54 2人目登場
「あらぁ。まさか変異体がやられちゃうなんてねぇ」
背後から聞こえる声と強烈な負の気配に、俺達は勢いよく振り向いた。
だが、後ろには誰もいない。
「上だ!」
騎士の誰かが叫び、全員が空を見上げる。そこには一人の女性が宙に浮かんでいた。
「まさか、英雄の力がこんなにも早く目覚めるとは思わなかったわぁ」
ふよふよと宙に浮かぶ女性はただらなぬ負の気配と……。ドチャクソエロかった。
組んだ腕に乗る巨乳。艶めかしい足。風にたなびく紫色の長い髪。
しかも、着ている服は胸元パカァ! 足のスリットドーン! である。
エロすぎる。それは組織の女性用制服なのでしょうか?
「貴様! 組織の者か!?」
「そうよぉ~?」
マウロさんが叫ぶと、女性はクスクスと手で口元を抑えながら笑った。
組織というくらいだから1人じゃないだろう、と王様達も言っていたがこうも早く別の人物と出会うとは。
「この汚染地も貴様の仕業であろう?」
エリスさんがそう言うと、女性は髪を掻き上げてエリスさんを見下すような視線を向ける。
「ふふ。正解。まぁ、考えればすぐにわかる事でしょうけど」
ドチャクソエロ組織メンバーの言葉にエリスさんは「チッ」と舌打ちをした。
「でも、英雄さんは途中から私の存在に気付いていたのではなくて? わざわざ、私に魔法陣を解析されないよう背中に隠して使っていたものね?」
「……そうだ!」
息を吐くように嘘をつくと、隣にいたエリスさんから「は?」みたいな冷たい目線が俺を射抜いた。
油断! 油断させているのですよ!?
「だが、残念だったな。今代の英雄は歴代最強と言える浄化力だ。貴様等の思い通りにはならん!」
エリスさんが怒りに顔を染めながら叫ぶが、彼女は再びクスクスと笑った。
「私達がわざわざこんな僻地に汚染地を作ると思う? 英雄の浄化する力を知らないとでも? 用意した変異体が1匹だけとは限らないわよねぇ?」
おや? と俺は内心で首を傾げる。
確かにここは王都から離れた僻地と言うべき場所だろう。そこにバレないよう汚染地を作り、魔獣を完全体にする計画だったのでは? と俺は推測していたのだが。
もしかして、まだこの近くに完全体の魔獣が潜んでいるのだろうか?
隣にいたエリスさんはハッと何かに気付いた顔を浮かべた。
「まさか、貴様! これは囮か!?」
「ふふ。せいか~い。さすがエルフ。伊達に歳を食ってないわねぇ?」
どういう事だ? と俺や数名の騎士が首を傾げると、
「ここに英雄をおびき寄せ、完全体をぶつける。するとどうだ? 英雄は戦うだろう? 足止めだ。ヤツは汚染地を1か所しか作れんなどと言っていない!」
ポカンと口を開けた俺はまだわからなかった。
「王都だ! 奴の狙いは王都! お主がおらんだろう!」
「え? あ!」
「ふふ。そのエルフの言う通りよ~? 王都は今頃どうなっているでしょうね~? 汚染地が王都の周りに……5か所もあったらどうなっちゃうのかしら?」
先ほどまでのクスクスと笑う顔から一変、彼女はニヤァと邪悪な笑みを浮かべてみせた。
汚染地が出来れば周囲にいる魔獣が引き寄せられる。引き寄せられた魔獣は縄張り争いをしながら餌を求めるだろう。
少しの間は野生動物を餌にして人を襲わないかもしれない。だが、周辺の餌を食い尽くしたら?
近くには人が暮らすエリオス王国内でも最大の都市がある。魔獣からしてみれば餌の宝庫だ。
まだ周辺の餌を食い尽くすには時間があるだろう。だが対策をしなければ……飢えた魔獣が王都へ餌を求めて一斉に移動して――
「スタンピード……」
マウロさんが険しい顔で彼女を睨みつけた。
「良い事を教えてあげる。私が見た時、王都周辺には200を超える魔獣が汚染地に引き寄せられていたわ。あぁ、すぐに王都へ向かうよう工作もしたから安心してね?」
ここで観戦する前に一仕事したのよ? 大変だったんだから、と笑いながら言う。
続々と引き寄せられる魔獣達。今は一体何匹まで膨れ上がっているのか。200匹でも現状の王都にある騎士団の戦力では厳しいだろう。
だが、王都には英雄武器を持った爺さんがいる。王都支部に所属するハンター達もいる。
持ちこたえてくれるんじゃないか、という希望があった。
「貴様、なぜエリオス王都を狙う?」
エリスさんは出来るだけ情報を聞き出そうとしているのだろう。
相手も意図を理解しているようだが、宙に浮かぶ女性は敢えてエリスさんに乗ったように見えた。
「邪魔なのよね。エリオス王国って」
乗っているが、明確な答えは言わない。
もどかしい感じだ。俺は今、手玉に取られている……!
「召喚陣か」
モヤモヤする気持ちを抱えた俺と違って、エリスさんは最初から答えが解っていたのだろう。
宙に浮かぶ女性も「正解」と言ってやり取りを楽しんでいる。これが腹の探り合いってやつなのか? 俺には無理だ。
「お喋りしすぎちゃったわねぇ。私はここで失礼するわ」
フワッと更に浮かぶ女性。
「逃がすか! 弓兵、用意――」
「良いのかしら? 王都には貴方達の言う完全体も向かっているわよ?」
「なに!?」
スタンピードに加えてあの、完全体まで。彼女の言葉を聞いて恐怖を思い出し、悪寒が襲う。
さすがに爺さんだけではマズイ、と思ったのはマウロさんも同じだったようだ。
「ふふ。じゃあ、頑張ってね」
マウロさんが指示を出す前に女性の姿が掻き消えた。
前に王都を襲撃した組織の男と同じように転移魔法を使ったのだろう。
だが、今はそれを気にしている場合じゃない。
「マウロさん! 急いで王都に戻らないと!」
俺は焦っていた。完全体がいるとなれば、王都で応戦する人達に死者が出るかもしれない。
俺が結界を使わなければ……! 自惚れている訳じゃないが、王都にストックしてある聖水を使うにも限りがある。
「慌てるな。全速力で王都に戻るにも準備が必要だろう。マウロ、村で馬を借りて頭数を増やせ。戻りは一気に駆け抜けるぞ」
「承知しました。全員、村まで撤収!!」
騎士と魔導師達がキビキビとした動きで撤収準備を始め、負傷者を担ぎながらも村へと急いだ。
「アリアちゃん達が……!」
慌てるな、と言われても抑えられない。
初めて見た完全体の魔獣。あんなモノが王都に現れたら被害はどれだけ出るのだろうか。
ジャック爺さんやアリアちゃん達が無事でいる保証はどこにもない。
「王都には対魔獣用の防御策もある。お主が作った剣と宝玉もあるだろう。焦るな。焦れば無駄に精神的な疲労を生む。そうなれば、戦いの時に失敗するぞ」
「エリス様の言う通りだ。ユウキ、今は戻る為の準備に集中しろ」
俺の顔から滲み出ていたのだろう。エリスさんとスレイさんから言われ、俺は何とか冷静になろうとするが。
「でも……クソ!」
未熟な俺は気持ちを抑えきれず、悪態をつく事しかできなかった。
今後は夜更新になると思います。
20-24時くらいです。




