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23 魔法を教わる


 とりあえず聖なるローション改め『効果3倍聖水』は効能を検証しようという事になって、魔法技術部預かりとなる。


 幸いにも先代が作った聖水はまだストックがあるようなので、検証を終えるまではそちらを使う事となるようだ。


 聖水騒動を終え、俺は念願叶ってエリスさんとケインさんに魔法を教わる事に。


 いつの間にか機嫌が直ったアリアちゃんと共に騎士団の運動場へ移動した。


 運動場へ行くといつも通り騎士団が訓練中であったが、先代王妃であるエリスさんのご登場となれば全員膝をついて頭を下げる。


 もちろん、ジャック爺さんも含めて。


 そこでエリスさんが訳を話せば、ジャック爺さんも同伴して問題なく運動場を使用できる次第である。


「まず、教えておきたいのは身体強化だ」


 魔法を発動する為の触媒となる杖を持ったエリスさんが、運動場の中心で俺と対峙しながらそう言った。


「身体強化は体の筋肉がある程度できてからって聞いていますが?」


 これはジャック爺さんに言われた事だ。


 身体強化とはその名の如く、自身の体を強化する。


 筋力を増強して重い物を持てるようになったり、骨が硬化して衝撃に強くなったり。


 物理で戦う者であれば基本中の基本。エリオス王国の騎士や衛兵になるにはまず身体強化を使えなければ試験すら受けられない。それだけ重要視されつつも、基本的な自己強化魔法である。


 ただ、この身体強化はある程度の筋力が無ければ意味がない。


 ゼロに何を掛けてもゼロ、という理論だ。


 召喚魔法陣を通過した俺は、女神からある程度の調整を受けた。


 だから元ブラック企業の底辺サラリーマンであろうが運動能力がアップしていたのだ。だが、それはあくまでも元々いた世界では、という話。


 この世界では元の世界に比べて素の身体能力としての基準値が高い。


 故に召喚魔法陣を通った時点でも俺の身体能力は限りなくゼロに近いイチ、といった具合だった。


 だからこそ、ジャック爺さんは『まず体を鍛えろ』と言ったのだ。


 早朝訓練に加えて毎日騎士団訓練に参加した俺は確かに筋肉というモノが付いてきた。しかし、他の騎士達に比べればまだまだと思う。


 まだ早いんじゃないか? という意味も含めてジャック爺さんをチラリと見たが爺さんは小さく頷くだけだ。


「言いたい事は分かっておる。ジャックも筋力を上げよ、と言ったのだろう。確かにユウキの体はまだまだ出来上がっておらん。だが、今から教えるのはただの身体強化ではない」


 ほう? ただの身体強化じゃない?


 何とも男の子ウケするワードじゃないか。


「通常の身体強化は己の体を満遍なく強化させる。だが、これから教えるのはピンポイント身体強化だッ!」


「ピ、ピンポイント身体強化!?」


 ズビシィッ! とエリスさんは俺の顔に指を差して高らかに叫んだ。


 すげえ! 王族の貫禄と男の子ウケするワードで期待が止まらねえぜ!


「そうだ。確かにお主の筋力はまだ弱い。だが、その筋力を魔力でこれでもかと強化してしまえば良い! 満遍なく強化するのではなく、腕だけ5倍10倍にすれば良いのだッ!」


 なんという事でしょう。


 エリスさんが提案したのは魔力による力技だったのです。 


「これは通常の身体強化よりも魔力効率が悪い。だが、ユウキが規格外な魔法総量を持っているから成せる技よ。お主の腕筋が1であっても、10注げば10になる。100注げば100ぞッ!!」


 すげえ! 宮廷魔法使い筆頭が脳筋理論を展開してやがる!


「エリス様はちょっと力技なところがあってな……」


 と、スススと近寄って来たジャック爺さんが俺の耳元で呟いた。


 爺さんの顔にはどこか哀愁が漂う。きっと昔何かあったのだろう……。


「早速やってみよ。ジャック、重い物を用意せい」


「はっ! ただちに!」


 やり方とか理論とかすっ飛ばして早速実践になった。


「あの、やり方は……?」


「ん? 筋力がアップするようなイメージをするのだ。魔法はイメージ!」


 何となくイメージが重要だってのはわかるけど、雑すぎじゃね?


 しかし素直な俺は不満を顔には出さず、筋力アップと何度も脳内で念じる。が、当然できない。


 イメージが漠然としすぎているのだろう。


(魔力で筋力を上げるって言ってたよな……)


 エリスさんの言っていた事を思い出し、俺は右腕を魔力で覆うイメージを浮かべる。


 すると、俺の腕にはケツから伸びた虹色の魔力が纏わりつく。


「ほう」


 それを見たエリスさんは興味深そうに俺の腕へ視線を釘付けにした。


「その重りを持ってみよ」


 エリスさんが指差したのは騎士が2人で運んで来た鎖で繋がった鋼鉄の塊。頭がイカれたマッド野郎に精神改造された巨漢が「ゲヘエ!」とか言いながら振り回してそうな鉄球である。


「フンッ!」


 俺は魔力を纏わせた腕で鉄球を持ち上げようとする。が、凄く重い。鉄球は少し浮いただけ。


 纏わせる魔力が足りないのか、と思い更に魔力を込める。すると、先ほどまで重かった鉄球が紙のように軽く感じて軽々と持ち上げる事に成功した。


「おお!」


「すごいです! ユウキ様!」


 ジャック爺さんとアリアちゃんの称賛を耳にして、俺はデヘヘと照れた。


「ふむ。難なくこなすか……」


 一方でエリスさんは腕を組みながら真剣な表情を向ける。


 何か問題があったのだろうか?


「アバッ!?」


 その瞬間、再び鉄球は元の重さを取り戻して地面に落ちる。ズドン、と轟音を鳴らして土煙が大量に巻き上がった。


「いてて……」


「ユウキ様、大丈夫ですか!?」


 急激に腕へ負荷が掛かった事で、腕が千切れるんじゃないかと言わんばかりの痛みが走った。


 俺が顔を顰めながら腕を摩っていると、アリアちゃんが心配そうに駆け寄って来てくれる。天使。 


「集中を切らしたな。強化が解けたのだ」


「ピンポイント身体強化は集中力を要します。それに使う魔力も多い。だからあまり人気が無い魔法なんですよ」


 エリスさんとケインさんが原因と概要を話してくれる。


 なるほど、これは確かに難しい。強化に集中しなければ効果が続かないとなれば戦闘中に使いこなすのは至難の業だ。


「しかし、これを意識せずに使いこなせるようになれば魔力操作技術は上がる。魔法はイメージが重要であるが、次に重要なのは操作力だ。どんなに強力な魔法でも効果の範囲や指向性を定められなければ宝の持ち腐れだろう?」


 確かに言う通りだ。火の弾を撃っても当たらなければ意味がない。前に飛ばそうと思っても、横に飛んでは意味がない。


「英雄様の魔力総量は規格外です。恐らく大魔法も使おうと思えば使えるでしょう。ですが、それも操れなければ意味がありません。足元で爆発すれば自分が死んでしまいますよ」


 ケインさんの言う通りだ。俺の魔法はケツから出る。これは逃れられない運命だ。


 誤ってケツから大魔法が出て、着弾点が自分の足元だったら……。俺はミンチどころか灰も残らないだろう。なんたって星を降らす魔法だってあるんだ。


 ケツから星が出て足元大爆発とかマジでシャレにならん。というか、もう意味がわからねえ。


「そうさな。これも魔力操作の練習用として教えてやろう」


 エリスさんは杖で地面をトン、と叩く。


 すると、エリスさんの頭上に小さな魔法陣が6つ浮かんで――


「いけ!」


 命令するように叫ぶと6つ魔法陣から小さな青色の玉が運動場にある案山子に向かって飛んでいく。


 放たれた青い玉はドンドンドンドンドンドン、と全て案山子に命中。案山子は胴から上が吹き飛んで壊れてしまった。


 ジャック爺さんが小さな声で「備品が……」と言っていたが聞かなかった事にした。


「これは魔法弾だ。名の如く、ただ魔力を固めた弾である。なかなか威力もあるだろう?」


 俺が頷くとエリスさんは言葉を続ける。


 因みに弾の色は人の持つ魔法適正によって変わるらしい。俺の場合は虹色の弾が出来るわけだ。


「この魔力を形にする、という工程が慣れるまで難しい。魔力操作の練習に役立つし、使えるようになれば攻撃魔法として使用できるだろう。応用すれば属性の弾も作れるようになるぞ」


 こんなふうにな! と叫んだエリスさんは頭上に10以上の魔法陣を浮かべて炎の魔法弾を連射した。


 エリスさんの見せる連射は、まるでガトリングガンのようだ。


「ふははは! この! このッ!!」


 エリスさんは運動場にある案山子を粉々にすべく連射を続ける。


 ストレスでも溜まってるのかな?


 それを見るジャック爺さんの顔面は青を通り越して真っ白になっていた。


「おばあ様、貴族夫人との付き合いが面倒だって最近は特にボヤいていたので……」


 王族は引退しても大変なんだなぁ、と痛感した。


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