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36 尋問


「さて。貴方の刑は今のところ、陛下の采配によって死刑となっています。勿論、息子さんもね」


 尋問用の部屋で手足を鎖で繋がれたナリンキー。彼は項垂れながら、もはや声を上げる気力も無いといった顔で尋問官の言葉を聞いていた。


 彼がこのような様子になっているのは、王都襲撃に失敗したからじゃない。


 捕まった当日に、尋問官から徹底的に『今後どうなるか』という『推測』を聞かされたからだ。


 たった今始まった第2幕で、尋問官が最初に『死刑』という確定した未来を聞かせたのも手の内であった。


「そろそろ、喋りませんか? どのようにして組織と接触したのですか? 切っ掛けは? 他の仲間は? 次の計画は?」


 エリオス王国は理性的な国だ。


 尋問するにあたって拷問はしない。徹底的に『未来』を聞かせて、相手を『絶望』させるだけ。


 そして、


「今話せば、多少は罪が減刑されるかもしれませんね。死刑ではなく、禁固刑になるかもしれません」


 命を取らない。そう聞かせるのだ。


 聞かされた者は、暗い世界に光が当たったと思うだろう。大体の者はその光を手放さないよう、口を割る。


 ただ、これは尋問管が個人的な意見として、独り言として言っている事だ。必ずしもそうなるかは分からない。あくまでも独り言である、と言わないのがミソなのだが。


「……喋ったら、息子は見逃してくれるか」


 堕ちたか。尋問管は内心でそう思った。


「約束はできませんが、口添えはしましょう」


 これも決まった定型文。


 だが、効果は絶大。ナリンキーは顔を上げて、初めて尋問管と目を合わせた。


「最初に接触があったのは向こうからだ。一昨年の、冬に」


 ナリンキーが一昨年の冬に懇意にしている貴族の領地へ旅行に出かけた帰り道。立ち寄った小さな街の宿で接触があったと言う。


「彼らは資金を欲していた。出資者にならないか、と持ち掛けられたのが始まりだ」


 金を提供してくれれば、最新の魔導具を。そう持ち掛けられたのが始まり。


「宿で見せられたのは確かに最新式の戦闘用魔導具だった。魔導国で開発している物よりも性能が高く、より強力だった」


 今、魔導師達が使っている魔水晶。それの最新式を見せてきた。


 性能も、効率性も、全てが既存の物よりも上。既に魔導国から発表されていた最新式よりも威力が高い魔法を行使できる。それを宿の外でわざわざ見せてくれた。


 ナリンキーに同行していた魔導師が驚愕するくらいの魔導具だ。本物だとナリンキーは信じた。


「資金を提供すると次々に魔導具を寄越したのだ。魔水晶や他の魔導具も。そして……最後に見せられたのが召喚鏡(しょうかんきょう)


 召喚鏡。


 それはナリンキーが王都襲撃の際に使った魔獣を召喚する魔導具。


 人類の敵である魔獣を使役できる。それは革新的で、この世の王になれる魔導具と言えるだろう。


「召喚鏡を量産するから資金を出せと言われた。そして、これがあれば国を手に出来ると言われた。私は他の貴族に話をして、協力者を増やして準備を始めた。これが去年の事だ」


「ふむ。貴方に協力していた貴族は彼らですよね?」


 尋問管はそう言ってリストを見せる。


 ナリンキーはリストを少しばかり眺めた後に、


「彼らは捕まったのか?」


 そう問うたが、尋問管はすぐに答えを述べた。


()()されました」


 組織に協力し、王家転覆を狙った貴族達は例外無く御庭番による粛清を受けた。これは国の定めた法律にはない、国の緊急時における秘密のプロトコル。


 彼らに従った警備隊員達、所謂下っ端共は全員鉱山送りになって強制労働と既に刑は決まっている。それも何十年単位の刑だ。無期懲役と言っても過言ではない。


 尋問管が言った意味が理解できたのだろう。ナリンキーの顔色がみるみる悪くなっていく。


「王は貴方が思っている以上に……おっと。とにかく、貴方は運が良い。ここにいるのですからね」


 そう言ってニコリと笑った。


「そうか……」


 脅しは十分。次のステップに行くべきだと判断した。


「次は組織の名前、拠点、構成人数。組織について全て話して下さい」


「わかった。組織の名は……」


 ナリンキーがそう言って、口を開けたまま黙り込む。


「どうしました?」


「…………ッ」


 パクパクと口を動かしながら、何かを訴えるように。だが、声は無い。


「おい!? どうした!?」


 不審に思った尋問管が椅子を跳ね飛ばしながら立ち上がる。


「………ッ! ………ッ!!」


 だが、ナリンキーは以前として声を出さない。いや、出せないように見えた。


 喉に両手を当てて、目はどんどんと赤く染まる。


 ナリンキーの手は己の首に沈み込むくらい強く握り始め、目からはドロッとした血が涙のように流れた。


「おい!! 誰か!! 誰か来てくれ!! クソッタレ!!」


 尋問管は部屋の外にいる者を呼びながら、ナリンキーが自分の首を締める手を解こうと試みる。


「なんだ、この力は!?」


 身体強化を何重にも掛けたような、凄まじい力で首を絞めていた。彼も身体強化を使って解こうとするも……解く前にナリンキーの訴えるような目と合った。


「マ、ギ……テ……」


「なんだって!? おい! なんて言ったんだ!!」


 己の首を絞めながら、何かを呟くナリンキー。


 確かに何かを呟いた。だが、断片的にしか聞き取れない。


 もう一度言え、と尋問管が叫ぶが――ゴキッという鈍い音と共にナリンキーの首が後ろに倒れた。


「クソッ!!」


 何だこれは、と脳内で疑問が反芻する。


 組織が情報を漏らさないよう、ナリンキーに何か仕込んだのか。そうとしか思えない。


 用意周到。


 辛うじて聞こえた「マ、ギ、テ」という断片。これが何を意味するのか。


「先輩!!」


 彼のいる部屋へ慌てて入ってきた後輩は、死亡しているナリンキーを見て「クソッ」と悪態をついた。


 後輩のリアクションに、嫌な予感がしてならない。


「ナリンキーの息子が自分の首を絞めて死にました」


 親子同時尋問中に、同じ方法で死亡。


「急ぎ、陛下に知らせろ!」


「はい!」


 尋問管は後輩を走らせ、自分は死亡したナリンキーの骸を見下ろす。


「一体、何が起きるんだよ……」


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