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30 水責め


「やりましたな! 英雄殿!」


 俺達が穴の中から戻るとジャック爺さんの良い笑顔で迎えられる。


 本当に上手く行って良かった。


「ユウキ様。本当にありがとうございます」


「あ、ありがとうございます」


「いえいえ」


 キース兄妹が頭を下げる。妹ちゃんはキースの腰に捕まりながら、後ろに隠れているが何とも可愛らしい。


 こんな幼い子が牢屋に監禁されていたとか異世界ヤバイ。犯罪じゃんね。


「こんな幼い子供を人質にして監禁とは。ナリンキーめ。ここまで外道であったか」


 ジャック爺さんにとっては孫の年齢だろう。


 ナリンキー伯爵の外道っぷりに憤慨している様子。やっぱり犯罪じゃんね。


「せっかく、地下室から内部へ開通したのです。ここから突入しましょうか」


 怒りを隠さないジャック爺さんが突入しようとするが、俺は少し考えてから爺さんに問う。


「まだナリンキー伯爵は中にいると思う?」


「わかりません。ですが、内部には足止めの要員が残されていると思いますが……」


 もしかしたら逃げているかもしれない。


 足止めに何人か中にいるかもしれないという考えは俺も予想はしていた。


 そられらと戦っていたら時間稼ぎされ、追うのも遅れてしまうだろう。ここは一網打尽にするべきか、という考えに至った。


 故に俺は穴の前で再び中腰になる。


「英雄殿? 何を?」


「まぁ、見てて下さいよ。中の奴らを無力化してから追った方が良いでしょう?」


 バチコーンとウインクしてみせた俺は、再びケツに力を込める。


 さぁ、中の奴ら。出てこいやッ!



-----



「てめぇ。あれだけの魔獣を貸してやったのに失敗するとは何事だ? 馬鹿なのか?」


「も、申し訳ありません! しかし、騎士団長ジャックが予想以上に……」


 ナリンキーの屋敷内部では未だに逃げていない主犯達がフード付きの黒いローブで顔を隠した男に土下座をしていた。


「こちらの用は済んだからまだ良いが……。てめぇのような馬鹿に期待した俺達が愚かだったか」


 顔を隠した男は小脇に筒状の入れ物を抱えつつ、床に額を擦り付けるナリンキー伯爵を見下した。


「馬鹿息子も英雄を捕らえられんとは……。アイツはまだ英雄として開花していないんだぞ。なのに失敗するとは……ハァ……」


 隣で父親と同じように土下座する息子に視線を向けると思わずため息を漏らした。

 

 何と無能な親子なのか。


 将としては無能も無能。貴族らしく無駄に貯め込んでいた金くらいしか役に立たない。


「魔獣を確保するのにどれだけ労力が掛かったか……」


 男の組織が長年苦労して開発した魔導具も貸し与えたのに。


 失った魔導具本体と確保した魔獣の両方に費やした時間と人員を考えるだけで男は頭が痛くなりそうだった。


「クソ、もういい。俺は撤退させてもらう」


 男は小脇に抱えていた筒状の入れ物を異空間に仕舞いながら吐き捨てるように言った。


「わ、私たちは……?」


「お前らは責任を取ってここで足止めしろ。王国を裏切った騎士もまだいるだろう?」


 素より連れて行く気は無かったが。


 失態したのだから捨て駒にされるのは自業自得だろう、と男は心の中で呟く。


 それを聞いたナリンキーが男の足に縋りつき「約束が違う!」と喚くも、男はナリンキーの膨らんだ腹を蹴飛ばして睨みつけた。


「黙れ無能がッ! 俺がどれだけ――」


 男が叫び、言葉を続けようとするが不自然な音が聞こえて中断した。


 ドドドドド。


「何だ?」


 ドド、ザァザァ、と聞き慣れない音。それは廊下から……いや、下から聞こえるように思えた。


 すると同時に廊下で待機していた警備隊の騎士が顔を青くさせて部屋の扉を開け放った。


「何だ!?」


「み、み、水が!! 水が溢れてる!!」


 苛立っていた男が乱暴に問うが、騎士の言う事は要領を得ない。


 それが更に男の苛立ちを増幅されるが――


「あぎゃあああ!?」


 次の瞬間には屋敷の廊下に津波が発生。騎士は津波に攫われて男の視界から消えてしまった。


「な、なに!? うおおお!?」


 男も驚いている暇など無く。部屋の中に勢い良く入り込んだ大量の水が彼を襲う。


 水量も勢いも凄まじい。男は一気にバランスを崩して水の中で藻掻き苦しんだ。



-----



「いや、しかし……。本当に凄いですな」


 ジャック爺さんが穴の前で魔法を発動させる俺に向かって呟いた。


 だが、俺はそれに応えている余裕は無い。


「ふんぬうううう!! ぬあああああ!!」


 クソが漏れそうだ。久々にやばい。


 俺はケツの(前に浮かぶ)魔法陣から勢いよく水魔法をひたすらに発動させていた。


 ケツから放たれる水の量は壊れた蛇口なんてもんじゃない。もうダムの放水レベルだ。


 正真正銘、俺の持つ全力全開で魔法を行使。


 魔法を放つ時、俺はケツに力を入れる。だが、ここで油断するとアッチの門まで開門してしまう。


 アッチは開門せず、魔法だけを全力で使う(ふんばる)というのは中々にコントロールが難しい。


 しかしだ。しかし。俺はこの道数十年やって来たベテランよ。ケツのコントロールはお手の物。

   

 プライドがあるんだ。プライドがよッ!!


「あああああッ!! ぐ、くぅぅッ!!」


 出さねえぞッ!! 俺は出さねえッ!!


「これだけの出力で魔法を使ったら……精神的な負荷はとんでもないハズです」


「それを耐え、意識を保つとは……!」


 キースとジャック爺さんから驚愕の声が聞こえた。


 精神的な負荷。確かにな。今、凄い負荷掛かってる。精神じゃなくケツに。


「ねえ、お兄ちゃん。英雄様、苦しそう。漏れそうなの?」


 正解だ。ピュアガール。


 だが、安心しろよな。俺は耐えてみせるぜ。


「カァァァッ!!」


 俺が最後の一押しとより一層の力を括約筋に込めると更に水の勢いが増した。


 もう結構な量を穴を通して送り込んでいる。屋敷の中は水で充満しても良いと思うのだが……。


 そう思っていると、防御壁の向こう側にある屋敷の窓ガラスが割れて水が溢れ出すのが見えた。


「ウワァァァ!?」


 次の瞬間には窓や玄関のドアをぶち破って外へ流される騎士達。


 まだだ。まだ終わらねえ!!


 俺は放水を続けた。


 防御壁という絶対的な壁に囲まれた中に水を放水し続けたらどうなる?


 防御壁の中を満たす程の水を送り込んだらどうなる?


 巨大水槽の出来上がりだぜ!


 俺の放水はそれから10分以上続く。


 もう屋敷の2階まで水が溜まっている。そろそろかな? と思っていると――水の中にナリンキー伯爵っぽい奴を見つけた。


「ガボボボ!?」


「ンー! ンー!」


 勢い良く送り込まれた水の奔流に飲まれ、防御壁の傍まで押しやられたナリンキー伯爵は口を手で押さえながら必死に藻掻いているじゃないか。


 もう一人、ローブを着た男もいるが……ありゃ誰だ?


「ナリンキー!!」


 ジャック爺さんが叫び、ナリンキーへ鬼のような形相を向けると先にこちらの存在に気付いたのはローブの男。


 彼は手足をシャカシャカ動かして水面のある上へと必死に動いて行った。


「ぷはあああ!! クソ!」


 男は水面へと到達すると、ゆっくりながらも確実に動いて水がまだ到達していない屋敷の屋根に上がって悪態をまき散らす。


「アイツは……! あの屋根に上った男! あれが黒幕です!」


 男の存在に気付いたキースが指を差して叫ぶ。


 当の本人は水を飲み込んでしまったのか、四つん這いになりながらゲホゲホと咳をしていた。


 ようやく落ち着いたのか、男は立ち上がると穴に向かって放水する俺と目が合う。


「チッ! やはり英雄の仕業か!!」


 何とも黒幕らしいセリフだ。


 ローブの中にある目がギラギラと光っている。こちらを見透かし、全てを覗き込むような視線……暗黒系に堕ちた人か?


「今回の英雄は魔法に特化しているとはな。まさか手を翳さず、背中から魔法を撃つなんて芸当をやってのける魔力コントロールの精度を持つのか……」


 違った。見透かしてねえわ。勘違いしてるだけだわ。


「そうだ! 恐れ入ったか!?」


 俺はここがチャンスだと思い、間髪入れずに肯定してやった。


 味方の視線が一斉に俺へと向けられるが気付かないフリをするしかない。


「貴様の悪事もこれまで。もう地下の脱出ルートは使えまい! 捕らえさせてもらうぞ!」


 男に視線を戻したジャック爺さんが剣で男を指すが、彼はニヤリと笑う。


「俺が保険を用意していないと思ったのか?」


 男が手を翳すと空間が歪む。その歪みに手を突っ込んで何やら玉のような物を取り出した。


「な!? 空間魔法か!?」


 ジャック爺さんを筆頭に魔法に詳しい騎士達も顔に驚きを張り付ける。だが、彼らの驚愕はこれで終わらなかった。


「俺は退かせてもらうぜ」


 ニヤリと笑った男は手に持っていた玉を光らせると――自身すらも発光してその場から消え失せた。


「まさか、転移魔法……?」


「転移魔法ってあの転移魔法? 任意の場所に行けるやつ?」


 俺が驚いている爺さんに問うと、眉に皺を寄せた爺さんが頷く。


「ええ。使い手はここ数百年いないと言われております。ましてや、転移魔法を使えるようになる魔導具など……」


 転移魔法の実態や仕組みが分からないと、その魔法を行使する為の魔導具は作れないとエリスさんが言っていた。


 だが、男は確かに転移魔法らしき魔法でこの場から消えたのだ。


「謎の組織とやらの魔法技術……。侮れぬ」


 黒幕を逃がしてしまった爺さんは拳を握りしめて、目の前にある透明な壁を叩く。


「ぶはあああ!! 助けてえええ!! ガボボ!! 助けてえええ!!」


 一方、ナリンキーと息子は何とか浮上して必死に藻掻きながら助けを請い続けた。 


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