃


 完全体を討伐し、組織の者との対面を終えて急ぎ村に戻った俺達。


 王都に戻る準備を終えたのがその日の夕方だった。


「ユウキ、結界の詳細を教えてくれないか」


 馬車に乗り込んで、魔伝鳩なる魔法で王都へ連絡を送り終えたエリスさんが真剣な顔で俺に問う。


 俺は脳内で浄化結界の事を考えながら、浮かび上がる詳細を話し始めた。


「うーん。範囲は任意に広げられるみたいです。あと、結界内にいる魔獣は弱体化する、と」


「なるほど。加えて負傷した者の侵食も浄化しているように見えたが?」


「はい。その効果もあるみたいですね」


 エリスさんに同意すると、隣に座っていたキースも頷く。


「スレイ様の受けた傷や騎士の方々も侵食が浄化されていたようですし、聖水よりも強い力があるのでしょうか?」


 キースの考えにエリスさんが「そうだな」と答える。一方で俺は別の疑問が浮かんでいた。


「そういえば、キースも攻撃を受けたけど……?」


「あ、それなんですが……。私は侵食されなかったのだと思います。他の皆さんのように黒いモヤが出なくて」


 キースの申告に驚くのはやはりエリスさん。目を見開いて驚く様を見せた後に口元を手で押さえながらブツブツと独り言を始めてしまった。


「完全体を倒すのは特定の手段を用いないとダメって言われていたけど、あの結界がそうなんですか?」


 独り言を呟いている最中であったが、俺は答えが欲しくてエリスさんに問う。


「……いや、違う。歴代英雄にあんな能力は無かった。少なくとも、私が知る3代目と4代目には。聖剣で斬る事が浄化になるのだ」


 そう言ったエリスさんは俺とキースの顔を交互に見て、


「今代は何か違いすぎる。ユウキもキースも。新しい事が多い。キースの方は嬉しい誤算であるが」


 俺が他の英雄と違うというのは少し納得できる。ケツから全部出て、聖剣じゃなく魔剣。加えて武器を創造する能力。


 女神が言っていた手違いが良い方向に転がったのかもしれない。


 だが、キースもというのはどういう事だろうか?


「魔獣憑きは免疫と適合に成功した人であるという推測。やはり、あれは正しいと私は思う。だからこそ、キースは侵食されなかったんだ。今回の件で信憑性が増した」


 自分が何気なく思いついた事が正解だったようだ。


 これが正解だとすれば、魔獣憑きという存在の意義がだいぶ変わるんじゃないだろうか。


 今までは体の一部が魔獣に似た変化を起こす厄介者。だが、立証されたら完全体に対抗できる英雄以外の『人類』になる。


 これは喜ばしい事……なのだろうか。事実が広まったら魔獣憑きである人が前線に立って戦う事を強要されたりしないだろうか。 


 俺は自分の発言について、少し心配になってしまった。


「案ずるな。前にも言っただろうが、悪いようにはせん」


 考えが顔に出ていたのだろうか。エリスさんは俺の考えを見透かすように言った。


「だが、まずは王都だ。あちらにも完全体がいるとヤツは言っていた。王都を救う鍵はお主だぞ、ユウキ」


「はい!」


 エリスさんの言う通り、王都を守らなきゃ何も始められない。


 何よりも俺は……誰も失いたくない。


 王都で待っているアリアちゃん達が無事であれば良いが……。俺は拳を握りしめる。


「しかし、()()()か……。なぜ、そう呼ぶんだ……?」   


 再び思案するエリスさんの呟きが耳に残った。



-----



 王都に向かい始めて6時間くらい経っただろうか。


 片道1日掛かる距離を馬にポーションを飲ませて走るという荒業を用いてかなり短縮させていた。


 空は暗く、日本のように街灯がない道も当然のように暗い。


 持ち込んでいた回復ポーションを馬に、魔力回復ポーションを魔導師が服用して光魔法を複数人で使いながら道を照らして走る。


 組織の者が細工したせいか、汚染地へ向かっている時と違って俺達団体が全力で街道を走っていても魔獣は一匹も出てこない。


 もしかして向かっている時に遭遇した魔獣達は王都へ向かっている途中だったのだろうか?


 そんな事を考えていると、走っている馬車の窓が叩かれる。キースが窓を開けると、外には馬車と並走する馬に乗ったマウロさんがいた。


「英雄様! エリス様! もうすぐ王都が見えます!」


 もうすぐ王都が見えるとは。凄い時短できたようだ。


「ですが! 先行した偵察によると王都城壁で完全体と思われる魔獣を確認したと! 既に戦闘は始まっております!」


「クソ! ケインに聖水の有効性は伝えたが……」


 並走するマウロさんの報告にエリスさんは眉間に皺を寄せる。


 俺は窓に近づき、マウロさんへ叫んだ。


「マウロさん! 俺だけ先に行けませんか!?」


 もう戦闘が始まっているとなれば、完全体の毒による浸食を受けている人がいるかもしれない。


 聖水の有効性を伝えたらしいので、延命は出来ていると思いたい。


 俺が先行して結界を使えば命を救える。マウロさんも俺の考えを読んだようだ。  


「ラッチ! こっちに!」


 マウロさんはラッチさんを呼ぶ。馬に乗っていたラッチさんはマウロさんの横で並走を始めると。


「お前は英雄様を後ろに乗せ、王都へ先行しろ! ヘイズ! お前の班はラッチと英雄様を囲みながら護衛の陣で無事にお送りしろ!」


「「「 了解! 」」」


 マウロさんが馬車から離れると、代わりにラッチさんが寄って来る。


「ドアを開けて、こちらに飛び乗れますか!?」


 ラッチさんがそう言った後、キースがドアを開けてくれる。


「いきます!」


 俺は並走するラッチさんに腕を引っ張ってもらいながら何とか彼の後ろに乗る事が出来た。


「捕まってて下さい! 飛ばしますよ!」


 トンと馬の腹を蹴り、更に速度が増す。


「ユウキ! 無茶するでないぞ!」


「私達もすぐに追いつく!」


 俺の背中にはエリスさんとスレイさん、他の騎士達の応援が届いた。


「いってきます!」


 何としても王都にいる皆を助け出す!



-----



 ドドド、ドドド、と騎士が操る馬達が地を蹴る音が鳴り響く中、俺の目には王都の城壁が映っていた。


「先輩、城壁を登ろうとする魔獣がいます!」


「蹴散らしていては時間が無い! 入場門も開けられんだろう!」


 ラッチさんが叫び、先輩騎士達とどう俺を送り届けるか話し合う。


「ラッチさん! 可能限り城壁へ寄せれますか!? できるなら、魔法で上に飛びます!」


 風魔法で強引に飛べば城壁の上へ行けるはずだ。だが、ラッチさん達には下にいる魔獣の傍まで近づいてもらわなきゃならないが……。


 ラッチさんは俺達を囲む先輩騎士達へ視線を向ける。先輩騎士達は無言で頷いた。


「わかりました! その作戦で行きましょう!」


「はい!」


 作戦が決まると、2人の騎士が更に速度を上げる。


「道は開く! 任せろ!」 


 剣を抜き、馬上で下段に構えて魔獣の群れに突っ込んだ。


 先行する2人が見事な剣捌きで魔獣を蹴散らし、零した魔獣を更に後続が蹴散らす。


 最後尾に並んだラッチさんは脇目も振らずに城壁へ駆け――


「さぁ! 行って下さい!」


「ありがとう!」


 俺は馬の背を足場に飛ぶ。更に城壁を登ろうとしている魔獣の背を足場にしてもう一度。その後は風魔法を吹かして強引に上へ。


「っと、と!」


 城壁の上に何とか着地すると、ジャック爺さんとガウルさんを介抱するケインさん達がいた。


 だが、ジャック爺さんとガウルさんは苦しそうに顔を歪めて倒れているじゃないか。


 まさか、毒を受けて侵食されているのか!?


「ジャック爺さん! ガウルさん! 今助けます!」


「英雄殿!?」


 俺は剣を握り締め、浄化結界を発動。


 ケツから落ちた赤い魔法陣が城壁の上で起動し、爺さん達を範囲内に収めていく。


「な、なんと……。痛みが引いた……?」


 侵食の痛みが引いた事に驚くような顔を見せるが、爺さんは一瞬で表情を変える。


「英雄殿! 姫様が!」


「アリアちゃんが!?」


「姫様のいる医療テントに完全体が落ちました! 傷を負わせましたが倒せず取り逃してしまい……」


 爺さんは悔しそうに顔を歪める。


 だが、俺はそれどころじゃなかった。


「どこ!? アリアちゃんのいるところはどこです!?」


「あの旗が立っている所です」


 爺さんが指さした場所には確かに白い旗が立つテントがあった。


 あそこか!


「あ、英雄殿!?」


 俺は居ても立ってもいられず、城壁を駆けて飛ぶ。


(完全体! どこだ、どこだ!)


 テントを睨みつけるが完全体の姿は見えない。どこか他へ行ったのか、と思った瞬間にテントの一部が崩壊。


 そこには昆虫型らしき魔獣の姿と、アリアちゃんを守ろうとする女性騎士や看護師らしき人達の姿があった。


 彼女達は完全体に威嚇され、動けないようだ。完全体が羽を広げ、キラキラと輝かせるのが見えた。 


 英雄の能力か、それとも直感か。アレはマズイと俺の脳はアラートを鳴らす。


「おおおおッ!」


 どう立ち回ろうか、どうやって先制しようか、魔獣との戦闘のセオリーや剣術の基本。それら全てを置き去りにするくらい、俺は焦っていたのだろう。


 とにかく彼女を救いたい。その気持ちだけが俺を支配する。


 だからだろうか。俺は足に身体強化を施しながら風魔法を起動して一直線に完全体へ突っ込み――


「させるかァァァッ!!」


 完全体の横っ腹に飛び蹴りをぶち込んだ。 


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