衝撃音の正体
紅色の瞳が一枚、また一枚と白い壁の先を映し出す。
白い壁の先には何もない空間が広がっていたり、武器が置いてあったり、少量の食品が置いてあったりと、今まで見てきた部屋と特に大差はなかった。
「んー、今のところはおかしなモノはないな」
「そうですか。それにしても何度見ても凄いですね。透視ができる瞳とは」
「まぁ便利っちゃ便利だけど、多少のリスクもあるんだけ――ん!?」
「何か見えたのですか?」
白い壁を透視をすること七枚目。ついに衝撃音の根源らしきものを発見した。俺はそのあまりにも衝撃的な光景に表情が歪んだ。
「……あぁ、人が壁に埋まってる。いや、突き刺さっているって言った方が正しいか」
「えっ? 壁に……突き刺さっている?」
「あぁ。多分とてつもない力で壁に叩きつけられたんだろう。壁に頭から突き刺さってるよ。それも六人もな。どうやらここには本物の化け物がいるようだ」
「ば、化け物……」
「まっ、一般人からしたら透視ができる俺も、十分化け物か」
そんなことを言いながら、自嘲的な笑みを浮かべる俺。
「黒羽さんは化け物なんかじゃありません! 少しだけ目の良いただの人です!」
「ふふっ、少しだけ目の良い……か。サンキューな奏!」
俺はその言葉が素直に嬉しかった。
人間の域を超えている力を見ても、まだ人間扱いをしてくれるその優しさに、俺は確かに救われていた。
「あっ、黒羽さん! 今の笑顔すごく良かったです!」
「……そりゃどーも」
俺は何だか恥ずかしくなり、奏から視線を逸らしながら素っ気なくそう口にする。するとそれを見た奏が、上品な笑みを浮かべる。
丁寧な言葉使いに、その洗練された仕草を見ると、奏はお嬢様だったのだと容易に想像することができた。
「ふふふっ、黒羽さんも照れたりするんですね。なんだか可愛らしいです」
「う、うるせー! 別に照れてなんか――」
ズド――――ン!!!!
「っ!?」
「これは……近いな」
激しい衝撃音が俺たちの会話を遮った。僅かに部屋も揺れたことを考えると、場所はかなり近いと考えていいだろう。俺はすぐに衝撃音のした方へ視線を向ける。
すると僅か二部屋先に、あの衝撃音を生み出したと思われる化け物がいた。
「っ――なん……だと?」
「……どうしたのですか?」
「……この衝撃音、やったのは子供だ。それも小学生ぐらいの少年」
「えっ? 小学生ぐらいの少年が……ですか?」
「あぁ、これはかなりヤバイ。あの表情……純粋に人を殺すことを楽しんでやがる」
「人を殺すことを楽しむなんて……そんなこと……」
俺の左目は二部屋先の地獄のような光景を、完全に映し出していた。
逃げ惑い、少年に助けをこう大人たち。その生存者は四人。そしてすでに頭を壁に埋め、ピクリともしない女が一人。そんな女の姿を見て、少年は高々と笑っていた。それはもう楽しそうに――。
やがて少年の視線が生存者四人へと向けられる。そしてゆっくりと、ゆっくりと歩みを進め、距離を縮めていく。その表情はとても無邪気な少年の笑みが浮かんでいた。そして少年はその笑みを浮かべたまま、一人の男の腕を掴む。その姿だけを見れば、大人に遊んで欲しくて腕を取っている子供に見えるだろう。
だが実際はそんなものではない。それは腕を掴まれた男の表情を見ればわかる。男の表情は、恐怖や絶望……そんなものに染まっていた。そして少年は男を――。
「奏、今すぐここを離れるぞ。あの少年に見つかったら……きっと殺られる」
「は、はい!」
ズド――――ン!!!!
壁に向かって投げつけた。その威力は壁に人間が突き刺さるほど。まさしくこの少年は化け物だった。そして何より――狂ってやがる。俺の頭の中で、警戒音がこれでもかと鳴り響いていた。




