強い心
「確かに俺は禍々しい武器を選んだ方がいいって言ったが……それ重くない?」
「少しだけ重いですが、特に問題はありません」
奏は小柄で細身な身体に似合わず、かなりの力持ちのようだった。なぜなら身の丈ほどある大鎌を、少し重いと言う程度で持ち歩いてしまっているのだから。
確かに俺は相手を少しでも威圧できるように、なるべく禍々しい武器を選んだ方がいいと言った。だがそれでも薙刀や普通の鎌、もしくは鞭ぐらいの物を想定していたのだが……まさかノータイムでその大鎌を選ぶとは。どうやら奏は、常人と異なるセンスを持っているようだ。
「まぁ奏がそう言うならいいが……取りあえず、相手を威圧するって面では完璧だと思う。もし俺が初見で奏の事を見たら、間違いなく逃げる。小柄な少女が大鎌を持って歩いているなんて、正気の沙汰とは思えないからな」
「うぅ……正気の沙汰とは思えない……。黒羽さん、さらりと毒を吐きますね。さっきはあんなに優しい言葉をかけてくださったのに」
「俺はいい意味でも、悪い意味でも素直なの」
「素直ですか。そうですね、素直ってことは裏表がないということ。わたくしこれからも、黒羽さんのことを信じます!」
俺の事が年下とわかって、少し気が軽くなったのか、奏は言葉を詰まらせる事が少なくなっていた。それに奏は人見知りなだけであって、意外に内気な子ではないんじゃないか。俺はこの短時間でそう感じていた。
「俺たち、まだ出会って二時間ぐらいしか経っていないんだけど? 人をそんなに簡単に信じたら痛い目をみるぞ?」
「それでも、わたくしは黒羽さんを信じます! 黒羽さんはわたくしを信じてはくださらないんですか?」
「いや、奏のことは信じていいと思ってる。まぁはっきり言うと、信じるしかない。このデスゲームを生き抜くには、助け合いが必須だろう。ただ俺は昔に人を信じて痛い目を見ている。俺はもう同じ過ちは繰り返したくない。だからどうしても慎重になってしまう」
俺があの科学者の後について行かなければ……。
自分だけならまだ良かった、自業自得ってやつだ。だが俺は結愛まで巻き込んでしまった。俺が希望にすがってしまったから。俺の心が弱かったばっかりに……。
「それならわたくしは黒羽さんに、心の底から信じてもらえるように努力します」
「……なぜそんな努力をする?」
「それは、わたくし自身を強くする為。わたくしは信じていた方に裏切られて、今ここにいます」
「……俺と似ている」
「はい。わたくし裏切られて、とてもとても辛かったです。でも、一人……孤独はもっと辛かった。だから最後に、同じ苦しみを知っている方をもう一度だけ信じてみたいのです! そして黒羽さんにも、もう一度だけわたくしを信じていただきたい……!」
内気で気弱、第一印象はそう思った。だがどうやらそれは間違いだったようだ。
この女、心が強い。俺なんかよりも、ずっと。俺も奏のように強い心を持てるのだろうか?
「奏は強いな」
「わたくしは強くなんかありません。すぐに泣いてしまいますし、すぐに落ち込みます」
「だけど立ち上がれている。それは強さだ! それが奏の魅力の一つ。もっともっと磨いて、俺を惚れさせるような女になって――っ!?」
「黒羽さん、どうかしたんですか?」
「……その扉の先、誰かがいる」
「えぇっ!?」
今微かに扉が動いた、俺たちから一番遠い扉が。俺はそれを見逃さなかった。
すぐに閉じていた左目を大きく見開く。そしてその紅色の瞳で、鉄の扉の先を見極める。
「ちっ……いきなりかよ」
するとそこには、男二人が静かにこちらの様子を伺っていた。ただの男二人が、こちらの様子を伺っているだけならまだいい。だがその男たちの手には、血がたっぷりと付着した日本刀が握られていた。
はたしてその血は人のモノなのか、それとも猛獣のモノなのか。今の俺たちに知る術はなかった。




