31 王城へ帰ろう
謎の組織の奴が逃げてからすぐに王城から駆け付けた魔導師達が防御壁を解除してくれるという。
だが、中には水とプカプカと浮かぶ悪党共。このまま解除しては中の水が一気に溢れ、俺達も水浸しになってしまう。
建物の屋根に避難してくれ、と魔導師達に言われて俺達は屋根の上に。
申し訳なさを感じつつも、魔導師達が防御壁を解除する様を見学していた。
防御壁が解除されると中の水は一斉に王都へと流れ出す。大通りや路地に散乱した小さな瓦礫を流しつつ、道を濡らして下水へと流れていった。
「すいません、面倒を掛けました」
水の対処に少々困惑していた魔導師の皆さんへ俺は頭を下げて謝罪。
「いえ、お気にせず。ケインから話は聞いておりましたが凄まじいですね。これだけの水を生み出しておきながら魔力切れになってないとは」
そう褒められた。素直に嬉しい。
「でも、これって証拠も流れてるんじゃあ……?」
俺はもう一人の魔導師が呟いた言葉を聞いてハッとなる。
確かにそうだ。ナリンキーが組織のヤツとやり取りしていた証拠は屋敷の中にあったかもしれない。そうであれば、証拠も水の中。
解除したと同時にそれらも流れてしまった可能性がある。
「すいませんしたッ」
俺は素直に土下座した。
「魔獣のほとんどは討伐が完了。現在は6班と7班が魔導師部隊と共に見回りしております」
「避難所は無事です。傷付いた住民もポーションで治療済み。また、現状での死者報告は10名程となっております」
「ご苦労。引き続き警戒せよ」
俺の隣では報告にやって来た騎士達がジャック爺さんに現状報告を行っていたが、指示を出してこちらを向くと俺が土下座しているもんだからギョッとなっていた。
訳を話せば笑って許してくれた。心が広い。
「ナリンキーは気絶しただけで生きておりますからな。奴から聞けば良い事。吐かせてみせましょう」
事を起こしたナリンキーにブチギレているのか、ジャック爺さんの笑顔は少しだけ黒かった。
「それに、彼からも話を伺えば良い」
ジャック爺さんが顔を向けた先にいたのはキース。
確かに彼は重要参考人となるだろう。
「彼は妹が人質になってたんだ。できれば、その……」
俺はキースが罪に問われるのか、と少し心配だった。
これまで彼はナリンキーの指示で仕事をしていたのだ。黒く暗い仕事もしていただろう。
重罪で死刑なんて事もあり得るんじゃないかと爺さんの顔色を伺い見たが、俺を手で制したのはキース本人であった。
「私の知る全てをお話します。罪に問われるのも覚悟しております。ですが、妹だけは、どうか……」
「お兄ちゃん……」
頭を下げるキースの腰に縋りつくリースちゃんは不安そうな顔を俺達へと向けた。
「リースちゃんの事は王様に掛け合う。キースの事も」
罪は罪だ。
だが、彼は俺達に協力してくれた。ならば、少しは刑も軽くなるじゃないだろうか。
そこら辺の事情をしっかりと話せば、王様も無碍にはしないと俺は思う。
「話を聞かねば分かりませんが、身内を人質に取られていたのです。情状酌量の余地はあると思いますぞ」
ジャック爺さんも同じ想いのようだ。
私も王へ直々に事情を話すと言ってくれた。頼もしい。
「とにかく、我らは一度王城へ戻りましょう」
「そうですね」
何にせよ、一度王城へ戻らなきゃ話にならない。
「誰かマントを」
爺さんがそう言うと、騎士から受け取ったマントをキースへ差し出した。
「これで腕を隠すか?」
魔獣憑きの力を抑える魔道具――手袋はゴタゴタの合間に紛失。キースの腕は目立つし、王城へ行けば奇異の視線に晒されるだろう。
きっと爺さんなりの気遣いだったと思う。だが、本人は首を振ってマントを受け取らなかった。
「いえ。私の責任もあります。このままで」
騒動の一端を担っていた責任を感じているのかもしれない。
「なら、俺の隣にいてくれ」
「え?」
「説得したのは俺だから。それに、仲間になってくれたんだ。じゃなきゃ、俺は組織に捕まってたよ」
俺はしっかりとキースの目を見て言葉を続ける。
「キースが悪い訳じゃないと俺は思う。それでも責任を感じるなら、俺も背負うよ。変えてみせるって言ったからね」
俺はケツから剣と魔法が出るけど、この世界では英雄という存在だ。そんな立場を利用するのは悪くはないだろう。
俺の隣を歩き、仲間ですアピールが出来れば少しは印象が良くなる……かもしれない。
傍にいれば王様ともすぐに会えるしね。
全て憶測でしかないが、今俺に出来る事はこれくらいしかない。
「……ありがとうございます」
俺の言葉を聞き、少し呆けたように口を半開きにさせていたキースは我に返ると頭を下げてきた。
律儀な。そういえば、彼は執事服を着ている。ナリンキーの家で執事の仕事もしていたのかもしれない。
「いやいや。俺の執事をしてもらうって言えば王様も納得するかも~? はははっ」
俺は場を和ませるように言った。
「精一杯、務めさせて頂きます」
そんな発言をキースは真に受けたようで、深々と頭を下げる。
え、マジ?
「ふむ。英雄殿がそう言うのであれば、実現するかもしれませんな」
後で爺さんに聞いてみると、俺の発言や決定権は王も無碍には出来ないようだ。
なので、俺が執事にしたい~と言った事でそうなる可能性は高いようで。
キースの人生を狭めてしまう結果になってしまった……。
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城に戻ると城を守護していた近衛兵や魔導師達に出迎えられる。
そのまま王城の中へと連れて行かれ、王のいる場へと案内されてしまった。
廊下を歩けば俺の隣にいるキースへ向けられる視線が多い。
メイドや貴族はヒソヒソと話し、一様に話題は「魔獣憑きが」という内容ばかりだ。
魔獣憑きという存在は本当に彼の言う通りなのだと初めて知った。
「………」
「お、お兄ちゃん……」
本人も視線に気付いているだろう。横を歩くリースちゃんを気遣いながら、顔を俯かせつつ歩く。
「いや~! でも、キースがいなきゃ俺はやられてたよなぁ!」
俺は大きな声でそう言いながら、キースの背中を軽く叩いた。
「助けてくれて本当に助かった!」
俺の言葉が廊下に響き、ヒソヒソと話していたメイドや貴族達の話題が変わった。
「ユウキ様……」
「事実じゃん。俺を助けてくれたろ?」
俺は笑顔を浮かべてキースを見た。俺の笑顔はキマってるかな?
「ユウキ様ッ!!」
最高にキマっている(と思う)笑顔を浮かべてキースの顔を見ていると、廊下の先からは大天使様の声が。
ふふ。今、最高にキマっている顔を彼女にも向けようじゃないか。
「アリアちゃ――おひょ!?」
向けました。向けましたが、アリア大天使様が一瞬で視界から消えた。
そして、俺の胸へと飛び込んで抱き着いているじゃありませんか。
「ユウキ様! お怪我は!? お怪我はありませんか!?」
「お、おひょ!? おひょーう!?」
マズイですぞ! 大天使様から漂う良い匂いがボクの鼻孔を擽っていますぞ! しかもボクのお腹辺りには柔らかぁい……。
「顔、めっちゃキモ」
ロザリーさんのドン引きした顔が視界に入るが、俺は別の意味でキマっててそれどころじゃなかった。




