目覚め
俺が眠りに落ちてから、どれだけの時間が流れたのだろう?
奏に起こされていないところをみると、そこまで時間は経っていないのかもしれない。正直に言うと、まだ寝ていたい。だが俺は今デスゲームに参加させられている。もう少しの睡眠が永眠になる可能性もゼロではない。俺はもっと睡眠を取りたいという葛藤に打ち勝ち、目を開いた。
「あっ」
「ん?」
目を開いて最初に飛び込んできたのは、灰色の天井ではなく奏の顔であった。それもかなりの至近距離。俺と目がバッチリと合った奏は、一歩も動けず固まっている。
「……なぁ、一つ聞いていいか?」
「だ、ダメです」
「なんで奏の顔がこんなに近くにあるんだ?」
俺は奏の言葉なんてお構いなしに尋ねる。距離にして十五センチ未満。それはあまりにも近すぎる距離だ。俺に指摘された奏は、頬を真っ赤に染めると慌てて俺から距離を取り……。
「え、え、え、えっと! そ、そ、その、そのですね……」
「なんだい? 素直に言ってみな?」
「えっと、わ、わたくし、男の人の寝顔を見るのが初めてでして、よく観察してみたいと思ってしまいまして……。最初は普通の距離から見ているだけだったのですが、気付いたらあの距離に……」
「ふーん、気付いたらね……。何だか俺、すごく貞操の危機を感じた」
「て、て、て、貞操の危機!? わ、わたくしはそんな破廉恥なことはしません!!」
「あっ、意味わかるんだ? おとなー」
「っ――!!」
羞恥心からか、それとも怒りからか、奏は顔を真っ赤にしながら下を向き、体を小さく震わせていた。
そして奏の手はゆっくりと、大鎌の元へと伸びていく。これ以上悪ふざけをしていると、また奏の機嫌を損ねかねない。
「さて、奏弄りはこれくらいにして……よっと!」
俺はそう言うと勢いよく、横たえていた体を跳ね起こした。やはり固い地面で寝ていたからか、体中が痛む。だが少しでも睡眠が取れた為か、寝る前まで感じていた頭痛はしっかりと癒えていた。
「なぁ奏、俺はどのくらい寝ていた?」
「……三時間ぐらいです」
奏は少しふて腐れているようだったが、俺の言葉には答えてくれた。だがその目は俺の事を冷たく見ている。少し弄り過ぎたか?
そんな考えが俺の頭に浮かんだが、取りあえずは気にしないことにする。
「そっか、見張りサンキュー。俺が寝ている間に何か変わったことはなかったか?」
「特にありま――あっ、そういえば三十分ぐらい前に、ほんの微かに衝撃音のようなものが聞こえた気がしました」
「ん? 衝撃音? 奏、衝撃音がした方向はわかるか?」
「えっとですね。確か……」
そう言って奏はその方向を指した。そこは特に扉もないただの白い壁だった。
「でもほんの僅かに聞こえただけですので、もしかしたらわたくしの聞き間違えかもしれません」
「まっ、何もないならそれがベストだ。だが一応、念の為に……な!」
俺はそう口にすると、閉じていた左目を開け放つ。奏が聞いたという衝撃音の正体を知る為に――。




