35 事情聴取
事件の翌日から騎士団による事情聴取が開始されました。
聴取を行うのは主に騎士団と御庭番であるが、彼らの中に混じって魔法技術部の人員もいるとの事を最初に説明されます。
リーベル宰相閣下とジャック騎士団長閣下も立ち会って下さった事もあり、魔獣憑きである私が不当な扱いを受ける事はなかった。
事情聴取が始まると、最初に私が魔獣憑きになった経緯から話す事に。
幼少期、私が住んでいた王国東にある村の名を告げる。
村の近くにあった森の奥地で世界喰らいの肉片を触って魔獣憑きになってしまった事。痛みに悶えながらその場を逃げ出し、家を目指す途中で侵食は止まった。
家に帰れば親代わりであった叔父に家を追い出され、大きな街の孤児院に入れられた。
孤児院で魔獣憑きだった自分は街の騎士達に脅され、無償奉仕という名目で魔獣退治などの危険な仕事を手伝わされていた事。
最終的には妹に手を出そうとした騎士がいたり、魔獣憑きを匿っていたという事を使って孤児院を脅そうとしていた為に、迷惑を掛けぬよう二人でスラム街へ逃げた事。
自分が送って来た人生を全て話した。
「ふざけおって!」
「なんと愚かな事を……」
暗く辛い記憶を話すのは苦痛とも言える行為であったが、リーベル宰相閣下とジャック騎士団長閣下が憤慨してくれた事が、唯一の救いだった。
「では、次にナリンキー伯爵が組織の男と接触していた日を教えて下さい」
「はい。確か、私が最初に目撃した接触は去年の3月中旬頃でしょうか。西にあります、リカーベル侯爵領からの帰り道にある街の宿です。この日よりも以前から接触していたようでした」
私がそう答えると、対面に座っている騎士団の方が紙に私の発言を書き込んでいく。
それを待っている途中、リーベル宰相閣下とジャック騎士団長閣下の小さな囁きが聞こえた。
「やはり反王派か」
「ええ。なかでも過激派の連中ですね。既にヨハン殿が掃除に向かわせております」
「これで国内の貴族が追加で3家も減る訳だが」
「はい。調整に急いでおりますよ。今年の爵位授与は荒れそうですが……」
なかなか国の上層部も大変な苦労を抱えているのだな、と私はこの時に初めて知った。
庶民からしてみれば、国が政治事を行うという事に関しては不透明だ。故に批判する者も多い。
だが、こうして一度中に入ればそれらに関与する人々の苦労が垣間見えるのが何とも面白く思えた。
同時に王城では政争、利権、貴族家への配慮。それらがうっとおしく絡み付く。切っても切っても、次から次へと絡み付いて切れやしない。
西大陸の中では特別平和な国と言われるエリオス王国も闇を抱えているのだと思い知った。
「ふむ。関与していた貴族や警備隊員から得た証言とほぼ一致しますね。他に関与していたと思われる貴族はいますか?」
私の対面に座る騎士が紙を差し出す。紙には尋問で吐かせたであろう、関与の疑いのある貴族達の家名が並ぶ。
「いえ、私が直接見たり、聞いたのは以上です。他は私以外の者を使って、手紙のやり取りをしていた可能性もあるのでわかりません」
「そうですか。では、魔法技術部の方と交代します」
そう言って騎士団の者が席を立ち、代わりに魔法技術部の者が座った。
「どうも。私の名はケインといいます。まずお聞きしたいのは、組織が開発したと思われる魔獣を召喚する魔道具についてです」
机の上に壊れた手鏡のような物が置かれた。
ケインと名乗った者はそれを指差して、詳細はわかりますかと問う。
「どういった経緯で作られたは分かりません。どのような技術が使われているかも、ナリンキー伯爵を始めに全員が聞かされませんでした。ただ、これに魔力を通すと魔獣がその場に現れる、とだけ教えられました」
私は以前、任務として受けたクリムゾンベアーの召喚……英雄襲撃事件について話し始めた。
「私が魔獣憑きになってから得た能力を使用し、現場付近で手鏡を使用しました。クリムゾンベアーがその場に現れ、あそこにいる者達を襲えと命令すると動き始めました」
そう説明をすると、室内にいた者達が一斉にざわつく。
当然だろう。魔獣とは対話できない。コミュニケーションを取る事など一切不可能と言われてきた。
だが、命令をすればその通りに動き、命令者には一切危害を加えない。そんな方法があれば、世の中の仕組みがガラリと変わる。
「ただ、クリムゾンベアーのような高ランク魔獣を召喚する物は貴重だと聞いております」
「ふむ。なるほど……。確かにクリムゾンベアーは気性が荒く、他の高ランク魔獣も気性が荒いですからね。使役する条件が厳しいのでしょうか? 興味深いですね」
答えを聞いたケイン氏はブツブツと独り言で考察を積み重ねていたが、背後にいたジャック騎士団長閣下の咳払いで我を取り戻した。
「因みに、英雄様達がクリムゾンベアーを討伐された事で組織側は何か言ってましたか?」
そう問われ、私はあの事件がユウキ様を狙った事であると、彼らが認識していると理解した。
だが、違う。私は首を振ってから再び答えを述べる。
「あれはユウキ様を狙ったんじゃありません。ジャック騎士団長閣下を狙った事件です」
そう述べると、再び室内はざわつく。
「私を狙った?」
「はい。ナリンキー親子はユウキ様を排除する気でしたが、組織の男はユウキ様よりもジャック騎士団長閣下を狙っていたのです。召喚されたばかりの英雄は、英雄としてまだ完全に開花していない。後の計画では王国の守護を司る騎士団長の方が障害になる、と。本来ならば、あの事件でジャック騎士団長を殺害した後にユウキ様を誘拐するつもりだったのでしょう」
私がジャック騎士団長閣下の目を見て答えると、閣下の目つきが険しいモノへと変化した。
「今後、ユウキ様が狙われるのは確実でしょう。ですが、同時に王国にいる強者も障害として見られています」
「そうか。情報、感謝するぞ」
腕を組みながら頷いたジャック騎士団長閣下。その目を見るに、強者という存在に何人か心当たりがあるようだった。
「話を戻しましょう。次に、魔獣憑きを抑える手袋。これはどこで入手したかは知っていますか?」
「いえ……。魔導国から買ったとしか聞いておりませんが……?」
ユウキ様との戦闘の際に紛失した手袋であったが、御庭番に回収したのか再び机の上で目にする事に。
だが、この手袋に何か問題があるのだろうか。私が不思議に思っていると、眉間に皺を寄せたケイン氏が口を開く。
「この手袋、魔導国ではまだ試作品の魔道具なんです。魔導国中央塔――あの国の中心にある、最も権威の高い開発機関が開発していた魔道具です。まだ、未発表なんですよ。そんな物をナリンキー伯爵が手に入れられるでしょうか?」
事実を聞いて、私は衝撃を受けた。
ケイン氏は私だけでなく、国の重鎮であるリーベル宰相閣下とジャック騎士団長閣下の両名にも聞かせるように言った。
事実、両名も初耳だったようで、
「この事は誰も漏らすな。騎士団長権限で箝口令を敷く」
同盟国にも組織の協力者がいるという事だ。少なくとも、魔導国に1人いる事は間違いない。
「当時、貴方は魔獣憑きになって騎士の仕事を手伝わされていたと言いましたね? その時からその能力を?」
「はい。2度目の参加で死にそうになった時に」
能力を開花させたのは、魔獣を追い立てる囮として使われた時だ。
獰猛な魔獣に追いかけられ、必死に逃げようとした時に開花した。
「そうですか。ジャック団長、リーベル宰相。恐らく、組織はその頃から目を付けていたと思いますよ」
ケイン氏が背後を振り返りながら言った。
「で、あろうな。キースがいた街の領主も今回の件に関わっておる。随分と前から暗躍していたか」
「しかし、なぜこのタイミングで?」
「英雄が代替わりする瞬間を待ったのではないか? 先ほどキースが言った通り、召喚されたばかりの英雄は開花していない」
「確かに、先代のアレックス様のお力は凄まじかったですからね。それに、英雄様を誘拐してどうするつもりだったのか。ううむ……」
両名が悩む中、私は何か力になれる情報は無いかと記憶を探るが出てこない。
それがとても歯痒かった。
「これで事情聴取は終了とする」
それから再びナリンキーに関する事をいくつか聞かれ、事情聴取は終了した。
「君は御庭番の監視対象となるが、陛下の下した処遇に変わりはない」
最後にジャック騎士団長閣下が私の今後について話してくれた。
「では……?」
「うむ。君は英雄殿の執事業務をこなしながら、ヨハン殿の元で学びなさい」




