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25 謎のイケメン現る


 俺が慌ててトイレから飛び出し、店からも飛び出すと街は酷い有様だった。


 大通りには例のウサギがピョンピョンと飛んでいるし、狼型の魔獣も店に残っていた肉を食い散らかし、虫型の魔獣は家の屋根によじ登っていたり。


 とにかく視界の至る所に魔獣がいる状態だ。


「なんで街に魔獣が……」


「早く逃げろ!」


「東側の避難所に行くんだ!」


 店から出た場所で周囲を伺えば住民達は必死の形相で俺を追い越していく。


「おかあさーん!」


 小さな子供の声が耳に届き、そちらの方向へ顔を向ければぬいぐるみを抱きしめながら泣きじゃくる女の子が。


 そして、彼女の背後には餌を見つけたとばかりに涎を垂らす狼型の魔獣が低い唸り声をあげていた。


「まずい!」


 俺は慌てて剣を抜き、女の子の元へと走る。


「ガァァ!」


「ぐっ!」


 間一髪。


 女の子の背後から飛び掛かった狼の口に剣の腹を差し込む。


 狼の口からは鋭い牙が見えるが、頑丈な魔剣は噛み砕けず。


「誰か! この子を連れてってくれ!」


 俺は狼を押し込みながらも逃げて行く人へと叫ぶ。


「わかった!」


 振り向けないので誰かは分からないが声からして男性だろう。


「ふんッ!」


 女の子がいなくなったであろうと予想しながら俺は空いている片手に腕に魔力を込めて、狼の顔面を思いっきりぶん殴る。


「ギャンッ!」


 力加減が分からなかったのもあるが、込めた魔力は結構多かったらしい。


 狼の顔の骨を粉砕する感覚と丁度当たった眼球が瞑れる感覚が俺の拳に伝わった。


 すっごい嫌な感じ。素手だからってのもあるだろう。


 いきなり活躍したピンポイント身体強化のおかげで拳は無事だが、この感触は慣れそうにない。


 倒した狼型の魔獣は確かEランクの魔獣だ。最低ランクの魔獣ならば前に行った討伐訓練のおかげか難なく倒せるが……。クリムゾンベアーのような大物が出たら手に余るのは確実。


 俺が身構えながら取るべき行動を考えていると、側面からあの忌々しい気配を感じた。


「あぶねッ!?」


 シュッという風を切る鋭い音。


 音が通り抜けて行った方向を見れば、例のウサギがいるじゃないか。


「お前だけは油断ならん!」


 ウサギの攻撃は鋭いが攻撃には溜めがある。貴様の攻撃は魔獣訓練で知り尽くしておるわ!


 俺は容赦無い一太刀でウサギの頭を粉砕する。


 剣で切るんじゃなく、押し潰すような攻撃を加えてしまってグロテスク極まりないが仕方ない。獣を狩るという嫌悪感がとてつもない。だけど俺は死にたくない。


「こいつらどこから湧いて出たんだ……?」


 そもそも街に魔獣が出るってのが不自然だ。


 街の入り口は兵士が守っているし、街を囲む城壁にも常に兵士がいて周辺を監視している。


 外から魔獣が街の中に早々入って来れないようになっているはずだ。


 エリオス王都には下水道もあるが、そちらも兵士の巡回対象になっているはずだし、下水の出口には魔獣が入って来ないような設備があるとアリアちゃんの授業で聞いた。


 対策用の設備が壊れて街の中に入って来たとしても……こんなにウジャウジャ入ってくるだろうか。


「今は考えている場合じゃないな」


 こんな騒ぎだ。街に魔獣が現れた報告は既に城へ届いているだろう。


 王都の騎士団が鎮圧に動いているかもしれない。それに合流すべきか。


 でも、その前に……。


「誰か、いますかー! 動けない人、いますかー!!」


 俺はありったけの大声で周りに逃げ遅れた人がいないか叫ぶ。


 ………。


 返答、ナシ! ヨシ!


 俺も城に戻って騎士団と合流をしよう。


 そう思って体を反転させると――俺の背後に一人の男性が立っていた。


 茶色い長い髪を後ろで結い、執事服を着ている。何故か片手だけしか白い手袋を着用していない。


 顔は……イケメンだ。


「貴方も逃げ、おボォ!?」


 逃げた方が良いですよ、と言おうとしたら相手から返って来たのは返答じゃなくパンチである。


 彼のパンチは俺の腹に直撃し、俺は無様に地面を転がった。


「い、いてぇ……」


 不意打ちの本気パンチ。マジでいたい。骨折れたんじゃないのってくらい痛い。昼飯食う前で良かった。


 というか、何でパンチ!?


 俺は慎ましく生きているはずだ! イケメンに恨みを抱かれる筋合いなんてねえ!


 ………。


 アリアちゃん関係? 学園で発足された『アリアちゃん親衛隊』とかそんな組織の方でしょうか?


「さすが英雄ですね。手加減した一撃では意識を刈り取れませんか」


 い、今ので手加減っスか? 殺意、乗ってないんスか?


「ゴホ、ゴホ、オエエ……な、なにヤツ!」


 俺は胃液をまき散らしながらも精一杯の虚勢を張った。ここは大事だろう。効いてないアピールは無理だが。


 とりあえず何者かは聞きたい。


 まだ公表していない俺の事を英雄と呼んだんだ。内情に詳しいのだろう。アリアちゃんや王族を狙っているヤツなら……。


「貴方を連れて来るよう命じられました」


 俺じゃん。


 アリアちゃんじゃないじゃん。


「なぜ、俺を……?」


「貴方が英雄だからですよ」


 答えになってねえ!


 あれか? 英雄の剣が狙いか?


 どちらにせよ、捕まる訳にはいかないだろう。


「捕まえた後で実験するそうですよ。最終的には殺されるでしょうけど」   


 なんでそれ言った!? ますます捕まる訳にはいかねえじゃん! 


「生憎、逃がす事はできません。助けが来るまで必死に抵抗する事をオススメします」


 そう言うと執事服のイケメンは再び拳を構えて俺へと突っ込んでくる。


「ぐぅぅッ!」


 咄嗟に剣の腹で拳を受け止めたが……イケメンの放つ救い上げるような二撃目が俺の腕を捉え、直撃を受けた腕からはメキッと悲鳴を上げた。


 踏み込みの速度、それにこの攻撃の重さは身体強化か!


「腕、ヒビが入りましたか?」


 たぶん、正解です。


 俺は痛みの走る右手に身体強化をかけてイケメンを押し返す。


「本気でやらないと終わってしまいますよ」


 イケメンはそう言いながら再び拳を()()()()と構える。


 俺は身体強化を維持するべく集中しながら相手の挙動を観察するが……。


「アガッ!?」


 目に見えない程の速さで肉薄され、脇腹へ一撃入れられる。


 胃が体の中でせり上がって喉から飛び出しそう。目もチカチカして意識が飛びそうになるが、グッと耐えた。


 だめだ。相手の動きを追うなんて芸当はできん!


 ならば、全て受け止めるしかない!


「土鎧マン!」


 俺は叫ぶ。全身に土を纏わせ、堅牢な鎧を作り出した。


 どうやらイケメンも俺の立派な鎧に驚いている様子。ククク、殴れば君の綺麗な拳が傷ついちゃうぞォ!


「魔法陣無しでの魔法ですか……!」


 着目点が違った。そっちか。


 魔法陣はあるんですよ。ケツの前にね。


「ですが、それでは動けないでしょう!」


 再びボディを殴りに来るイケメン。だが、俺の目論見通りに拳は土鎧を砕けない。


「動けずとも、来た所を斬れば良い!」


 俺はその場で剣を振り下ろす……が、俺はここで躊躇いが生まれた。


 俺は人を斬れるのか?


 意思疎通が出来ずに殺意マックスで飛び込んでくる魔獣ならまだ平気だ。多少の嫌悪感はあるが……。


 だが、今目の前にいるのは同じ人間。人だ。


 俺は彼を斬って、万が一殺傷したとしたら……。俺は殺人を犯した事になるのだろうか?


「遅いですね!」


 そんな事を考えていたせいか、躊躇いのある斬撃はいとも簡単にバックステッポゥで避けられる。


 迷いのある剣筋でシャカシャカと剣を上下に動かす俺。


 そう、俺は迷えるブリキのオモチャだ。


「防御力は高い。ですがッ!」


「アパッ!?」


 イケメンの拳はメキョッと俺の顔面を捉えた。


 そうだ。顔面はさすがに土で覆えない。覆ってしまえば息ができないレベルで密封されてしまう。


 フルプレートメイルの兜みたいな造形に出来れば良いが、それには魔力操作が必要だ。


 簡単な便器は作れるが、俺にはまだ兜を作る為の魔力操作力が足りないのだ……。


「やるじゃない」


 俺はニコッと笑って虚勢を張って見せた。露出している顔へのダメージは甚大だ。鼻が曲がった気がする。俺のブサメン度が加速した。


 俺は鼻血を出しながら気合を入れる。


 だが、このままではいずれやられてしまうだろう。でも、なるべく人は斬りたくない。何か策はないか。


 そう考えながら1発、2発と顔面への強打に耐えながら剣の腹を相手に見せながら防御の構えを取る。


「意外としぶといですね……!」


 イケメンは再び拳を構え、踏み込んで……そうか!


 俺は咄嗟に思いついた技を使おうと決意する。タイミングは図らずとも良い。今すぐだ。


 イケメンが俺の目の前に肉薄した瞬間、


「パージ!」


 俺は纏っている土鎧を弾くように開放する。


「なっ!?」


 パンッと弾かれるように土が飛ぶとイケメンは腕で顔面を防御した。


「それだァァッ!」


 俺は踏ん張った右足に身体強化を施し、イケメンの脇を潜り抜ける。


 そう、早朝訓練で試したすれ違い魔法発射だ!


「ウォーターボッ!」


「あぐっ!?」


 すれ違いざまにケツから水の弾をイケメンの背中へ発射。彼の口から初めて悲鳴が上がる。 


 火はさすがにマズイだろうと考え、水の弾を選択したが……大丈夫かな? ガチの対人戦は初めてなので威力の調節が……。 


 恐る恐る振り返ると、全身水浸しになったイケメンは腕と膝を地面についていた。


 水圧で背骨が折れたり……はしていないようだ。


「く、やりますね……! 巧みに魔法を使うとは……!」


 彼は苦悶の表情を浮かべながら俺を見た。まさかケツから出たとは思いもしない様子。


 結構全力で魔法を撃ったがまさか動けるとは。


 俺のような半人前英雄が手加減なんてするのは数十年早いという事だろうか。


 しかし、ここはチャンス。


「悪いがここで逃げさせてもらう!」


 俺はスタコラサッサと逃げようと決めた。


「おい! 何をしている! まだ捕まえていないのか!」


 イケメンに背を向け、今にも走り出そうとした瞬間に響く叫び声。


 これは増援だろう。間違いなくそう。逃げられないパターンだ。


 内心で冷や汗を掻きながらも振り向くとそこには5人の騎士。


 中央に立ちながら騎士を率いる者はどこかで見た事がある顔だった。


「あんた、どこかで見たような……」


 確か、ボヤンキー?


「ボンザ様……」


 ボンザ?


「何をしている! 薄汚い小間使いめ! さっさとそいつを捕まえろ!」


 煌びやかな貴族服の中から膨らむ腹。偉そうな声。


 どこかで……必死に思い出す。


「さっさとコイツを捕まえて、アリアを抱きに行くんだからな!」


「あー! アンタ、あの時の!」


 こいつはアリアちゃんと買い物した時にいたヤツだ!


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