奏の弱点
「奏、そろそろ起きろ」
奏が眠りに落ちて、約五時間ほどが経過していた。俺は優しく奏の肩を揺する。
「……んー……スー……スー……」
「ふむ、起きないな。もう少し強くしなきゃダメか?」
疲れもあり相当深く眠っているのか、寝返りを打っただけで起きる気配は全くなかった。俺は肩を揺する力を少し強める。
「んー、あと五分……」
今度は少し反応があった。だが相変わらず目は開いていない。
「あと五分か。まっ、仕方ないか」
俺は反応があったことに少し満足すると、寛大な心で五分待つことにした。
そして五分が経過した。
「奏、五分経ったぞ? 起きろ」
「……んー……優くん、嘘つくから信じな~い」
未だに目を開けない奏。その言動はとても幼児化しており、なぜか俺の事を名前で呼んできた。
そして今回は、以前に嘘を吐いた俺にも多少の非はあるわけで……。
「ったく……あと五分だけだぞ?」
「はーい……スー……スー……」
再び寝る事を許可してしまった。我ながら甘過ぎる。
そして再び五分が経過。
「おら、五分経ったぞ?」
「んー……あと……」
「ん? また五分か? いい加減に――」
「五年」
「長いわー!!」
「きゃっ!?」
俺の叫びに奏は跳ね起きた。初めからこうしておけば良かったと俺は思った。そして何より……。
「奏、お前って朝めっちゃ弱いだろ?」
「えっ? そ、そんなことありませんよ?」
「嘘つけ!! 言葉も幼児化していたぞ!?」
「……さぁ次は黒羽さんが寝る番ですね! わたくししっかりと見張りをしておきます!」
奏は話題を無理矢理変えてきた。どうやら多少の自覚はあったらしい。ここで奏をからかうのも面白そうだが……。
「なぁ? なぜ奏は大鎌を構えているんだ?」
「ふふっ、それはもちろん黒羽さんをお守りする為に決まっています」
「いや、それ明らかに俺のことを狙って構えているだろ!?」
「ふふふっ、そんなことありませんよ?」
奏は大鎌を高々と構えていた。奏は笑みこそ浮かべているが、目が全く笑っていない。
それにしても大鎌を軽々と構えているところを見ると、奏もただの一般人ではないのだろう。だがそれを今ここで聞くよりも、俺は遥かに睡眠を欲していた。
「……まぁいい。俺は寝る、もし何かあったらすぐに起こせ。何事もなかったら、適当な時間で起こしてくれ」
「はい、わかりました。黒羽さんおやすみなさい」
どうやら俺がこれ以上話をしない事がわかったのか、奏は構えていた大鎌の構えを解いた。俺はそれを確認すると、先ほどまで奏が寝ていた布の上に横たわる。そこには微かに奏の温もりが残っていて、温かかった。




