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28 裏側


 王都の混乱が起きる少し前。ユウキが本屋へ出かけてから少し後。


 アリアは昼から行われる貴族の子らと簡単なパーティに出席する予定があり、その為にドレスへ着替えている最中であった。


(面倒ですね……)


 正直に言って彼女は乗り気じゃなかった。


 というのも、王族派と呼ばれる派閥が王城に集まって王と会議をするのが今回のメイン。


 ついでに王族派の次期当主である子供達も集めて親睦を深めさせよう、と。そこへ是非ともアリア姫もご参加下さい、と。


 あわよくば息子が姫の心を射止められれば――そんな狙いが含まれている。


 アリアの親であるアルフォンス王もその意図は理解しているが、味方である王族派を蔑ろには出来ないといった具合。


 申し訳ないが出席してくれ、と頼まれてしまったのだ。


(私もユウキ様とお出かけしたかった……)


 相手の顔色を伺うパーティーなんぞつまらない。それならば、ユウキの訓練風景を見ている方が100倍面白い。


 それくらいにアリアの心の中にはユウキという青年への想いが満ちていた。


 彼女は何度目かのため息を零し、着替えを手伝うロザリーが見ないフリをしつつもドレスを手渡す。


「姫様。こちらを――」


「失礼します!」


 そんな時、着替え中でありながらも慌てた様子で部屋へと入って来る2人の女性近衛兵。


「姫様が着替え中ですよ! 何事ですか!」


 ロザリーは突入してきた2人の女性近衛兵を睨みつけるが、近衛兵達も退くことはなく。


「申し訳ありません! ですが、緊急です! 王都内に魔獣が出現しました!」


「なんですって!?」


 着る前であったドレスで体を隠しつつも、女性近衛兵から聞かされた事実に驚愕の表情を浮かべるアリア。


「お父様は!?」


「ハッ。既に報告が行っております。執務室にて指揮を執るかと」


「姫様。動きやすいお召し物を。念のために、王の元へ移動致します」


 ロザリーが新たに手渡した洋服を受け取り、素早く着替えようとしたところで――


「はい。……あ! ユウキ様! ユウキ様が外に!」


 アリアの顔はみるみる青くなっていく。



-----



 会議室で報告を聞いたアルフォンス王は王族派の貴族達を守るよう近衛兵に言いつけ、そして自分の執務室へと戻った。


 執務室前には既に騎士団長のジャックと宰相であるリーベルがおり、アルフォンスは執事が開けた執務室のドアを潜りながら問う。


「状況は」


「ハ。既に騎士団魔獣討伐隊の2班と3班が動いております」


「併せて御庭番も情報収集に動いております」


 ジャックが応え、続いて灰色の髪をしたリーベルが続く。


 アルフォンスはソファーに腰を降ろしながら顎に手を添える。


「どう思う?」


「御庭番の報告が来るまで正確には分かりませんが……前のクリムゾンベアーと同じ匂いがしますな」


「私も同意見です。2日前に受けた報告では下水の不備は無かったと。門も城壁にも兵がおります。それなのに、王都内へ現れた。それも数が多い」


 ジャックとリーベルがそれぞれ推測を述べる。ジャックは長年培った戦士の勘。リーベルは手元へ来ていた報告書と資料を基に。


「やはり転移魔法か……?」


 古の技術を使っているのか? そんな考えが脳裏に過る。


 コンコンとドアがノックされ、アルフォンスが応えると入室してきたのは王城勤務の執事を統括する執事長のヨハン。


 白髪交じりの金髪をオールバックにし、王であるアルフォンスよりも歳は上。であるにも拘らず、歳を感じさせぬ程の真っ直ぐ伸びた背筋は流石は王付きの執事であり、執事達の長と言うべきか。


 しかし、彼は執事長という役職に就いているわけではない。彼こそが執事長でありながらも御庭番の長をも務め、王国を影から支える立役者。


 執事という職に紛れながら城内外の情報を探る組織が御庭番だ。王が飼う、情報部隊と言えよう。


「陛下。情報が手元に参りました」


「話せ。どうなっている?」


「ハ。部下からの報告によれば、王都に出現した魔獣はE~Cランクの魔獣が100程度。既にハンターギルドも討伐に動いております」


 ヨハンが部下から受けた報告によれば王都東側から魔獣が出現。そこから散開して既に王都全域に魔獣が闊歩しているという。


 王都にあるハンターギルド本部の人員が騎士団と一緒に駆除を開始。だが、状況はあまりよろしくない。


「そうか。ユウキ殿はどうだ? もう城に戻ったか?」


 王が問うと、ヨハンは少し顔を歪める。


「それが……。王都西でユウキ様が魔獣と交戦を開始したとあります」


「なんだと!?」 


「くっ! まだ彼は!」


 万全じゃない。


 確かに英雄としての素質は十分にある。だが、まだ完全には至っていない。


 報告を聞いたジャックはすぐに部屋を飛び出しそうになるが、そこで飛び込んで来たのはフード付きのローブを纏い、顔には仮面をつけた者。


「火急にて失礼! 陛下、英雄様が敵勢力と思われる相手と交戦を開始! また、東からやって来る魔獣の数が多く、ハンターと騎士団が圧されております!」


「なんだとッ!?」


 飛び込んで来た者の正体は御庭番の実働部隊。


 彼の報告によれば、西では英雄が敵勢力の一味と交戦。東では魔獣が更に現れて圧されているという。


「クッ……!」


 西と東。どちらも捨てられない。


 西にいるユウキを蔑ろにすれば彼の身が危ない。東を手薄にすれば国民を害されながら王城まで手が伸びる可能性がある。


 この場にいる全員が共通の考え抱くが、一番に口を開いたのはやはり王であった。


「……ユウキ殿の近くに御庭番はいるか!?」


 アルフォンスの問いにヨハンが頷く。


「はい。2名付けております」


「よし、情報収集よりもユウキ殿の守護を優先する。彼のいる場所に御庭番を増員させよ!」


「ハッ。かしこまりました」


 ヨハンは部下に指示を出し、彼を見送る。


 その間にアルフォンスはジャックへ指示を出した。


「ジャック。お前は騎士団と合流して東を鎮圧せよ」


 現在、王都にある最大戦力は騎士団長のジャックだ。


 まだ未熟なユウキは範囲外。故に、ジャックが東に溢れた魔獣を討伐指揮しなければ王都が瓦解してしまうだろう。


 王の判断は英雄よりも王都を優先。そう取られてもおかしくはない。


「……承知しました。すぐに出ます」


 ジャックはユウキが心配なのだろう。奥歯を噛み締めながらも己の任務を全うすべく、執務室を飛び出して行った。


「陛下」


「大丈夫だ。大丈夫だ! 彼ならば……!」


 未熟な英雄なれどクリムゾンベアーの攻撃を耐えた。ジャックの報告では耐久力には目を見張るモノがある、と聞いている。


 人間よりも遥かに凶悪な魔獣の攻撃を耐えたのならば、人の攻撃は耐えられるだろう。


 そう自分に言い聞かせるように叫ぶ。


 だが、彼の元には御庭番も向かわせたのだ。蔑ろにはしていない。


 現状で取れる最善がこれである、と王は決断した。


「英雄に何かあれば、私が責任を負う」



-----



 王族の守りを近衛に任せ、王城に残していた騎士団を率いて王都東へ出向いたジャックは現場に到着するとすぐに的確な指示を下す。


 そして、自らも剣を抜いて前線へと駆けた。


「邪魔だァァァッ!」


 クリムゾンベアーを屠った時と同じように得意の炎魔法を剣に付与し、鬼人の如く魔獣を狩る。


 その姿を見た騎士団の者達はゴクリと喉を鳴らし、仲間であるジャックに恐れをも抱く。


 ハンターギルドの者達も同様だ。


 だが、若い頃からジャックをよく知るギルド長は高らかに笑って「勝ったな」と言葉を漏らした。


 ジャック達が魔獣を次々に狩っていき、もう鎮圧されそうな頃に後方に見えるはナリンキー伯爵。


 武装した彼は騎士団王都警備部隊の鎧を纏った者達を率いて姿を現した。


「さすが騎士団長ジャックと言ったところか」


「ナリンキー伯爵! 貴様が犯人か! それに貴様らも!」


 ジャックはナリンキー伯爵と彼に付き添う警備部隊の者達を睨みつけた。


 今回の主犯はナリンキー伯爵で間違いない。だが、王都警備部隊の者達も王を裏切った様子。


 王都警備部隊には貴族の子弟が多い部隊であるが、裏切った彼らはナリンキーも所属する反王派と呼ばれる派閥に組する貴族の子弟達だった。


「そうとも。王族を皆殺しにして、私が王座を頂く」


 そう言ったナリンキーは手鏡のような物を懐から取り出すと、それをジャック達の方へ投げた。


 地面に転がった手鏡は虹色の歪みを見せると、その場にはAランク魔獣のキングアントクイーンという巨大な蟻の魔獣の姿が。


「これは……! クリムゾンベアーの件も貴様の仕業か!」


 訓練中に突如現れたクリムゾンベアー。これと同じ手か、とジャックは察する。


「はっはっは! そうさ! あの御方達に出資して、力を得た私は無敵だ! やれぇい!」


 ナリンキーがジャック達目掛けて手を翳すとキングアントは連動するように動き出す。


(魔獣が指示を聞くのか!? いや、今は考えている場合ではない!)


 今すぐこれを倒し、ユウキの加勢に行かなければ。ギチギチと鋭い歯を鳴らすキングアントクイーンを前に、ジャックは少し焦りを滲ませた。


「弓使いと魔導師は援護して足止めしろ!」


 すると、後方からは聞き覚えのある叫び声。声の主は友人であるハンターギルドの長だった。


 彼の叫び声から僅か2秒後、キングアントには雨のような矢と魔法が降り注ぐ。


 騎士団に負けず劣らず、相変わらずギルドの戦力も確かなものか。ジャックがそう確信するには十分な量の攻撃にキングアントは苦悶の鳴き声を轟かせる。


 足止めは十分。一撃を見舞ってやろうか、といった時に、


「オラァァァッ!!」


「騎士団長だろうが、この数ならよォォォ!」


 キングアントの横をすり抜けて突撃して来たのは裏切り者の警備部隊達。


 彼らは怒声を上げながらジャックへ殺到するが――彼らの剣はジャックまで届かない。


「団長! 行って下さい!!」


「ぐぬぬ! 俺達が防ぎます!」


 ジャックをフォローするように前へ出たのは新人の騎士達。それは以前にユウキと共に訓練へ参加したラッチ達であった。


 彼らは警備部隊の者達を押し止め、ジャックがキングアントを討つ道を開いてみせたのだ。


 新人騎士達の奮闘を見たジャックは笑みを浮かべる。


「なんとも、騎士団の未来は明るいではないかッ!」


 思わぬ成長を遂げた新人達。彼らの作った道を駆け、ジャックはキングアントに肉薄すると、上段に剣を構える。


「エリオス剣術の極意は天より降る一刀……!」


 2代目英雄 多田義一(ただよしかず)が伝授したというエリオス剣術においての極意にして必殺の一撃。


 上段に剣を構え、天より振り下ろす渾身の一撃。


 基本の振り下ろしにして極意。


 基本を極めた一撃こそが剣の真髄。


「ぬうううんッ!!」


 エリオス剣術の極意と己の得意とする炎を纏わせた炎剣の合わせ技。


 一筋の煌めきを輝かせ、ジャックは一撃でキングアントを一刀両断してみせた。


「だ、団長やべえ……」


「あれが団長しか使えないっていうエリオス剣術の必殺剣なのか!?」


 ジャックによる本気の一撃を初めて見る者達は目を点にして口をパクパクさせる。それは騎士団もハンター達もまた同じ。


 そしてギルド長だけが「まだまだ現役かよ」と笑っていた。


 程無くして裏切りを犯した警備部隊の者達は全て捕縛される。


 だが、その中にはナリンキー伯爵の姿はない。キングアントを屠った直後、警備部隊を囮にして逃げたようであった。


「ここはギルドに任せて、我々は西へ向かう!」


 こうして東の混乱を鎮圧したジャックは英雄と合流すべく向かって行った。



-----



 王が決意してから1時間後。再び御庭番の者が執務室を訪れる。


「陛下。裏で糸を引いていたのはナリンキー伯爵でした。彼は外部の組織と協力して王都転覆を企てた模様」


「そうか。奴を追っているな?」


「はい。東で魔獣と共に王城を目指していたようですが、ジャック騎士団長の奮闘により敗走。屋敷方面へ逃げましたが、仲間が追っております」


 何とか東は片付いたようで、アルフォンスの懸念が1つ解消された。


 残るは英雄の動向であるが……。


「英雄ユウキ様は敵の一味と思われた者を仲間にしました。仲間にしたのは魔獣憑きの者です」


「え?」


「その仲間にした者と一緒に裏切った警備部隊の者をぶっ飛ばしました。現場にいた御庭番も周囲にいた魔獣を狩ってフォローするくらいしか出番が無かったようです」


「そ、そうか……」


 アルフォンスは目頭を揉む。一瞬だけ脳が処理に追いつかなかった。


 魔獣憑き? 仲間にした? 相手は敵の一味だったんじゃないの? と脳の中でぐるぐると回る。


 だが、無事なのは確かだ。それにジャックとも合流できるだろうし、これで全ての心配事は消え去った。


 目頭を揉み終えたアルフォンスは再び御庭番の者へ鋭い目線を向ける。


「引き続き、ユウキ殿とジャックに数名の御庭番を配置させつつ、ナリンキーを追え。聞きたい事は山ほどあるからな。奴を逃がすな」


「ハッ」


 御庭番の者が退出するとアルフォンスは室内にいた宰相リーベルと執事長ヨハンに顔を向ける。


「リーベルは同盟国に連絡をする準備をしておけ。ヨハンは事が終わり次第、全てを纏めて報告書を提出しろ」    


「「 承知致しました 」」


 ナリンキーの後ろに何かがいる。国を脅かす何かが。 


(組織とやらの存在が明らかになったのだ。同盟国にも早急に知らせねばなるまい)


 アルフォンス王はこれから謎の組織が起こすであろう事態を推測しようにも、情報が足りない。


 王は腕を組みながら眉間に深い皺を作った。


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