表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

57/113

56 スタンピード 2


 防衛線開始から1時間が経過。


 バリスタと弓兵、魔導師による魔法で魔獣を倒せたのはこの1時間だけであった。


 それ以降は足止めにも及ばない。理由は押し寄せる魔獣の数だ。


 200程度と予想していたが、実際の数は西と東合わせて300を超えていた。

 

 しかも、押し寄せるのはCランク以上の魔獣ばかり。E・Dランクの魔獣とCランクの魔獣の間には大きな壁が存在する。


 それは知性が高くなるというのもあるが、極端に防御力が上がる事。


 粗末な剣であれば軽々と攻撃に耐える分厚い皮膚、初級魔法を物ともしない特殊な毛。そういった特徴を持つ魔獣が多い。


 壁まで到達した魔獣は上にいる騎士やハンター、魔導師の攻撃を受けて死亡する。だが、その死体を足場に壁の上までジャンプして登って来る個体まで現れ始めた。


 当然、上で待ち構えていた騎士や戦士が近接武器を用いて応戦するのだが、


「クソ!」


「登って来る数が多くなって来た!」


「鳥型が来ている!」


 時間が経つにつれて城壁の上まで来る魔獣の数が増す。


 加えて空を飛ぶ魔獣も多く、弓兵と魔導師はそちらを対応しなければならず登って来た個体までは手が回らない。


「ガアアッ!」


「ぐ、あああッ!?」


 騎士の1人が狼型の魔獣に腕を噛まれ、今にも引き千切られそうになっていた。


 必死に振り解こうとするが魔獣は離れない。


 そんな魔獣に駆けるは炎の剣を持った老騎士。


「フンッ!」


 炎剣フラウロスを振り、噛み付いていたCランク魔獣を真っ二つに。


 噛み付かれていた騎士は何とか命は助かったものの、腕は今にも千切れそうなくらい重傷だ。


「誰か! 医療テントまで運べ!」


「はい!」


 重傷の騎士を担ぎ、城壁から王都内へと続く階段を下って行く部下を見送るジャック。


 戦闘が始まってから1時間。一人も死亡者が出ていないのは、彼ともう一人によるおかげだろう。


 東側の指揮を執るのはハンターギルド長であるガウル。


「ぬああああッ!」


 彼は拳に嵌めたグローブに氷を纏わせ、魔獣の腹をぶん殴る。すると、殴った箇所から魔獣の体が凍りついていき、完全に体が凍ったのを見て蹴り飛ばす。


 バキンと凍った魔獣は砕け散り、絶命した。


「1人で相手をするな! 2人で戦え! 背中を合わせろ!」


 エリオス王国にとって最大戦力、双璧として成すのはこの2人だろう。


 2人とも歳を感じさせぬ動きで防衛戦を支えていた。


 防衛線開始から更に1時間半。


「陽が昇って来たか!」


 まだまだ魔獣の数は多い。だが、夜の闇が晴れるまでは持ち堪えた。


 環境による不利が無くなればまだ希望はある。そう思いながら、エリオスの双璧は城壁の外を見やる。


 しかし――


「おいおい……」


「まさか……」


 山から陽が見え、辺りを明るく照らすと同時に1匹の魔獣のシルエットが見えた。


 羽を動かし、空を飛んでこちらにやって来る魔獣の影。影からは黒いオーラが噴出しているのが、皮肉にも待ち望んでいた陽の光によってよく見えた。


「完全体だと……ッ!」


 マズイ。


 ジャックは完全体のシルエットを認識すると流石に焦りを見せる。


 それは東側を支えていたガウルも同じであった。


「ケイン! 急ぎ、聖水を用意せよ!」


 宮廷魔導士として魔法を巧みに操り、風の中級魔法で魔獣を真っ二つにしていたケインへ叫びながら完全体のいる方向を指を差す。


 ジャックが指を差す方向に浮かぶモノの姿を見たケインは、冷静に頷いてから仲間へ聖水を持ってくるよう告げた。


 本人はジャックの傍まで走り、どうするのか考えを問う。


「こちらにはゆっくり来ているが……悠長にはしておれん。あれが到達すれば全滅するぞ」


「そうですね。毒を受ければ待つのは死です。っと」


 2人で話し合っていると、ケインの傍に半透明の鳩が飛んで来た。


 鳩はケインの肩に止まり、彼の耳にくちばしを向ける。くちばしからはケインにのみ聞こえる声が聞こえた。


 魔伝鳩と呼ばれる使い捨ての2つ1組で出来た魔導具から生まれる鳩の形をした魔力の塊で、魔導具に音声を登録して任意の者へ届けるというモノだ。


 緊急用にと魔導師部隊が常に持ち歩いている魔導具の1つである。


 送り主はもう片方を持っていたエリス。ケインはエリスからの緊急報告を聞き、ジャックへ伝えた。


「団長。英雄様とエリス様達がこちらに向かっているようです」


「そうか、向こうは終わったか」


「はい。詳細は省きますが、向こうでも完全体が出現。英雄様が撃破したそうです。こちらで起きている事は既に知っており、完全体に有効な手を持って戻る、と」


 ケインは加えて新型聖水が従来の聖水よりも効果的であると伝える。


 魔伝鳩は放ってから到着までにラグがある。英雄とエリスも王都の近くまで来ているはずだ、と推測していた。


 何とか希望が見えたジャックは大きく頷いた。


「わかった。何としても持ち堪えてみせよう」


 炎剣フラウロスの柄を強く握り、ゆっくりとこちらへ飛んで来る完全体へ目を向けた。


 視界が少しは明るくなったおかげか、殺到する魔獣も順調に処理は出来ている。

 

 あとはアレをどうするか、だが……。


 対策を考え始めた瞬間、ゆっくりと進んでいた完全体はピタリとその場に止まる。


 なんだ? とジャックが目を凝らして見ていると、完全体が先ほどとは比べ物にならないくらいのスピードで城壁目掛けて向かって来た。


「なッ!?」


 速度の上昇と共に城壁に突風が襲う。


 腕で顔を覆い、風が止んだ時にはジャックの目の前に完全体がいた。


 完全体は蛾のような昆虫型の魔獣で、キラキラと羽を輝かせながら昆虫らしい複眼をギョロギョロと動かす。


 そして、光る羽をパタパタと動かすと――


「マズイ! 退避ッ! 全員、退避だァァァッ!!」


 ジャックの叫びにほとんどの騎士が反応出来たのは訓練の賜物だろう。だが、数名だけは魔獣と戦闘をしていたせいで反応が遅れてしまった。


 遅れた数名の頭上にキラキラとした鱗粉が落ちる。


 落ちた瞬間は輝きを維持していたが、すぐに鱗粉は黒く染まった雪のようになる。それが騎士の頭に降りかかると……。


「あ、がッ!? ガヒッ!?」


 騎士は呼吸が上手くできないのか、首を抑えてのたうち回った。


 ゲホッと咳き込むと口からは黒い血が吐き出される。


「魔導師! 撃てッ!」


 ジャックの号令でケインを含めた魔導師隊が全力で蛾の完全体に魔法を撃ち込んだ。


 しかし、魔法を認識した完全体はひらひらと宙を舞って魔法を回避。


「聖水は!?」


「救助します!」


 当たらなかったがそれで良い。


 ジャックの叫びに反応したケイン達が聖水の原液を侵食された騎士達へドロッとした液体を乱暴に振りかけ、足を引きずるようにその場から離す。 


「あの鱗粉に触れれば侵食される!」


 ジャックが叫び、剣を構えた。


 完全体だけを相手にしている暇はない。今も城壁に登ろうとする魔獣も多く、ほっておけば王都内部へ侵入されてしまうだろう。


 空中で舞う完全体は再びジャック達目掛けて突撃を開始する。近くまで飛んで鱗粉を放出するつもりだろう。


 しかし、完全体の横に飛び込む影があった。


「ぬああああッ!!」


 拳に氷を纏い、空中で右腕を脇に引き絞りながら構えるガウル。


 接近する瞬間に息を止め、完全体の横っ腹を全力でぶん殴った。


「キィィィッ!?」


 ガチガチと音を立てて体の一部を凍らせる完全体が初めて悲鳴を上げた。


「ごふっ……。ジャ、ジャック……ッ!」 


 息を止めれば鱗粉に侵食されないかもしれん、と予想したガウルだったが甘かった。


 衝撃と同時に飛び散った鱗粉を浴びてしまい、体の侵食が開始される。


 それでも何とか着地し、黒い血を口から滴らせながら友へと叫んだ。


「応ッ!!」


 友が決死の思いで作り出した隙に、ジャックは炎剣フラウロスに炎を纏わせて飛ぶ。


「カァァァッ!」


 下段から救い上げるような一撃。胴へお見舞いしながら相手の腹を蹴って城壁へ再び戻る。


「浅いかッ!?」


 斬り口は燃え上がりながら黒いオーラが噴出させ、空中をバタつく完全体。だが、相手の目は死んでいない。


「キィィィィッ!」


 フラウロスの炎を嫌がった完全体は上昇し、一回転した後に王都の内部へと突っ込む。


 だが、体を斬られたせいかバランスが取れず、完全体は『ある場所』へと落ちていく。


「マ、マズイ! がはッ!」


 城壁を超えた完全体の背を見ながら、黒い血を吐くジャック。


「団長!」


 ケインが聖水を持ってジャックに振りかけるが、ジャックは聖水の入ったビーカーを奪い取って喉へ強引に流し込む。


 まるでポーションを飲むように。近くで膝をついていたガウルも同じ行動をしてみせた。


 この場にユウキがいれば、ドロッとした粘液を飲んで平気なのか、と言ってしまうだろう。


 2人の判断は正しかったのか苦痛が和らぐ。迫っていた死の気配も多少遠ざかるのが感じた。


 だが、さすがに体を動かせるまでは回復しない。あくまでも即死しなかっただけ、侵食を一時的に抑えているだけである。


 それでもジャックは手を伸ばし、這い蹲ってでも向かおうとした。


 何故なら、完全体が落ちた先は――


「あ、あそこには、姫様がッ!」


 城壁から離れた場所にある医療テント。


 完全体が落下した場所はアリアが宝玉を使い、重傷者を治癒している場所であった。


 防衛を支えていたジャックとガウルは動けず、城壁には依然と魔獣が登って来る。


 状況は絶望的か。誰もがそう思っていた時。


 ジャック達の背後にある王都の外には、猛スピードで向かって来る騎兵の姿があった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ