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34 王都の掃除


 キースとの話し合いを終えたアルフォンスは彼を下がらせ、ヨハンを除いて家臣達をも下がらせる。


 しばらく同盟国向けの書状を準備した後に、深いため息を零して時計へと視線を向ける。


「もう夕食の時間か」


「はい。既に皆さまも食堂へ向かっているのではないでしょうか?」


 腹が減っては戦はできぬ。その言葉を残したのは何代目の英雄様だったかな、と思いながらもヨハンと共に王家専用の食堂へ。


 食堂のドアを開けてもらい、中へ入れば既に妻と娘、そして英雄であるユウキが席に着いていた。


「すまぬ、待たせたか」


「いえ、私達も今来たところです」


 そう言って微笑むのは愛すべき妻。妻に笑みを返しながら席に着くと、料理が運ばれる前にユウキが立ち上がって頭を下げて来た。


「王様、聞きました。キースの件、ありがとうございます」


 本人か、それともジャック辺りが教えたのだろう。


 英雄という王と同格かそれ以上の待遇を約束されている身でありながら、他人の処遇に関しても律儀に礼をする辺りがユウキらしいと彼は思う。


「いや、良いんだ。彼は協力者であるし、我らの落ち度も確かにあった。気にせんでくれ」


 アルフォンスがそう言うと、再びユウキが礼を言って着席する。


「彼はユウキ殿の執事になりたいと言っていたが。というか、熱望していたが……?」


「マジでなるのか……」


 ユウキが城に戻る道中、執事になったら? なんて軽口を零してしまった件をその場で説明。


 加えて自分の発言が、そこまで重いとは思っていなかったと反省を見せる。


「良いではありませんか。その彼が熱望しているのでしょう? ユウキさんもメイドだけじゃなく、執事もいないと大変でしょうし」


 アリーシアがクスクスと笑いながら言った。


 世話係がメイドだけだと、男性にしか分からない苦労を分かち合えずに主人が苦労する場面があると彼女は告げる。


 故に執事もいた方が何かと楽になる、と。


 異世界からやって来たユウキは『お世話係』という存在が必要不可欠という常識に、納得し難い顔を浮かべていたが「こちらの世界はそういった文化なんですよ」アリアがフォローする。


「ははは。まぁ、少しずつ慣れていけば良い。ユウキ殿がこちらに来て、まだ二か月程度だ。さぁ、今日は皆疲れたろう。食事を摂って休むとしよう」


 アルフォンスが会話を締めると夕食の配膳が始まった。



-----



 夕食が終わり、各自自室へと引き返して行く中で王であるアルフォンスは執務室へと戻る。


 同伴していたヨハンが食後のお茶を出し、それを口にしているとドアがノックされた。


「入れ」


「失礼致します」


 執務室に現れたのはリーベルとジャック。夕方の面々が再び揃う。


「さて、ヨハン」


「ハ。既に準備は終えております。命令を頂ければ、すぐに」


 王が問うとヨハンは鋭い目を見せながら頷いた。


「ジャック、騎士団はどうか?」


「ハッ。既に1班から5班が待機中です」


 ジャックも騎士礼を返しながら、獰猛な目つきを見せる。


「リーベル」


「はい。こちらの準備も既に。関係各所への穴埋めはすぐに対応できます」


 リーベルも片目にあるモノクルを光らせながら準備完了を告げる。


「では取り急ぎ、王都内部の()()を始める。夜の内に、速やかに終わらせよ」


「「「 ハッ!! 」」」



-----



 今宵のエリオス王国王都は静かであった。


 昼間に魔獣の襲撃があったというのもあるが、庶民達が暮らす東と西区の商店が並ぶ大通り沿いは人の気配が全くない。


 普段は夜遅くまで営業している酒場も光は無く、酒を飲む客は皆無だ。


 庶民達は東区南側にある避難所で一晩明かす事になっているのもあるが、大通りや各所通路、外へと繋がる道は騎士団によって完全に封鎖されている。


 対し、貴族達が住まう中央区。こちらには騎士の姿が全く無い。

 

 区画内を警邏する騎士も無く、中央区へと繋がる王都中央を貫く『中央大通り』の北・南入り口にしか配置されていなかった。


 そんな『囲まれた』中央区にある1軒の屋敷の中では――


「早くせんか! 王都を脱出する!」


「父上! ナリンキー家との手紙は燃やしましたか!?」


 反王派に属する貴族の親子が慌ただしく室内で逃走の準備を行っていた。


 彼らは表に出ずともナリンキー伯爵と組織に協力していた者達。ナリンキーが王族を排除した後に、甘い蜜を吸うべく約束を交わしていたが……それは失敗に終わった。


 警備隊に所属していた次男にもナリンキーへ協力するよう申し付けていたのだ。


 警備隊が全て捕まったという報を聞き、すぐさま逃走を図ろうと準備を進めている次第である。


「あの王は甘いが、捕まっては禁固を免れん!」


 現在のエリオス王国を治めるアルフォンス王は優秀で優しいと庶民からは評判高い。


 一方で反王派からは情に弱い甘ちゃんな王として評価されている。


 だが、今回の件は甘い王も罪を追及してくるだろう。捕まれば禁固刑は確実である、と。


 自由で蜜に塗れた生活を送って来た貴族達が禁固刑など耐えられる訳もなく。王都を脱出した後に外国で金に物を言わせて暮らそうと画策したのだが――


「あら? そんなに慌ててどちらへ?」


 慌てて証拠隠滅を図る親子の背後から、酷く冷たい言葉が響く。


 壊れたブリキのおもちゃのように首をゆっくりと回せば――そこにいたのはメイド服を着用し、顔は仮面で隠した『灰色の毛並みを持った獣人』がいた。


「き、貴様……!」


 仮面に見覚えのある当主は酷く狼狽した。


 御庭番。王の飼う影の部隊。


「女風情が!」


 当主である父親は正しく御庭番の脅威を理解していたが、息子は違った。


 腰に差していた煌びやかな装飾剣を抜き、彼女へと襲い掛かる。


「待て――」


 当主が息子の背中へ手を伸ばし、制止しようとするがその時にはもう遅い。


 襲い掛かった息子の首から上が宙を舞っていた。


 ゴトリと息子の首が床に転がり、切断された首からは鮮血が噴き出す。


「ひ、ひぃい!?」


 息子の死を間近で見た父親はその場で腰を抜かし、後退りしながら御庭番の女性から距離を取った。


 窓から差し込む月の光を反射させる銀のナイフ。彼女はゆっくりと残された父親へと歩み寄る。


「ま、待て! 罪を、罪を受け入れる! 禁固刑でいい! だから――」


 息子の死を見て、当主は潔く罪を認める。禁固刑を受けれようと叫ぶが、


「王は掃除せよ、とのご命令です」 


 甘ちゃんと評価していた王は『甘く』なかった。


「私を殺せば、情報が――」


「大した事は知らないではありませんか。貴方の持つ情報は、貴方を排除してから押収させて頂きますので」


 彼女の言葉は正しい。この当主は特別、組織について何か知っている訳じゃない。


 精々、ナリンキーを通して出資していただけ。当の首謀者であるナリンキーを確保している以上、この当主を生かす価値は無い。


「ごきげんよう」


 灰色の毛並みを持つ彼女がそう言うと、当主の背後にあった窓に血飛沫が飛び散った。


「残り2軒も終わったかしら?」


 そう言って彼女は銀のナイフに付着した血を払い落とす。


 ふぅ、と一息ついた彼女の背後にあったドアがキィ、と音を立てて開く。すぐに彼女がナイフを構えて振り返るが――


「終わりましたか。ロザリー」


「はい。完了しましたメイド長」


 ドアを開き、声を掛けたのはロザリーの上司。彼女もまた、御庭番。御庭番女性部隊の長であり、執事長ヨハンと対を成す存在。


「よろしい。掃除は全て終わりました。騎士団に後始末をするよう伝えなさい」


「かしこまりました」


 メイド長の脇をすり抜けて、外へと向かうロザリー。


 その場に残ったメイド長は死骸となった親子を見て――


「愚か者の末路としては、お似合いですわね」


 小さくため息を零して、その場を後にした。


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