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55 スタンピード 1


 ユウキ達が完全体と遭遇した時、王都では。


 ジャックは午前中の訓練を終え、3時過ぎから王都に残っていた騎士団隊長格数名と共にガウル率いるハンターギルドの職員を交えての情報交換会に臨んでいた。


 主題となるのはエリオス国内の魔獣の生息分布と要注意となるAランク魔獣の生息地について。


 加えて汚染地が発生していないか、新たな汚染地が見つかったか、という情報の相互交換。


 騎士団で見つけたもの、ハンターが見つけたもの、お互いの情報を迅速に共有して連携を高めなければ世界の平和は守れない。


 先代英雄アレックスと共に戦ったジャックとガウルだからこそ出来る、己の利を無視した組織連携と言えるだろう。


 ジャックの通達によって行われた情報交換会であるが、いつもよりも早い開催となった。


 これにはガウルも汚染地の件があるからか、と思っていたのだが……友であるジャックの表情は開始早々から固い。


「なるほど、北東でAランク魔獣か。ここはルーベンスとの境界に近いな」


「ああ。ルーベンスのギルドと連絡は取り合っている。あちらのAランクハンターと第二王子が討伐に向かっているようだ」


 報告されたAランク魔獣のデータを脳内で思い出しつつ、ルーベンスにいるAランクハンターと有名な第二王子の実力――昨年行われたルーベンス王国御前大会で見た2人の実力――を照らし合わせる。


 あの2人が討伐に出たのならばこちらに協力の要請は無いだろう、というのがジャックの素直な感想だった。


「それと、これも見てくれ」


 ガウルに渡されたのはここ一か月のエリオス王国王都周辺の魔獣分布。


 紙の中心には王都を模した大きい黒い丸があり、その周辺には赤い点が打たれている。赤い点1つが魔獣とし、目撃、出没した数をハンターからの聞き取りで表した物。


 これがギルドから提出される分布図のテンプレートであるが、ジャックはいつも以上に多い赤い点を見て眉間に皺を寄せた。


「多いな」


 ジャックはどこか含みがある言い方で呟く。


「ああ、そうなんだ。幸いか、Cランク魔獣までしか現れていない。ハンター達は積極的に狩っているが多すぎる」


 ガウルの反応を聞き終えると、ジャックは騎士団で収集した情報を見せるよう促した。


「こちらが騎士団の巡回中に遭遇した魔獣の分布図です」


 次に騎士団の隊長1人がガウルに分布図を渡す。


「おいおい……」


 渡された分布図を見て、ガウルには嫌な予感が襲う。


 ギルドと騎士団が作った分布図にある赤い点はほぼ一緒。しかも点が多い場所が一致している。


 通常、ハンターと騎士団の巡回や見回りの日はズラして行われている。どちらかが向かった後の1週間後に向かうのがお互い話し合って決めた規則だ。


 ハンターが魔獣を狩れば、次に同じ場所へ巡回に行った騎士は魔獣に遭遇しないだろう。なんたって数日前にハンターが狩っているのだから。


 普通ならば、そう。


 だが、こうも同じ場所で魔獣と何度も遭遇するという事は――


「そうだ。現在、英雄殿が向かっている汚染地から流れて来たのか、それとも……他にあるか、だ」


 ジャックが開始早々から表情を硬くしていた理由。


 王都周辺に汚染地が複数個所存在しているという推測によるものだった。


「おい、まさか」


「汚染地へ向かう任務でゴタついていたのもあって、騎士団の分布図が確定したのが昨日の深夜でな。昨晩の内に陛下にはご報告し、我々は敵の攻撃だと考えて既に動いている」


 突如発見報告がなされた汚染地。


 ここ数年で見つからなかった場所に突如発生したのは自然発生なのか、それとも敵による工作か。


 答えを見つける為にユウキ達を向かわせたが、王都周辺には他にも怪しい箇所が発見された。


 気付いたのは昨晩なので、調査は行えていない。まだ汚染地があるとは決まっていないが、王とジャックは敵による仕業だと思えてならなかった。


 汚染地の調査と同時にアルフォンスは同盟国への協力要請も視野に入れて動き出していると説明した。


「奴等は魔獣を転移させるという技術を持っていた。しかも、魔導具である召喚鏡を使った者には攻撃を加えぬという制約まで。ある程度は魔獣をコントロールできる術を持っているのだろう。ルーベンスのAランク魔獣も組織の仕業かもしれん。我々の援護をさせぬように、とな」


 この分布図を見て、ハンターと騎士が魔獣に遭遇した場所が重なっているのは5か所。


 もしも、5か所共に汚染地があったとしたら王都周辺には200以上の魔獣が集まるだろう。


「でもなんでエリオスに? 英雄を狙うなら向かった汚染地で何かある……ん、じゃあ……」


 と、言いかけながらガウルはハッと気付く。


「囮だろう。英雄殿を汚染地へ向かわせる為の。疑わしい汚染地となれば英雄も赴くと読んだのだ。英雄は王都を離れ、汚染地へ。王都には英雄がおらず……。魔獣の群れで王都を崩壊させ、召喚陣を壊すにはもってこいだ」


 昨晩の話し合いで王が出した答えを聞かせるジャック。


「英雄を今後召喚させない為か?」


「わからん。初代様の遺骸を持ち出し、今代の英雄を拉致しようと目論んでいた。加えて、次の狙いは召喚陣かもしれぬという陛下の推測。拉致できなかったから、今後英雄召喚をさせぬように策を変えたのか……」


 敵の意図は未だ見えない。


 だが、明らかに英雄絡みである事は確かだ。ユウキを中心にして陰謀が渦巻いている。


「敵の目的は分からんが、好きにはさせん。ハンター達も――」


 ジャックがそう言いかけた時、会議室の外にある廊下から慌ただしい足音が聞こえた。


 その足音の主は会議室のドアを乱暴に開け、


「団長! ハンターから緊急報告が! 魔獣の群れが王都へ向かっています!」


 息を切らしながら報告を告げた騎士に注目が集まった。


「予想よりも早いが、来たか。ガウル。ハンターを集めろ。指示は追って出す。私は陛下の元に」


「了解だ」


 スタンピードが起こるまでまだ時間があると思っていたが、恐らく組織が何かしたのだろう。


 だが、今は原因を探っている場合じゃない。


 ジャックは王の元へ行き、王より王都防衛を第一に命じられた。


「団長、群れを見つけたハンターによると敵は西と東から向かって来るようです」


「既にハンターギルドは城壁の上で待機中。魔鉄道の線路閉鎖と他国からの入国制限を駅へ通達して実施。王都住民には家から出ないよう通達して回っています」


 現状、住民を混乱させるのはマズイ。まずは家に待機させ、状況を見てから避難を開始させる手筈となった。


 ジャックは王と共に司令室として設けられた王城会議室へ。


 中には騎士団隊長が1人、御庭番の代表としてメイド長、宮廷魔導師からはケインの姿があった。


「敵の意図は正確には見えぬ。だが、王都に存在する召喚陣が狙いだと我は読んだ。王都内に侵入させる前に食い止めたいが、王都住民の人命を優先せよ。万が一の時は住民を城に収容して城の高位防御壁を起動する」


 王が采配を口にすると各機関は王の命令を遂行するべく動き出す。


「王都の入場門は全て閉鎖する! 各員、城壁の上にて西と東側に別れ、陣を構えよ! 弓兵、魔導師の先制攻撃で食い止める!」 


 城から出て、王都を囲む壁の上に移動したジャックは騎士団と魔導師、ハンター達に指示を出した。


 ジャックの指示を聞いた騎士は最初に王都の入場門閉鎖を開始。


 巨大な両開きの門が閉じられ、完全に閉まると入場門の上部にあった円柱状に巻き取られていた物体がガラガラと下へ伸びる。


 入場門が破られないように設置された閉鎖用の鋼鉄シャッター。特殊なコーティングが成され、魔法を扱う特に凶悪なAランク魔獣でも破るのに時間が掛かると評価された、魔導国が開発した防衛装備である。


「団長、群れの進行速度から計算すると王都到達予想時刻は夜です」


「夜か……」


 ジャックは部下の報告を聞き、顔を険しくさせた。


 夜は視界が悪い。だが、魔獣はお構いなしだ。奴らは夜目も効く個体が多い。


「今のうちにありったけの松明と魔導ランタンも備えておけ」


「ハッ!」


「ジャック!」


 部下の背中を見送ると、声を掛けて来たのはガウル。


「住民は家から出ないよう伝えた。万が一の時はハンターが城まで誘導する手筈も整えたぞ」


「そうか、助かる」


 スタンピードに備え、準備を終えた王都。

 

 夜に向けての灯りも、遠距離用の矢の確保と城壁に魔導国から仕入れたバリスタも設置した。


「ジャック団長」


「姫様。如何いたしましたか?」


「お父様に許可を貰い、私も医療テントに入る事にしました」


「なんですと!?」


 王族であるアリアが前線から離れているとはいえ、医療テントに控えるなどジャックが驚くのも仕方がない。


「宝玉で重傷者だけ、という約束ですが……」


 本当は全ての者を癒したいが、治癒魔法の件が漏れると何かと問題がある。


 重傷者はテントの奥に運ばれる。そこで『試験的に作られた新型ポーションを使って治す』という名目で隠して宝玉を使う事に。


 宝玉を使えない負傷者用に、魔導師の魔力切れを見越して各種ポーションの備蓄も十分。あくまでも重傷者を死なせない処置であるとアリアは語った。


「ユウキ様がお戻りになった時に、死傷者が出たと知れば悲しむと思いますので」


 世界の為に戦うユウキの為に。アリアは少しでも力になりたいとジャックに言った。


 そんな乙女の要望を断る訳にもいかず、王の許可も得ているとの事で……ジャックは少々心配になりながらも頷く。


「わかりました。必ずお守りします」


「ありがとう。ジャック」


 そして準備は進められ――深夜2時。


「団長! 先頭が見えました!」


 最初に姿が見えたのは王都西側だった。


 騎士団の者が魔導師による光の魔法で遠くを照らし、そこを双眼鏡で監視していると王都へ入って来る魔獣の群れを発見。


 星明りはあれど暗くてよく見えない。だが、うっすらと黒い波のように押し寄せる魔獣達が見えた。


「弓兵、バリスタ用意! 魔導師も攻撃に備えよ!」


 騎士団長ジャックの号令が響く。


 魔獣の群れが射程内に入ると、ジャックは腹の底から声を張り上げた。


「放てええええッ!!」

 

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